第15話 過去の片鱗
「――ここは…?」
パッと目が覚め、身体を起こす。
「何処だ…ここ」
周囲を見ると、足元には水が張られていて地平線が周囲に広がっている。
空は…曇りはややあるが青空だ。
神秘的で、幻想的な空間なのだが…おかしいな。
俺はさっきまでファフニールのコックピットであのムカデと戦ってたはずだ。んで戦闘が終わった後…何かが見え始めてそれから…それから?
(思い出せねぇ…!あの時に何があったんだ!?)
ムカデを倒した後の記憶が全くない!
何が起きたというより何があった!?コックピットの景色がこんな神秘的な空間を作り出せるなら話が変わってくるが…
「どこまで続いているんだこれ…」
何も考えず前に進む。
もうこの時点でコックピットの領域を超えたところまで歩けたので、ここがコックピット内じゃないことは確定した。
じゃあ…ここは何処なんだ。
こんな景色見たことないし、こんな場所は知らない。
俺はファフニールのコックピットから何処かに連れてかれたのか?
「あ、そうだ!ファフニール!」
そうだ…一度、ファフニールに聞いてみよう。
もしかしたら何かしらの指示が来るかもしれないと思い、ファフニールに声をかける。
しかし…返答はない。
というより、ファフニールとの繋がりが絶たれているような感じがする。
根本の繋がりは生きている感じがするが、会話は全く繋がる気がしない。
「どうなってんだ…?」
万事休す、出来ることが無くなってしまった。
今、俺の手元にある物は何もないし、ファフニールの声も聞こえない。
「…歩くか」
とりあえず、俺は歩き続けることにした。
進み続ければ何かしらあるだろうと信じて何も考えず、とにかく真っすぐに歩き続けた。
俺が一歩一歩と歩くたびに足元に張り巡らされている水に波紋が走る。
景色の変化もなく、音も無く、ただそれだけ。
「…!」
脚を止める。
今、進んでいる方向に小さく何か音が聞こえてきた。
声じゃない。この音は何だ?
とにかく、音が聞こえる方に歩いていくと徐々に音がはっきりと聞き取れてきた。
「拍手か?」
パチパチと拍手の音が聞こえてきた。
俺が聞き取った小さな音って拍手の事だったのか。
けど…何で拍手?よく分からないまま、拍手の鳴る方へ進んでいくと。
「ん?」
急に俺の周りが暗くなったと認識したと同時に、青空は真っ赤に染まり
――ドシィィィィンッ!!!
風圧と荒波を起こしながら、何かが俺の後ろに着地した。
「くぅっ!?」
振り向くと同時に両腕で顔面近くをガードし、波と風が収まるのを待つ。
…やがて波が収まったのを確認した後、ガードを解いて着地した奴を見る。
そこには
「!!」
【カァァァァァ…】
真っ黒なドラゴンが強靭な前脚と後脚を水面につけて鎮座し、俺を見ていた。
全身が黒曜石のような鱗で覆われており、光沢が水面を通じて反射し、両翼を大きく広げ…深紅の瞳が俺を凝視している。
「何だコイツ…?」
俺の何十倍も大きい巨体を誇るのに、恐怖が一切湧かない。
それよりもコイツを見て、思い浮かぶのは…『懐かしさ』が浮かんでくる。
俺はコイツを知っている。何故だか分からないが、そんな気がした。
「…」
【…】
深紅の瞳を見ていると俺と目線が合うように、首を降ろしてきた。
曲線を描く黒い鱗に、逆方向に延びる二本の大角と獰猛な牙。
その口を開けば俺なんて一口でパクッと食えるだろう。
「お前…」
ドラゴンの鼻の部分に手を添える。
黒曜石のような鱗はやっぱり硬く、冷たい感触を感じる。
…感触があるってことは、夢じゃないのか?尚更ここは何処なんだと疑問を持った瞬間
――パチパチパチパチ!
「!?」
遠いところでなっていた拍手が急に俺の真後ろに鳴り響き、驚き後ろを振り返る。
そこには白衣を身に着けた如何にも科学者のような人たちが俺とドラゴンを取り囲んで拍手をしていた。
な、何人いるんだ!?
どういう原理かわからないが、顔に靄がかかっているかのようになっていて表情が分からない。
何故俺たちに拍手を送る必要がある…!?
一度、ドラゴンの顔を見る。困ってる、悲しんでるといった感情は感じられず無感情、何にも考えていないような感じがした。
――カチャッ。
「!!」
拍手の中で違う音が聞こえた。
すぐさま科学者たちの方を見る、そこには
「え」
俺に向けられた一丁の銃のバレル。
それを向けているのは周囲で拍手している科学者と同じ格好をしている科学者。
だが、この人だけは違う。顔に靄がかかっていない。
やや水色がかった髪が肩から滑り落ちており、整った顔立ち。
しかし…他の科学者たちとは違い俺たちに向けているのは『拍手』ではなく『銃』。
そして笑顔ではなく…何処か悲しそうな顔をしていた。
『――――』
「!?」
俺たちに銃を向けている科学者の口が動き、何かを話しているが声が全く聞こえない。
ノイズのような音しか聞こえない。
『―――、貴方は本来、存在してはいけない…でも、その命の価値を決めるのは私やあの人たちじゃない…貴方自身が決めること』
「聞こえる所がある…?」
全部が聞き取れない訳ではなく、一部だけ聞こえないだけみたいだ。
貴方は存在してはいけない?この言葉は俺に言っているのか、それとも後ろにいるドラゴンに言っているのか分からない。
『だからこそ――――…貴方自身に全てを委ねる。価値を示せ、とは言わないわ。私が願うのは貴方の今行っている行為を捨て、自分自身の罪を出来るだけ払拭し…出来るだけ人を救う事。これだけは忘れないで』
「…」
『貴方は…』
――バァンッ!!
「!!?」
急にバレルが光ったと同時に、カッと目を覚ます。
白い天井、ベッドの周りに広げられているカーテン…多分、医務室か。
身体をゆっくり起こし、両手を見る。
手首には黒い枷が付けられていて、さっきとは違いファフニールとの繋がりを感じる。
「撃たれたのか俺は…ったく、何だったんださっきの」
とても『ただの夢』では片づけられない物だった。
俺には身に覚えのない光景なのに…ほんの少し懐かしさを感じた。
何故かはわからない。
「んんー!!」
ずっと寝ていたからか身体からバキバキと音が鳴る。
近くの時計を見ると日曜日の12:24と表示されており、時間的には丸一日寝ていたみたいだ。
んで、どうするか。
目が覚めたのは良いがナースコール云々の事は何一つとしてわからないし、人を呼ぼうにも大声を出すのは気が引ける。他にも寝てる人がいたりしたら迷惑になるしな。
仕方ない、静かに誰かが来るのを待つか。
だが、身体を起こしながら待つのは腰に悪い。一旦寝っ転がって…と思っていたら
――シャッ。
「零亜!」
「うぉっ…びっくりした…」
カーテンが急に開き、明楽が入ってきた。
普通に急に開いたからびっくりしたぞ。
「目が覚めたようだね」
「まぁな…俺は丸一日、寝てたんだな」
「逆を言うと、よく一日で目覚めたね」
明楽はそう言いながらベッドの横にあった椅子に座る。
「?」
「はぁ…多分、何でとか思ってるんだろう?」
「あぁ」
「…ファフニールのコックピット内の血を拭き切るのに半日かかったからね。それだけ出血したってことだよ」
「あー…すまん」
「それは良いよ。それで?今は気分が悪いとかそういうのはない?」
「全く、全然元気」
「何でよ」
「逆に何でよ!?」
「いやさ…異常だよ。あの量の血を流してたった一日で回復するなんて」
「…回復」
「どうしたの?」
ふと、『回復』と言われて思う事がある。
俺は、生まれつきなのか何なのかはわからないが再生力が異常なほど高いと言われたことが何度もある。整備科で整備中の時もちょっとした切り傷でも数秒で出血が止まり、更に数秒立てば傷は無くなるなんてことがあった。
それにさっきの夢で見たものもそうだ。
妙に…引っ掛かる。
「零亜?」
「何でもない、というか何で明楽はここに?」
「零亜に用があってきたんだ」
「用?」
「まぁ、メインは目が覚めたのかの確認だけどね」
そういうと明楽は鞄を漁り、紙を取り出し俺に渡す。
「これは?」
「専用整備士の件の書類。昨日、学生課に聞いてきて貰ってきたから」
「え、聞いてくれたのか?」
「ちょっと話が変わってきてね、はぁ…」
すると、明楽は大変だったという感情を吐き出すようにため息をついた。
「何か、あったのか?」
「原因はこれだよ」
今度は明楽は新聞を出した。
「…新聞なんか読むのか」
「違う。医療室だし電子機器が使えないから代わりにって事。それよりも…これ」
明楽が指をさした箇所を見る。
それは新聞の表紙の約7割を占めている記事。そこには…。
「えーっと…『AT学園の新しいナンバーズか。大型オールイーターを撃破』…そんな大層な事はしていないんだがな」
「大層だよ」
「別に快進撃と刻まれるほどのことはしてないと思うけど」
「いやぁ…あれで?」
「正直、あんまり覚えてない。ずっと…戦闘に集中してたし」
ファフニールの指示に従って、リミッターを解除して、超高速演算に気合で耐えて、オールイーターを潰して…血を流しながら戦い続けた。
「それから色々あって零亜の専用整備士になりたい人が急増して、色々大変だったから」
「す、すまん…」
「とりあえず、パイロットの名前と整備士の名前が書かれた書類を提出すればそれで前の話は終わり」
「わかった、ちゃっちゃと終わらせるか…ペンは?」
「はい」
「ありがとう」
明楽からペンを受け取り、近くにあった机に紙を敷いて、パイロットの名前に俺の名前を書く。
てか、既に専用整備士の方の名前は既に『西園寺明楽』と書かれている。
…明楽の部分に修正ペンが使われている、ミスったんだな明楽。
「よし、出来た」
「後は提出して終わりだね」
「あぁ…んでいつ提出すればいい?」
「僕の方で提出しておくよ」
「助かる」
「それで最後の用事が…これ」
最後の用事と言われてもう一つの紙を渡された。
「これは…ナンバーズの書類か」
「ソフィー生徒会長に渡してほしいってお願いされてね」
「流石に加入しないとな…色々と」
「何かあったの?」
「…ほんの一瞬だけど、俺の記憶が見れたんだ」
「記憶!戻ったの!?」
明楽が驚いたかのようにベッドに両手を置いて、立ち上がり大きい声をあげた。
「完全じゃない、本当に一部だけ」
「どんなものが…?」
「…黒いドラゴン、拍手する顔の見えない科学者、俺とドラゴンを撃った悲しい顔をした一人の科学者…それだけ」
「黒いドラゴンってことは…零亜の過去はデイブレイクの原因と言われた『黒い嵐』に関係しているのかも」
「そう…なのかな」
俺の過去はデイブレイクに関係している。
ただ、あのデイブレイクに関係しているってことは…俺の居るかもしれない家族も巻き込まれている可能性があるってことだ。
無くした記憶が俺の予想通りであれば、逆に思い出したくないが…俺は見つけないといけない。
「デイブレイク、かぁ…」
「明楽?」
一瞬、明楽の顔が強張る。
「何でもない。それでナンバーズに加入するならその書類を書いて月曜日に生徒会室に出しに来てほしいって」
「分かった。ありがとう、明楽」
「じゃあ僕はこの辺で戻るよ。あとファフニールを整備するときに呼んでよ?」
「勿論」
「それじゃ」
そう言い残し、明楽はカーテンの外に出て医務室から出て行ったと同時に医者が入れ違いで入ってきた。
そして医者からは俺の症状やらなんやらの話を聞いた。
まず俺の出血量。常人なら大量出血で死にかけるほどの血を流したこと、しばらくは鉄分、タンパク質、ビタミンCを取ってくれと言われた。
次に外傷。禁忌機体の影響で破裂していた血管は全て完全に塞がっており、傷がまた開くようなことは起きないと断言していた。
最後に俺がいつ退院出来るのか。今日はゆっくり休み、明日には退院しましょうと言われた。
そんなわけで医者からの話を聞いたのち、俺はベッドに身体を預けてゆっくり休息を取った。
◇◇◇
夕焼けに照らされているある事務所の中、更衣室で一人…スマホでネットの記事を見て居る少女。
容姿端麗、眉目秀麗。
そして更衣室にあるロッカーの中にはハンガーで如何にもアイドルが着そうな服が吊るされていた。
「…黒と赤の機体…ファフニール」
スマホの画面に映っているのはファフニールの活躍。
避難所から撮影されていたのだろうかカメラはブレブレだが、ファフニール単騎で小型オールイーターを蹂躙している姿を。
「このパイロットなら…この人なら…!」
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




