第10話 生徒会への勧誘
ファフニールのコックピット内の返り血を全てふき取り、ファフニールのコックピットの操作盤や血による錆が出来ていないかの確認をしたのち、明楽と俺は疲れ果てて各々寮に戻りしっかり熟睡した翌日。
今日は土曜日。一応、授業はないが…整備科の格納庫やパイロット科の決闘場含め訓練場や操作技術向上の為のVR室などが開いている。
んで、俺はやっとファフニールの移送作業を始められる。
「おはよう、明楽」
「おはよう~…」
「寝れなかったか?」
「ううん、むしろ熟睡。ただ熟睡しすぎてもっと寝たいなって」
「なるほどね。多分、今日の移送は昨日よりは疲れないと思う」
「そう願うよ」
昨日、お互いの寮に戻るときに移送作業の話をしたら明楽も手伝ってくれると言ってくれたので遠慮なく手伝ってもらうことにした。
「全体的な整備は?」
「引っ越し準備で時間が余ったからその時にやってた」
「流石だね。という事は移送のみ?」
「その予定」
明楽と歩き、ファフニールがいる格納庫前に来たので、あとは一条先生が来るのを待つだけ。
(…遅いな)
二人で待っていると一条先生が来ると言っていた時間は優に越え、普通に10分過ぎた。
おかしいな。移送日を間違えたのかと思い一条先生に連絡しようと思ったら
――プルルルル。
「!」
丁度、一条先生から連絡が来た。
すぐさま応答を押す。
「はい、鴉羽零亜です」
『もしもし鴉羽君。今どこにいますか?』
「今はファフニールの格納庫前に居ますが…」
『ごめんなさい、移送についてちょっと問題が発生して…』
「問題?」
『移送用のカタパルトが経年劣化の影響で磁力発生装置が破損して、移送が難しくなっています』
「本当ですか…?」
マジか、あの移送用のカタパルト使えないのか。
そうなるとまた延期になりそうだなと思っていたら。
『ただ、代わりの移送手段を準備しているのでそちらでもよろしいですか?』
「代わり?」
一条先生曰く、代わりの移送手段を用意しているとのこと。
代わりになる物なんてあったか?移送のトラックは基本的にパーツや武器で使うことが多く、ARMOR一機分の重量にも耐えられないし、何よりARMOR一機分が入る面積の荷台もない。
『鴉羽君。通信端末のマッピング投影できますか?』
「は、はい」
『今、データを送りますので確認をお願いします』
通信端末のマッピングを立ち上げて、3Dマップを空間に投影する。
すると、赤い線と点がマップに刻まれた。
「これは?」
『それを説明する前に…鴉羽君、君に一つの課題を課します』
「か、課題?」
『はい!鴉羽君の操作技術が折り卓越しているのは承知の上ですが、基礎を知らないと怖いので念のため移送を含めた操作技能の一つ、移動の確認をさせてください』
「移動って言うと…歩く、飛ぶ、走るでしたっけ」
『その通りです!』
えーっと、つまり…学園内で飛べって事か。
…正気か!?操作ミスして人を潰したりしたらどうするんだ!?
「えっと、もしミスした時は」
『安心してください。既に移送作業の件は学園長に報告済ですし、着地地点の周囲には人が近寄らないように配慮していますので』
「よ、用意周到ですね…」
『では、マップを確認しながらパイロット科のARMOR格納庫付近まで移動してください!頑張ってくださいね?』
「は、い…」
なんかそのまま流されるようにとんでもないことを了承してしまったような気がしたが、それを指摘する前に一条先生との通信が切れてしまった。
「移動を含めた移送…初めてじゃない?」
「いやARMOR”sでじゃないとできない移送だからはじめてに決まってんだろ…!」
いざ改めてARMORを動かして移送するって考えるとちょっと緊張してきたな。
と、とにかく、基礎を知らなきゃ応用もできない。
気は進まないがやるしかないだろう。
「整備用ARMOR固定機器を取り外して…ファフニール」
ARMOR整備用の固定機器を端末を操作して取り外す。
完全に取り外したのを確認し、ファフニールに声をかけるとファフニールは反応し、膝をついてコックピットのハッチを開けた。
俺はそのハッチを掴んでコックピットに飛び込み、ハッチを閉めようとする。
すると
「じゃあ、失礼するよ」
「明楽!?」
突然、明楽も飛び込んできた。
あまりにも急な事に反応できずハッチを閉めてしまう。
「何やってんだお前!?」
「だってオペレーターが必要じゃない?昨日、ファフニールのコックピットを整備するときに通信機器が付けられていないことはわかってたことだし」
「それはそうだが…どんな影響が出るかわからないんだぞ?」
「別にいいよ、どうせ危なくなったら零亜はコックピットから引きずり下ろすと思うし」
「当たり前だろう…」
「それに…」
「それに?」
「…何でもない!さぁ、始めよう!」
「?」
何かぼそぼそと言っていた気がしたが…聞き取れなかったので一旦は忘れて操作に集中しよう。
「起動シークエンス、開始」
そう言うと、脳に直接情報が電撃かの如く伝播する。
「うぐっ…ふぅぅぅ…!!」
痛みは走るが、そこまでじゃない。
俺も、ファフニールに慣れてきたんだろうか。まだ3回目だけど。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫だ、まだ3回しか起動してないけどもう慣れた。血も出てないしな」
「判断基準が壊れてると思うけど」
「俺は大丈夫だけど、明楽は?なんか影響出てない?」
「特に何もないよ。情報が流し込まれるとか、声が聞こえるとかはない」
同乗者には影響が出ていないという事は禁忌機体のドラゴンスローンシステムはパイロットにしか機能しないってことか。
それはそれで助かる…のか?
「明楽、何処に行けばいい?」
「ちょっと待ってね。零亜の通信端末にインストールされたマップデータを僕の通信端末に転送してマップデータを更新して…よし。このまま整備科の格納庫から出てAT学園の外壁に付けられている垂直カタパルトに乗って上に飛んで、最大高度到達したら背面ジェットで浮遊しつつ移動後、指定箇所に着地。着地したら次の指示を出す」
「分かった」
操作レバーを動かし、マップに記された道を進み始める。
「おぉ…動いてるARMORの中ってこんな感じなんだ。衝撃とか感じないし、揺れは…若干感じるけど」
「多分、コックピット内の耐衝撃システムが古い可能性あるな」
「そういえば整備所の地下に埋まってたんだよね?」
「あぁ、結構古い機体だろうな。今日にいたるまで錆だらけだったし」
禁忌機体は錆が付くほど前の機体。
デイブレイクの日を考慮して、生産されたのはおおよそ10年くらい前。
あくまで予想で10年前と考えたら今のARMORと昔のARMORでは中身のシステムは結構進化しているだろう。
だとしても性能は禁忌の方が高いのは今のARMORはパイロットに優しくなったから、と思う。
てかそう思いたい。
「カタパルトに到着した」
「わかった、射出装置に乗り込んでスタンバイしていて」
「了解」
カタパルトの射出装置に乗り、レッグをやや曲げて、ジェットをチャージしつつ待機。
「70…90…カタパルト射出可能!零亜!」
「飛ぶぞ…ファフニール!」
最大までチャージされたカタパルトのロックを解除し、一気に上に上昇していく。
「くっ!?」
「うわっ!?」
急な上昇負荷には耐えきれず、明楽が俺の方に倒れこんでくる。
俺は明楽を抱き留めながら目を瞑って上昇負荷に耐える。
徐々に負荷が無くなっていき、ふわっとした浮遊感を感じ両目を開ける。
「おぉ…!」
両目に映る地平線や上から見る学園の全貌。
綺麗だ。普段、見たことがない景色に目を奪われる。
「ご、ごめん…」
「大丈夫だ、そっちは?」
「怪我もないよ。それよりも…すごい景色だね」
「あぁ…普段、お目にかかれない景色だ」
「っと、オペレーターが景色に見とれちゃダメだね。えっと、次はこのポイントに着地。そこまで背面ジェットとサイドスラスターで姿勢制御をしつつ飛んでいくみたい」
「分かった、しっかり捕まってろよ」
「う、うん…」
「?」
妙に明楽の歯切れが悪く感じたと同時に俺の右腕に掴まれた感触が伝播する。
コックピット内は見れないんだけどな、網膜投影でファフニールの景色を見てるし。
(次の着地地点は…あそこか)
網膜投影で見て居る景色に次の着陸地点へのナビゲーションが開始される。
何気にARMORの飛行は初めてか、ずっと陸上戦だったし。
…サポートしてくれる、か。ありがとうファフニール。
「うぐっ…!?だからって急に飛行に関連するデータや操作方法をもう一回流し込まなくたっていいって…」
また急にデータが頭の中に流れ込む。
やり方はわかってるから…まぁありがとう。ある意味、復習になった。
両手の操作レバーの背面スラスターとサイドスラスターのボタンを押し込みつつ、両足のペダルを踏み込み、姿勢制御しながら着陸地点へ飛んでいく。
◇◇◇
「何処にいるのでしょうか…?」
「やっぱり決闘場じゃないのか?事前の情報だと鴉羽はARMORに興味があったそうらしいぞ」
「ふむ…一度クラス担任の一条先生に連絡してみましょうか」
パイロット科の校舎の付近を練り歩く生徒会の三人。
ソフィー・ハント。アウローラ・ヴァルディ。八神斑琥。
目的は『鴉羽零亜』を生徒会へ勧誘するために探している。
寮に一度訪れたが既に姿はなく、心当たりがありそうな箇所を探したが…姿は無し。
一度ここで生徒会長のソフィーは鴉羽のクラス担任である一条安賀多に連絡する。
すぐさま通信が繋がった。
『はい、こちら一条です』
「ソフィーハントですわ」
『生徒会長ですか、どうしました?』
「鴉羽零亜を探しているのですが、心当たりはありませんか?もしかして外出中とか」
『いえ、そういうわけではありませんよ。今なら…ソフィー生徒会長の上を通過すると思いますよ』
「上を…?」
「どういう事」
と斑琥が言い切る前に
――ゴォォォォォッ!!
丁度、三人の上を通過する赤と黒色の装甲を持つARMOR。
「なっ…!?」
「ふ、ファフニール!?」
ファフニールはAT学園の城壁の上に着地し、周囲を見回している。
「何故、ファフニールが?」
『本来、今日はファフニールを整備科格納庫からパイロット科格納庫へ移送するはずだったのですが、移送用カタパルトが経年劣化により使用不能となり代わりの案としてから鴉羽君の基礎の動きの確認を含めた移動での移送を行っています』
「…そうですわね。鴉羽零亜は整備科からパイロット科へなりましたもの」
「だとしても、あの動きはすさまじいな」
忘れてはいけないのは鴉羽はまだARMORの基礎の操作や動きを学んだことはない。
学んだことはないが、今の空中での姿勢制御や着地をやってのけた。
基礎の動きだが、基礎の動きを知らない人間が綺麗にやり遂げた。
「となるとパイロット科のARMOR格納庫に鴉羽零亜は来るという事ですか?」
『そうですね』
「わかりました、ありがとうございます」
ソフィーは一条との通信を切る。
「ではARMORの格納庫に向かいましょうか」
「えぇ」
「しかし…禁忌機体っていうのは凄いモノなのか?ARMORの基礎も知らない奴があそこまで動かせるなんてな」
「もしかすると鴉羽零亜の操作技能が卓越しているのかもしれませんね。どちらにせよ、気になります」
斑琥とアウローラは禁忌機体であるファフニールと鴉羽零亜についての話をしはじめた。
(禁忌機体…動かし方が分かっただけであそこまで動かせるのは、禁忌機体の質が良いのか、鴉羽零亜自体の質が良いのか…)
そんな中、ソフィーは二人の会話をまとめておきつつ一つの結論を口にした。
「どちらにせよ、鴉羽零亜は使えるARMOR’sという事ですわ」
「その通りですね」
「あぁ。アレくらい強ければ『ナンバーズ』に入っても遜色ないだろう」
◇◇◇
「ふぅっ…!!あぁ…付いた」
「はぁ…気持ち悪い」
何とかARMORの格納庫の前に付いた。
付いたんだが…。
「耐衝撃システム…調整しなきゃな」
完全に衝撃を逃がせておらず、飛んだり跳ねたりした結果…割とコックピット内が揺れて俺も明楽もARMORの中で酔った。
着地するたびに上がってくる感じが、本当にヤバいなって思った。
「ちょ、ちょっと空気…吸おう」
コックピットのハッチを開ける。
ずぉっと外の空気が中に入ってきて、空気が循環する。
「おぉぉ…!空気が澄んでるね」
「だな。あとあんまり前に出すぎるなよ?」
「分かってるよ」
忘れてはいけないのはまだファフニールは立ったままだ。
こんな高さで飛び降りたりしたら死ぬ。
あくまで今は空気を吸うだけだ。吸うだけ吸ったら格納庫の中に入って俺の格納スペースにファフニールを入れる。
本当は格納庫前にファフニールを待機させるだけだったんだが、急遽マッピングのナビゲーションが変わったから中に入れる事になった。
「…よし、落ち着いた。明楽は?」
「わ…じゃなくて、僕も落ちついてきた」
「今何か言いかけなかったか?」
「気のせいだよ」
とりあえず明楽も落ち着いたようなのでハッチを閉めなおし、格納庫内へファフニールを進めていく。
(…今言いかけたよな、何かを)
先程、明楽が何かを言いかけたのを俺は聞き逃さなかった。
けど、本人が気のせいって言ったってことはあまり踏み込まない方がいい話題って事だろう。
ならこれ以上聞くのは野暮だな。
ーーー
何とか俺の格納スペースにファフニールを収納することができた。
これにて移送作業終了。肉体的な疲れよりも、精神的な疲れの方が勝っている。
「はぁぁぁぁ…疲れた」
「お疲れ様、やっぱり大変?」
「まぁな…肉体的な疲れよりも精神的な疲れがさ」
「初めて学内のトラックを動かしたアレみたいな感じかい?」
「あー…確かにそうかも」
思えば初めてトラックを動かしたときと似たような緊張感があった。
こう…やべぇ、コイツを動かしていいのか?みたいな不安と似ている。
「しばらく、ファフニールはここでお休みだな」
「え、出撃とかは?」
「そんな大層な立場もないし、ARMOR”sの中では一番の新兵だしな…出撃はそうそうないだろう…分からないけど」
「分からないんだ…あ、でも出撃して整備が必要になったら呼んでよ?というか零亜の専用整備士にしてもいいし」
「い、いいのか?」
専用整備士。
一人のARMOR”sに付き、専用の整備士を付けることが可能な制度。
俺も何度か専用の整備士になってほしいって言われたことがあったがすべて断ってきた。
如何せん、俺の整備の技量を独占しようとしてるやつが多すぎて喧嘩になったのも覚えてるしな…そんなこともあって俺は専用の整備士になることはなかった。
だが今は違う、俺はARMOR”sになった。この制度が使えるようになったんだ。
「ぜひ、お願いしたい」
「やった…んで、どうやって専用の整備士になれる?」
「し、知らん」
「どうして」
「説明受けてないからだよ…明後日の授業の後で担任に聞いてみる。それから連絡する」
「わかった、忘れないでよ?」
「そりゃ勿論。俺の方からお願いしたいしな」
明後日、一条先生に聞くか。
専用の整備士の制度について聞いて、なるべく早く明楽を専用の整備士にしないとな。
他の奴に俺の親友を盗られてたまるかよ。
「じゃあ、僕はこの辺で」
「何かあるのか?」
「別のパイロットに整備をお願いされてるから」
「一人で大丈夫か?」
「大丈夫、一人じゃないし他にも居るから」
「そ、そうか?」
「それに知ってる人だからね、高圧的な態度を取ってくる奴らに比べたらマシだよ」
「取ってくる奴いたら言ってくれよ?俺から言ってやる」
「勿論、じゃあ…明後日の連絡を楽しみにしてる」
そういって明楽はパイロット科の格納庫から出て行った。
「…」
俺は後ろを振り向く。
そこには、俺の格納スペースに鎮座しているファフニールがいる。
「ファフニール…」
ヘッドパーツの赤いアイカメラを見る。
次に両手首につけられているドラゴンスローンシステムで繋がっている黒い輪を見る。
「お前が俺の相棒だ、今後も頼むぞ」
――ィィィィィン…。
「…あぁ、次に出撃するときはよろしく頼む」
一瞬、アイカメラが輝いたと同時に頭の中に『よろしくお願いします』と聞こえてきた。
「決闘場、見てくるか」
そう思い、パイロット科の格納庫から出ようとした。
すると
「見つけましたわ、鴉羽零亜」
「!」
その声の方向を見る。
「ソフィー生徒会長?それにそっちの二人は…」
「斑琥だ」
「アウローラです。またお会いしましたね、鴉羽零亜君」
生徒会の三人…前に無許可でファフニールに乗り込んだ奴らの事情聴取の時に来たな。
「何故ここに?」
「貴方に用がありますの」
「お、俺に?」
「えぇ、貴方に」
俺に用があるのか…生徒会の三人が?
「えっと…?」
「そうですわね、堅苦しい挨拶や仮定は抜きにして単刀直入に言いましょう。貴方に…」
「貴方に生徒会直属部隊『ナンバーズ』に所属していただきたいのです」
「直属部隊…?」
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




