第9話 パイロット科としての初日
ファフニールの整備を開始して大体三時間後。
全体的な錆びは取れはしたが…やはり取れない所も多かった。本当はこのまま全部やりたかったが、約束の時間になり学生課に行き整備科の寮の鍵を返却し、パイロット科の寮の鍵を貰った。
あとパイロット科の寮の鍵を貰ったときに『変な気は起こさないように』って言われた。
まぁ…でしょうねとしか言えない。なんてったってパイロット科は必然的にARMOR”sの生徒が多い為、女子ばかり。
つまり、女子寮に男が入寮するという事。それで変な気は起こすなと釘を刺された。
(起こすわけねぇだろ…)
女子寮に入って『ハーレムだひゃっほう』とかそんな気が狂ったかのような思考回路は持ってないし、そもそも居心地が悪い。
変な気を起こす以前に、気が張りすぎて逆に落ち着きそうだ。
「はぁぁぁぁ…!!」
パイロット科の寮で割り当てられた俺の部屋のベッドに顔面から飛び込み、思い切り息を吐く。
部屋の構造云々は整備科と遜色ない。ただ、整備科に比べると居心地が悪いくらいか。周りが女子ばかりだし。
けど俺の寮の移動に関してはパイロット科の人は割と否定的ではなかったのは助かった。
いじめられたりしたらたまった物じゃない。
「んん…」
ベッドに飛び込んだら一気に疲れと眠気が襲ってきた。
それもそうか…ずっとファフニールの錆取りをしてたしな。
(このまま…寝る…か)
俺は疲労という濁流に襲われ、そのまま眠気に身体を預けた。
ーーー
翌日。
いよいよ本日からパイロット科として授業を受けることになった。
整備科とどう違うんだろうか。正直、そこは不安だ。
整備科としての知識が活きるのか、はたまた全くの意味を成さないのか。
昨日は軽く教科書を見たりはしたが『所々は』みたいな感じ。
頑張るけど。
「えーっと?職員室…職員室…」
パイロット科の校舎に足を踏み入れ、職員室で待っている俺の担任の先生に会いに行く。
東雲学園長曰く、担任の先生から今後の流れや俺のクラスその他もろもろが話されるとの事。
今、俺が願っているのは鈴木みたいなやつでなければ何でもいいってだけ。
あんなのはもう御免だ。
「職員室…あった!」
やっと職員室を見つけたんだが、何で2階?
整備科の職員室は1階にあったんだが。1階をきちんと見たわけじゃないけど、もしかして何かあるのか?後で見ておこう。
とりあえず、東雲学園長の言われた通りに動くか。
職員室の扉をコンコンと叩く。
「整備…じゃなくて『パイロット科』鴉羽零亜です」
『はーい、入って大丈夫ですよ』
「失礼します」
つい整備科って言ってしまう。
中から入室許可の声が聞こえてきたので扉を開けて中に入る。
「待ってましたよ、鴉羽君?」
「は、はぁ…えっと担任の」
「はい。私が1年1組の担任の教員『一条安賀多』です。よろしくお願いしますね、鴉羽君」
ショートボブ、外にはねた髪。鈴木とは違ってどう見たって優しそうな雰囲気を醸し出すのが…一条先生。
「という事は俺は1年1組なんですか?」
「その通りです」
俺はパイロット科、1年1組か。ちゃんと覚えとかないとな。
編入していきなりクラスを間違えるとかそういう愚行は侵さないようにしないと。
「では、クラスの皆さんと顔合わせしましょうか」
「あ、あの今後の流れとかって」
「今後の流れと言ってもそこまで大層な話ではありませんし、基本的にはクラスで話しますので安心してください!」
「わ、わかりました…」
俺の不安すら弾き飛ばしそうなほど明るい一条先生。
すげぇな…まるで太陽みたいな人だ。
そうして一条先生と共に職員室から退室し、1年1組の教室へ向かう。
(整備科と違ってこっちは女子しかいないんだよな…)
周囲を見回しながら歩く。
整備科は男女共同だが、それでも女子の方が比率が多い。例え後衛でもやはり戦場に男性を近づける事自体、自殺行為に等しい。それに入学できた男子は基本的に技量がすさまじい奴しかいない。俺とか明楽とかね。
男にとっては狭き門だったが。
んでパイロット科は…そもそもパイロット=ARMOR”sなので女性しかいないのは当たり前だろう。
ただ…うん。女子しかいない故か物凄く甘い匂い?がする。
男にしかわからないと思うが女子特有の甘い匂いみたいなのがする。
(整備以外で女性とのかかわりが無かったからちょっとドギマギするな…)
なんてちょっと気持ち悪い感想を持ちつつ付いていく。
それと、出来る限り気にしないようにしていたんだが…教室の前を通った瞬間だけ、視線を感じると同時に教室の前を通り過ぎると落胆する声が聞こえた。
何故だ…。
「はい、鴉羽君。ここが1年1組の教室になりますので以降はここで授業を受けることになります。間違えないでくださいね?」
「は、はい!」
「では、少し待っていてください。私の『入ってきてください』で入ってきて自己紹介をお願いします」
「わ、わかりました」
そういって一条先生は先に教室に入っていった。
「ふぅ…」
壁に背を預けて軽く深呼吸し、窓の隙間から空を見上げる。
ここから始まるんだ。整備科じゃなくてパイロット科…ARMOR”sとして。
整備しかなかった俺に前線で戦うという選択をくれた東雲学園長には感謝してもしきれない。
「…」
傷つくパイロットを何人も見てきた。
それを出来る限り抑えるのが整備科としての責務だった。俺が傷つく側に変わったが…知ったこっちゃない。俺は過去を知りたいんだ。
今まで他のARMOR”sに任せていたが、こっからは俺の番だ。
俺が、オールイーターたちをぶっ潰して…全て終わってから過去を見つけてやる。
『鴉羽君、入ってきてください』
「失礼します」
決意を固めたと同時に一条先生の声が聞こえたので教室の扉を開けて中に入る。
中に入ると…うん、まぁ女子ばっかりだ。
小さくキャーとか聞こえるが、気にしないようにしよう。
「では鴉羽君、自己紹介を」
「はい。皆さん初めまして『鴉羽零亜』と言います。知っての通り整備科からパイロット科に編入したので…パイロット操縦技術や基本知識は結構からっきしですがよろしくお願いします」
そう言って軽くお辞儀をすると拍手が聞こえて来た。
よかった…一応の自己紹介は成功したみたいだ。
「じゃあ、鴉羽君はあそこの席に座ってください。席に座ったら今日の朝のHRを始めちゃいます」
「分かりました」
開いている席が二つあったが丁度対角線上だったので一条先生に指をさされた方の席に座った。
「それでは今日のHRを始めます、と言っても具体的な連絡はありません。普通に授業を受けてもらって普通に過ごしてもらえれば大丈夫ですので」
HRは、速攻で終わった。
いや…早すぎないか?体感数秒で終わったんだが。
次の授業まで10分くらいあるぞ?
(と、とりあえず…次の授業の準備を)
バッグの中から教科書やノートを出そうとした。
すると
「ちょっといい?」
「?」
急に話しかけられる。
この人…どこかで見たことがあるような?
「あ、紅のパイロットの?」
「そうだよ…あの時はありがとう、お陰で助かった」
「な、何かしたっけ?」
「アサルトライフルと襲い掛かってきたオールイーターを薙ぎ倒したよね!?」
「あー…そうだった」
あの時はちょっと冷静じゃなかったし、ファフニールからの情報で血も吹き出てたし…何より目の前にいたオールイーターたちをファフニールの指示で潰してたから、ちょっと記憶があやふやだ。
「とりあえず、よろしくね。鴉羽君」
「よろしく…えっと名前は?」
「赤月。『赤月真登香』」
「わかった。赤月さん、よろしく」
「赤月でいいよ」
「それなら俺も鴉羽でいい」
「それは嫌」
「なんでよ…」
と赤月さんと握手をしていると
「あーっ!赤月だけずるい!私も!」
「ちょっと抜け駆けはしないでよ!」
一気にクラス中が騒がしくなり、何一つ聞き取れなくなる。
「おいおい…!俺は聖徳太子じゃねぇぞ!?」
流石にクラス全員の自己紹介を一気に聞き取ることはできない。
…よく聞き取れたなファフニール。
ファフニールがさっきの自己紹介を全て聴き取り、一人一人の情報を分けて俺の頭の中にインプットしてくれた。
分かりやすいが、仕事が早いな。ここまでくると怖いぞ。
そんなわけでクラスメイト一人一人の事をある程度は知ることができ、パイロット科としての一番最初の授業が始まった。
ーーー
「むっず…!!」
とりあえず、パイロット科としての1日が終了し、ファフニールが格納されている整備科の格納庫に向かいながら今日の授業で受けたところを復習しながら歩く。
整備科と違って授業の密度がやばい。
一条先生の教え方が上手いのは非常に助かっているが、進行速度が速くて追いつけない。
けど他の人たちは普通に追いついていたし、あの速さが普通なんだろうな。
「しばらくは大忙しだな」
夕日に照らされながら歩いていると。
「あれ、零亜?」
その声に反応し顔をあげると、丁度寮に向かっていたのか明楽と巡り合う。
「明楽か」
「どうしたの?」
「ファフニールを整備科の格納庫からパイロット科の格納庫に移動する」
「あー…そっか、パイロット科だからね」
「そういう事…そういう事になるはずだったんだがな」
「…?」
俺が今、ファフニールがある格納庫に向かっている理由。
元々は整備科の格納庫からパイロット科の格納庫への移送作業を明日行うため、含めて色々な準備をするはずだった。
何故か分からないが、ファフニールから直々の呼び出し。
俺に格納庫に来てほしいとの事。
急な呼び出しもあってか、移送準備の機材も全てパイロット科の格納庫に置いてきてしまった。
(明日一気にやることになりそうで、気がめいりそうだ…)
これでどうでもいいことだったら、レッグフレームを一回だけ軽く蹴ってやる。
「ファフニールから呼ばれてな、何でも今すぐ来てほしいって」
「ファフニールが…ってそういえば声が聞こえるんだよね?」
「あぁ」
明楽と一緒に格納庫へ歩いていく。
「パイロット科はどう?」
「正直かなりヤバい、授業スピードが整備科の授業と全然違う」
「え、そんなに早いのかい?」
「ぶっちゃけ鈴木の授業くらい」
「あー…あれくらいなんだ」
「でも担任の教え方が滅茶苦茶上手いからギリ追いつけるくらい」
「結構大変そうだね」
「本当にな…」
なんて雑談しつつ歩いていると、ふと気が付いた。
(なんか…整備科の格納庫に近づくたびに人が増えてないか?)
一歩一歩と格納庫に近づくたびに人が増えて行っている。
しかも整備科だけじゃなくて、俺と同じパイロット科の制服を着ている人もちらほらと見える。
俺と同じARMORを取りに来たのだろうか。
だが、幾らなんでも多すぎないか?前の橋での戦闘で生じた傷の整備にここまで時間がかかるモノなのかと思いつつ格納庫の中に入る。
すると
「ん?」
一つの格納庫の前に人だかりができていた。
「何かが起きたのかな?」
「ん…いや、何かが起きたというよりあの人だかりの場所がファフニールがいる所だ」
「え?」
俺はやじ馬たちをかき分けてファフニールが仕舞われている格納庫のシャッターの前に出る。
そこには…丸くこじ開けられたシャッターがあった。
そして、こじ開けられたシャッターを視界に収めたとき、ファフニールからの呼び出しの理由が頭の中に流れ込んできた。
(許可なくコックピットに乗り込んできた人たちがいる…?)
ファフニールが俺を呼び出した理由は俺に無断でファフニールのコックピットに乗り込んできた人がいるという事。
本来、ARMOR”sというものはパイロット一人とARMOR一機の1対1の関係が絶対であり、複数の機体を持つことは何かしら特例が必要だ。それにARMORには専用のパイロットを認識するためのインプラントと生体情報を保存する機器があり、許可がない限り他のパイロットが他のARMORに乗ることはできない。故に原則として他のARMORに許可なく乗るなっていうルールがある。
それを破った奴がいる。まぁいるのは良いんだが…。
(アレに乗ったら死ぬぞ!?)
忘れてはいけない事項の一つ、ファフニールは禁忌機体だってことだ。
普通のARMORとは違いドラゴンスローンシステムが搭載されていて、あの機体はパイロットの生死を無視する。
ファフニールに乗れる俺ですら出血するんだ。もし他の奴が乗ったりしたら…!
「これは…!」
「クソ!」
「ちょっ!?零亜!?」
俺は明楽の静止を無視し、こじ開けられたシャッターをくぐり中に入る。
「!!」
鼻孔を曲げる血の匂い。
その辺に屍のように倒れる血だらけの制服を身に着けた生徒たち。
「馬鹿共が…!」
付近で倒れている人の身元を確認し、生死を確認する。
制服はパイロット科で…よかった、手首の脈を確認すると鼓動を感じ取れる。
生きてはいるんだが、血まみれだ。
しかもそれが合計で6人くらい。
――ィィィィィ…。
「…ファフニール」
俺がそう声をかけるとファフニールは膝をついて座り込み、吐き出すかのようにコックピットのハッチを開き、乗り込んでいた最後の一人を外に放り出した。
…最後まで乗ってたやつも血まみれだ。
「うぁ…ぅ…」
言葉も途切れ途切れで明らかに辛そうだ。
だとしても俺は何もしないぞ。そもそもの話、何で俺に許可なく乗り込んだ?
…まぁお願いされても乗せる気はない。普通に血が吹き出ても俺は一切責任は取れないし。
「れ、零亜…これは?」
息を切らし状況がつかめていない明楽が駆け寄ってくる。
「俺に無断でファフニールに乗った奴らだ」
「無断って…ルール的には乗れないはずじゃ?」
「あぁ。だが何らかの理由があってファフニールに乗り込んだ。そして俺と同じようにファフニールの情報量に耐えきれず、血が吹き出て…このざまだろう」
「…これに零亜は耐えてるって事?」
「正直、まだ慣れてないけどな」
とりあえずこのまま放置しておくのも癪に障るので、一旦は救援要請することにした。
担任の一条先生にAT学園内限定で使える通信端末で電話をかける。
…1コールで繋がった。幾らなんでも早くねぇか?
『はい、こちら一条です。鴉羽君、どうしました?』
「お忙しい所すみません、ちょっと困ったことがおきまして」
『困ったこと…といいますと?』
「私の許可なく、ファフニールに乗り込んだ生徒がいて血だらけになった生徒が7人くらいいます。どうすればよろしいですか?」
『無許可で乗り込んだんですか!?7人の意識は』
「血まみれですが鼓動は感じました。まだ生きてます」
『なら医療班を派遣します。それと確認をしたところ『生徒会』の生徒が既にそちらに向かっているので状況の報告をお願いします』
「わかりました」
そういって通信を切ったと同時に。
「何が起きた!?」
こじ開けられたシャッターから三人の生徒が入ってきた。
俺の来ている制服と三人の制服は胸元のバッジが違い、時計のロゴマークのようなものが刻まれた皮の手袋のようなものを付けている。
どう見たって年上で、一条先生が言っていた『生徒会』っていうのはこの人たちの事だろう。
「鴉羽零亜、案内ぶりですわね」
「そ、ソフィー生徒会長!」
中央に立っていた人物をみて確信した。確実にこの三人は生徒会だ。
「という事はお前が鴉羽か…何があった?」
その横に立っていた如何にも厳格そうな黒髪をうしろに束ね、如何にも『撫子』という言葉に似合いそうな風貌を持つ人が話しかけてきた。
「無断でファフニールに乗り込んだ人がいると聞いて」
「また、無断か…」
「また?」
「あー…まぁ話していいのか?」
「大丈夫だと思いますし、私が話します。斑琥は彼女たちを応急手当を」
「わかった」
今度は別の人が話しかけてきた。
少々長めのウルフカットで、先程の人とは違い『厳格』というよりかは『朗らか』な印象が見て取れるんだが…髪の内側に赤色のメッシュが入れられているのが分かる。
人の髪色にケチをつけるほど偉くはないが、ちょっとびっくりした。
「ここ最近、一部の上級生たちが下級生の専用機を無断で持ち出す行為が多発しています。勿論、規則違反で罰則の対象になりますが…主犯格や実行犯が中々判別出来ず、先生方も私たちも変に動けませんでした」
「そんなことが?」
「はい。ですが今回の犯人たちはしかるべき罰は受けたと思います」
「あー…」
運悪く、ファフニールに乗り込んだんだよな。
まぁ…うん、ドンマイ。てか前に避難区画で
「ソフィー会長。状況は鴉羽君の言った通り、一部の上級生たちが無断で乗り込み…禁忌機体の影響で出血し、このような状況になった…で、大丈夫ですか?」
「構いませんわ。そのまま東雲学園長含め他の先生方に報告してください」
「かしこまりました」
そんなわけで状況の説明はすぐさま終わり、医療班も後から合流したのでファフニールに無断で乗り込んだ人たちはそのまま滑車に乗せられ、運ばれて行き、生徒会の三人もそのまま格納庫から出て行った。
「自業自得ってやつだね」
「業がデカすぎるけどな」
得られた得はなく、得たものは業のみ。
同情はしないからな。
…んで俺も得たものがある、どっちかというと仕事が増えたというべきか。
「はぁ…すまん、明楽ちょっと手伝ってくれないか?」
「手伝うって何を?」
「コックピットの中が血まみれ」
「錆びる前に洗うって事ね」
「その通り」
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




