プロローグ
カチャカチャと手元にある工具やらなんやらで目の前に広がる鉄の板や明らかに切断したらマズそうな銅線や機器を磨いたり、整備していく。
「…ふぅ」
額に零れる汗をぬぐい上を見上げる。
そこには俺以上に大きく、上から見える瞳から見れば俺は小さな豆粒なんだろうなと思う。
ここはAT学園、正式名称は『ARMOR's Training School』。
今の…喰われかけている世界を救うために『ARMOR』という物を用いて世界に蔓延る暴食な化け物どもと戦う操縦者を育成する学園。
…この世界は喰われかけている。
何気ない日々を送っている日々にそれは突然現れた。
突如として現れた生命体『オールイーター』が世界を喰い荒らし始めた。
ある者は場所を、ある者は住処を、ある者は家族を喰らわれていった…。
人々はいつも通りの日常が一瞬で崩れ去ったあの日の事を『デイブレイク』と呼び、オールイーターに対抗するために軍や様々な人たちが武器を持って対抗したが…全く歯が立たず一方的に蹂躙され、世界の人口及び領土の3分の1を喰い尽くされた。
そんなある日、人間側にも転機が訪れた。とある科学者が発明した対オールイーター用決戦兵器『ARMOR』というものが開発された。
あ、今俺が整備しているのがそのARMORってやつだ。
男の中では俺も大きい方だが、このARMORは人の何十倍よりも大きく、鋼鉄の装甲に電子装甲や武装等々が搭載でき、人が乗り込むタイプの人型マシン。
人々はこのARMORに乗り込み戦う操縦者たちを『ARMOR”s』と呼ぶ。
故にARMOR's Training School学園という名の通りアーマーズの育成学園ってわけだ。
…俺は整備だけどな、操縦者でも何でもない。
というよりARMOR”sになれるのは基本的に女性のみだ。
理由はオールイーターの影響でもある。
オールイーターという生命体には謎が多い。色々憶測が飛び交ったりなんだりとあるが…現状確定している項目がある。
それが…オールイーターの生殖について。
ある科学者が証拠と共に証明したことだ。オールイーターは人間を食べて、食べた人間を中心にオールイーターの粒子的な物でコーティングし、それで生まれた奴が新しいオールイーターになる。
んで、問題なのが感染率。
何故なのかわからないが『男性は極端にオールイーターになりやすい』が『女性はオールイーターになりにくい』というのが立証されている。
本当に謎なんだけどな、ここは。
まぁ…男性が感染しやすいのなら戦場に出した方が色々と不都合なので女性が前線に立つことが多くなった。
しょうがないよな、この辺はな…。
「この機体は…あとは反応云々の確認か」
電子機器の画面に映るこのARMORの機体構造のデータを確認し、整備するところとメンテナンスする項目を確認する。
後はコックピットだけだ。
近くに設置しておいた整備科専用の人間運搬のドローンの取っ手を左手で握りしめ、コックピットのハッチに向かう。
梯子とかでよじ登るには高さがある。さっきまでいた個所がARMORのアキレス腱の部分。
単純に上った場合、ミスって落ちたりなんてしたらすぐさまお陀仏だしな…。
ドローンで上へ上へと昇って行っていると丁度目の前でコックピットのハッチが開いた。
「んー!こんな感じかな」
この人が俺が整備しているARMORのパイロットだ。
AT学園には二つの学科がある。
俺が入学した『整備科』はARMORや武装などの整備をメインとした戦場の縁の下の力持ち的な存在である。
そして、この人のように戦場に立ちオールイーターを駆逐するARMOR”sになる学科が『パイロット科』。
この二つに分かれている。んで整備科は基本男女関係なしだけど、女性の方が比率は多い。
パイロット科に関してはそもそも男がいない、理由はまぁ…今は女性が前線に立つからな。
「あ、鴉羽君。レッグフレームはどうだった?」
「特にこれといった異常はない。今まで通り絶好調で動けると思う」
「流石『整備科の希望の星』だね」
「買いかぶりすぎだ。コックピット内のメンテナンスをしたいんだが、いいか?」
「いいよ~」
そうしてパイロットと入れ替わりで今度は俺がコックピットに入る。
…整備科の希望の星。
ちょっとした俺の二つ名みたいな感じだ。
整備科の中で最も整備の技量が高く、質もいいとのことなので希望の星ってね。
そんなこともあってか同級生、上級生構わず俺に整備をお願いしてくる人が多い。
俺からすれば整備する人にとっては良いが、そんな大層な名を付けられるほどの働きはしていない。
それに何でも整備するってわけじゃない。俺も整備する機体は選ぶ。
…というよりパイロットだな問題は。
大体の機体に罪はない。ただ如何せん今の世界は女性の方が立場としては強い影響か俺に整備を強要してくる奴がいる。
勿論、そんな奴は無視だ。
無理やり働かされるのは嫌なのでね。自分の仕事は自分で選ばせてもらおう。
「よし。ARMOR『紅』整備チェックの開始。操縦盤の異常…なし」
一個一個懇切丁寧に確認していく。
「反応速度も申し分なし、ハンドアームも可動のムラもなし…」
こうやって整備しているときにいつも思う事だが…出来ることなら俺もARMORに乗りたい。
前線に立って戦いたい、というわけじゃないが…整備をしているとな、自然と見えてしまうんだよ。
前線に立って戦う彼女たちの傷つく姿を。
忘れてはいけないが今俺が整備しているARMORのパイロットだって俺と歳は同じなんだ。
同級生なのに俺が出来ることは『整備』だけ。
「…」
守ってやりたいんだ。でも、俺にはそんな力はないしARMORという力を持つことすら選べない。
だから俺は『整備』をするんだ。
「ねぇ鴉羽君」
「うん?」
アイカメラの状態や解像度を確認していると急に話しかけてきた。
「君は何で整備科に入学したの?」
「そのセリフ、そのまま返すよ」
「え、返すの?」
「整備をしていると他のパイロットの話をよく聞く。こういう雑談がストレス緩和やリラックスにもつながるからな」
「なるほどね、ARMORの整備しつつパイロットの精神面もなおしちゃうんだ…流石だね」
「いつも言っていることだ」
「ふーん?あ、私はパイロット科に入ったのは単純に家族を守りたいから」
「…」
指を止める。
「妹とお母さん。お父さんは…」
「その先は自分の口で話さなくていい。別に過去を自らの手で掘り返す必要はない」
「ありがと。まぁ…そのためだよ。私は守りたいの家族を」
「家族か。いい志を持っているじゃないか」
「そんなことないよ、多分パイロット科に入ったみんなも私と同じ志を持っているから」
「だといいがな…ん?アサルトライフルのバレルがやや曲がっているけど、何かあったのか?」
「あー…前の戦闘でオールイーターにゼロ距離まで攻められてね。反射でバレルで殴っちゃった」
「分かった、武器の調整もしておこう」
「本当にありがとう」
止めていた指をまた動かし始める。
家族か…。
「あ、そうだよ。鴉羽君は何で整備科に?言い方はあれかもしれないけど男子でしょ?」
「俺にも俺なりの志があるんだ」
「へぇ?どんな?」
「俺は…過去を知りたいんだ」
「過去?」
「あぁ。俺は何かの影響なのか何なのかわからないが『中学生より前の記憶が抜け落ちてるんだ』」
「き、記憶?」
「正確にいえばデイブレイクの前だ」
俺は…一部の記憶が抜け落ちている。
中学生から今に至る記憶はあるのにそれ以前の記憶は何一つ思い出せない。感覚的にいえば『気が付けば中学生になっていた』だな。
「自分の名前とかは憶えていたんだが、問題はデイブレイクの前俺は何をしていたのか、家族が誰なのか…そういう記憶が綺麗に抜けている」
「そ、そうなんだ…」
「だから俺は今できる最善手である整備科に入学した。縁の下の力持ちになりつつ学園が掲げるオールイーター死滅の手助けをして、パイロットには出来る限り生きて帰ってこれるようにして、俺は平和になっていく世界で過去を探す…これが入った理由だ」
「なるほど…過去を探す、なんかかっこいいね」
「かっこいいのかこれ」
「うん。それに鴉羽君の整備があれば私だけじゃなくて他のパイロットも安心できる。本当に私と同じ1年生とは思えないや」
「そうなのか…よし、コックピット周りの点検とかは終わった。特にこれといった異常もないけど念のため確認はしてくれ」
「了解!」
「あと、アサルトライフルは運搬用のトラックに載せてくれ」
「運転できるの?」
「学園内ならな」
そう言って俺はドローンを握りしめて下降しつつ、ARMORの整備不良や装甲の交換をすべきか所がないか目視で確認。
…特になさそうだな。
地面に着地し、ドローンの電源を切り、近くにあった充電ステーションに戻す。
そしてトラックに乗り込む。
本来、運転免許証が必要なのだが整備科1年生は大型運転免許講習がある。
整備する都合上、とてもじゃないけど人の手に余る大型の物を運ぶことが多いので故に運転免許証を取ることになる。
とはいってもこのAST学園内だけ運転が許可されているだけだ、外はできない。
『鴉羽君!乗せたよ!』
ARMORから聞こえてくるパイロットの声。
「あいよー!あとは任せて今日は休んでくれー!」
『わかったー!』
牽引貨物トラックにアサルトライフルが乗せられたのでロープで固定し、運転席に乗り込み半クラッチで進みギアを上げてARMOR用の整備室を出て武装用の整備室に向かう。
「…」
学園内とは思えない道路を通っていく。
少し右を見ると…様々な建物と大きな建造物、そしてその向こう側に海と地平線が広がっていた。
…このAT学園は海の上に出来ている。俗にいう埋め立てて造った場所だ。
何故そんな方法で作ったのかは…よく分からない。
噂だと『本土の方じゃ作ったとしてもリスクがある』とか『避難所にする』とか『海なら出撃しやすい』とかその他もろもろ。
実際、このATS学園自体授業を行う校舎とARMOR倉庫と整備室と弾丸の精製所等々…。
それを考えればこの場所がいかに広いかがわかると思う。
マジで何処かのテーマ―パーク3つ分くらいありそうな大きさだからな。
「…見えてきた」
目の前に武装用の整備所が見えてきたと同時に目の前に空間投影されたディスプレイが表示された。
『学年、氏名を言ってください』
「整備科1年2組、鴉羽零亜」
『該当項目アリ、トラックによる進入を許可』
「ありがとう」
これは一種の確認用の奴だ。どの学年が、誰が武装整備をしているのかを確認するために。
正直、ARMORの整備以上に武装の方が事故が起きやすい。爆発やら暴発とかその他もろもろで。
停車位置にトラックを止めて、エンジンを切りロープをほどきクレーンでアサルトライフルを特定の区画に設置する。
「やぁ、零亜」
「明楽か」
整備を始めようとしたら話しかけてきた青年が一人。
『西園寺明楽』。俺と同じ整備科でクラスメイトかつ俺と一番仲のいいやつ。
整備科の数少ない男同士、意気投合して仲良くなったって感じだ。
「今日も整備かい?」
「あぁ、またお願いだよ」
「相変わらず大人気だね。専用の整備士としてスカウトとかされないのか?」
「されるよ。だとしても受ける気はない」
「何にも縛られない所が零亜らしいね」
「まぁな…明楽は?」
「こっちもだよ。お願いでさっきまで整備しててこれから寮に戻る所」
「そうか」
そう言って俺は整備を行おうとしたが明楽も工具やらなんやらを持ってきた。
「戻るんじゃ?」
「通りがかりだし手伝わせてよ」
「悪いな」
「お互い様、だろ?整備内容は?」
「見た限りバレルの交換だな。スコープの倍率関係は俺らがいじる項目じゃないしバレルを重点的に見よう」
「分かった」
…こうやって何度も何度も整備してパイロットたちの無事を願い、過去を見つける布石を信じる。
こんな日々を俺は過ごしていた。
味気ない生活かもしれないが…これでいいんだ。
俺は戦うことはできないが支えることはできる。
とにかく今は…俺が出来る最善を尽くす。
それだけだ。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




