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その瞬間の観覧車のゴンドラは黄色だった

作者: 三千

冬の始まりのことだった。


「今度の12日さ、ワンダランド行かない?」


うーん。


ワンダランドは地方の小さな遊園地で、児童向けの乗り物しかない。先日、遊園地に行きたいと言った私は、そっち!? となった。


付き合って3年。倦怠期。頼りないけど優しい彼。だから好きだった。


「デニーズランドじゃなくて?」


「ワンダランド。近いしいてるし」


「……わかった」


わかってないけど、仕方ない。

私はOKして約束した。



当日。

並んでいた小学生に「恋人なん?」と囃されながらもジェットコースターに乗った。


「面白かったね」


私が言うと「ん゛まあな」と返ってくる。


朝からずっとこの調子で心ここに在らず。

ほらまた。いちいちスマホ見るのなんなん?


「次は?」


「観覧車だ」


「昼だしごはん先に食べん?」


「観覧車乗ってから」


「はいはい」


観覧車に向かいパスを見せる。


「すごい! 貸し切りじゃん」


乗り込もうとして腕をぐいっと引っ張られた。


「なに? 乗らないの?」


「俺、赤嫌い」


見れば赤色のゴンドラ。


「なに子どもみたいなこと言ってんのよ?」


「黄色に乗りたい」


二つ後だ。それもスマホ見ながら片手間に。


「なん、で、」


その時。


急に頭にぽっと浮かんだ。


もしかしたら別れ話かも、と。


なるほどスマホの中にはもう新しい彼女?


実を言えばさっきも、彼のサイフにチケットが一枚。過去の日付の入場券。 


その日。


私は仕事だった。


「……わかった黄色でいいよ」


心があっという間に冷えてゆく。


震える手。座席に座る。彼は向かい側。チラと外を見たかと思うと、すぐスマホへ視線を戻す。


無言のままゴンドラは上昇、ゴウンゴウンという音だけが響いた。


もうすぐ一番高い場所。あとは下降のみ。


その時、初めて。


別れたくないと思った。


「あのさ……」


言葉を探す。


けれど彼はそれを無視してカバンを漁り、何かを取り出した。


そして。


「俺と結婚してくださいっ」


突然のことで驚き固まる。

指輪だった。


「返事、早く返事!!」


急かされ「へ? あ? は、はい……?」


彼は指輪を取り出し、私の左手薬指にぎゅむっとねじ込んだ。


はっと気がついて外を見れば、そこは一番高い場所。素晴らしい展望が広がっている。


彼が座り直し、スマホの画面を見せてくる。


12:00ジャスト。じゃない。12:01。


「12月12日12時……リハより1分オーバーか、くそー。観覧車12時の位置でプロポーズ遂行、成功であります!」


自衛隊か。


私は心でツッコミながら、涙を拭った。



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― 新着の感想 ―
「へ? あ? は、はい……?」 ⇧ 最高ꉂꉂ(ノ∀≦。)σ爆笑ʬʬ そうだよね、そうなるよね! しかし、まぁ、ごめんなさい 多分、男って、殆どがこうなんじゃないかな? 女の子に喜んでもらい&趣味満載…
彼氏さんかわいいです( *´艸`)
それで黄色かぁ(*´꒳`*) すっごいいい話!これはラジオで読まれて欲しい!
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