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砂を食べる

作者: 珠たう

女は1人公園の砂場にて、砂のかたまりをいくつも摘んでは光に透かし、潰していた。

そのたび満足げな笑みを浮かべる。

つっかけのようなサンダルに、よれたジーンズと白無地の半袖Tシャツ。老けているようでどこか幼さを感じさせるハリがある顔のため年齢はわからない。

ぺたっとした髪を一つに束ね、化粧っけを感じないのっぺりした風貌の女が昼間の公園、砂場の真ん中にしゃがみこんでいる。

その姿に私は嫌悪感を覚えた。

あの女は私の好きな映画のワンシーンを演っていた。

"純度の高い砂"だ。そしてあれは私だ。


私も幼い頃、砂場であれをやっていた。

砂が大好きだった。誰とも喋らずにつぶしていた。

自分の指からさらさら流れていくのを何度も見守った。

小学校では校庭のひときわ小さな砂粒をシーチキンの缶に集めていた。クラスメイトに一度、変だと言われ急に恥ずかしくなって辞めた。

まともに見られたかった。

思春期の頃は毎日、隠れて砂を食べた。

純度の高いものを食べれば、変ではなくなる気がした。

だがその砂で細菌感染をしてしまい、四肢の関節が赤く腫れてしまった。それ以外の症状はなかったので登校していたが、そのままさらけ出すのは変だと自分で感じたため夏場でも長袖を着ていた。

数ヶ月すると赤みは引き、それと同時に砂への執着もなくなった。

私は変ではなくなった。

その後は望んでいた、まともな大人になった。


あの女はあどけない表情で、砂を思う存分触って、暑い時は半袖を着ている。


羨ましいな

そう思った瞬間着ていたスーツが、革靴が、さらさらと風にさらされる細かい粒になった。


風が強く吹き、革靴とスーツの粒子が舞う。ぎゅっと目を閉じた。彼女はきりっとした表情の会社員の姿になり、ぱりっとしたスーツを着ていた。そしてきびきびと歩き私が歩いてきた道を戻っていった。


砂を触りたくて仕方なくなった。

彼女がいた砂場にへたり込むように置かれている衣類を全て身につけた。


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