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第一話 いたいけな少女(自称)と俺

夕白颯汰です。勢いで書きました。

ハチャメチャな第一話、どうぞ。

 真っ暗な夜道を、俺は歩いている。


 まっすぐに延々と続く道を照らすのは、まばらに立つ街頭の明かりのみ。


 


 今夜は月の光もない。最高の、絶好の夜だ。


 そう思うのは、別に俺がロマンチストだからではない。ただ単純に、こういう暗い夜のほうが〈仕事〉上都合がいいのだ。


 


 ポケットに手を突っ込むと、じゃら、と小さく金属音がした。中には今日の〈仕事〉で手に入れた指輪やらネックレスやら、金になりそうな品が詰まっている。


 果たして、これで何人の諭吉さん……いや北里さんが俺の手元に来てくれるだろうか? 少なく見積もっても三枚……五枚……いや十枚ということも?


 


 そんなに金があったら、何をしようか迷ってしまう。とりあえず一週間分の保存食を買い込んで、家賃やスマホやPCにも金がかかるから……それでも五万は残るか。


 だとすれば、今までの〈仕事〉で間違いなく一番の出来。


 


 俺のポケットにあるのは全てここら一帯、半径十キロメートル内でゲットしたものだ。


 今日の夕方から〈仕事〉を始めてすでに三時間が経つが、こんなにうまくいったことは今までにない。


 なんで今日は、いつも以上に儲けがあるんだ?


 と少し不思議に思いながら歩を進めていると、五十メートルほど先を歩いていた女が丁字路を右に曲がったのが見えた。


 


 無駄な思考を止め、周囲に誰もいないことを一瞬で確認してから、全力で走って距離をつめる。


 女が自分の前から消えてもなお、音をたてず息を切らさずに走るのがプロの腕前というものだ。


 ブロック塀に背中を張り付かせ首だけで丁字路を除くと、先ほどの女は一本先の電灯の下を歩いていた。


 そこから先に、明かりはない。


 


 ――いける。


 


 この距離、この明るさなら絶対にいける。


 俺の技術をもってすれば、しくじることも捕まることもない。


 そう確信した俺は、黒いパーカーのフードを目深にかぶり、一息大きく吸い込んで、丁字路から躍り出た。


 心臓は、暴れ狂うことなく整然と脈打っている。


 


 女のもとへと一直線に、静かに近づいていく。


 女は前だけを見ており、背後の俺に気づいている様子はない。


 その距離が十メートル、八メートル、六メートルと縮まっていく。


 


 俺の両脚はコンクリートの地面でも一切の音を立てずに動いている。


 四メートル、三メートル、二メートル。


 ここまで接近してようやく分かったが、女はまだ若い、十五、六歳ほどの見た目をしていた。


 その身長からして、高校生か大学生。休日に出かけたということだろう。


 俺よりも年下だが、だからといって躊躇することもない。


 顔を見られぬよう俯く。


 


 両者の距離が一メートル、五十センチ、三十センチと狭まり、ついに俺の手が女の体に触れ――。


 


 


 シャァァアアアッッッ!!!


 


 


 そのとき、とてつもない光が辺りに降り注いだ。


 


 ――なッ、なななんだいきなり!?


 俺は混乱のあまり脚と頭を硬直させてしまった。


 あろうことか、その手だけは制御せずに。


 


 むに、と俺の手が女の腕を掴んでしまった。


 その一瞬前、白い光が発生したときに女は振り向いていたので、これは俺の失態ではない。はず。


 


 ……あぁ俺、なんであのときに逃げ出さなかった!?


 手なんか掴んだって意味ない。むしろ〈仕事〉の失敗率が上がるだけだ!


 これじゃただの、通りすがりに体を触る不審者――いやその片鱗はあるかもしれないけど、それは認めるけど!


 夜道で自分から近づいて接触しようとするなんて、もはや変態の域だ!


 ……くそ、顔見られた! 俺も女も、しっかりと見つめ合ってしまっている。


 俺はこの〈仕事〉を続けてはや五年、毎日のように技術を磨いてきた。何度か危ない場面があったが、それでも諦めずに挑戦し、いつしかこの〈仕事〉に誇りをもつようになった。


 今まで積み上げてきたものをこんな小さいミスで壊すことになるのか?


 おい十秒前の俺、どうしてくれるんだ! フード被ってたって顔上げたら意味ないって!


 或いは十秒後の俺、どうにかしてくれ! このままだと、大声で叫ばれて取り囲まれて……。


 


 ……いや、ちょっとまてよ。


 


 ひょっとしてこのお姉さん……いや少女か?


 どっちでもいいけど……かなりかわいい?


 まだ幼さの残る顔だが、つくりはかなり整っている。真っ白に透き通った肌と艶のある長い黒髪。前髪の奥から覗く大きな瞳は意志の強さを感じさせる。


 身にまとっているのは、白の端正な肩出しニットと黒いショートパンツ。健康的なふくらはぎと立派な太ももが晒されている。


 正直言って、そこら辺の十代、二十代よりか断然かわいい。これ俺好みかも……。


 


 ……うんそんなこと考えてる場合じゃないぞ俺!


〈仕事〉中に妄想に走るなんて言語道断だ。いまは何をするべきか考えろ!


 俺の思考が高速回転しオーバーヒートを起こしかけたとき、手を掴まれた少女が驚いた声を漏らした。




「んえ、な、ちょっ、だれ……ってうぃぃぃいいい!?」




 なに「うぃぃぃいいい」って! そんな驚く!? まるで不審者かなんかに襲われたかのような……ってそれ俺か!


 


 ともあれ今は。


 俺のことがバレてしまったのだから、なにか気の利いた言い訳をしなくては。


 逃げるという手段もあるが、俺の経験則からすると、女相手にはこういう手法が意外と通用する。


 道を教えてほしいとか? いやこんなくらいところで道を聞くやつなんていない。


 電話を借してほしい? おいそんなフレンドリーな街じゃないよな、東京。


 一緒にお茶しよう? うん、自然ではあるけどとても俺の口からは言えませんね。


 馬鹿なことを脳内で巡らせながら、視線を地面に這わせていたところ。




「なっ……えぇっ……いやいや!!」




 と少女が大きな声を上げたのでびっくりした。思わず顔を正面に戻すと、少女の視線は俺――ではなく俺の真上に向けられていた。


 ぷるぷると震える指で、空を指しながら。




「は……?」




 な、なんだ? 空になんかあるのか? というかこの状況で、俺を差し置いて空見るか、普通?


 訝しく思いながら、その視線の先を見やる。そして俺は、彼女と同じく奇声を上げることとなった。




「うぉぇぇぇえええええ!?」




 近隣にお住まいの皆様、誠に申し訳ございません。


 私は今、人生で一番でかい声を出してしまいました。


 


 果たしてそこには――柱があった。いや、浮いていた。


 中身は空洞で、高さ十メートル、直径五メートルはあるだろうか。青い光で構成されており、夜の空にぷっかりと浮かんでいる。


 


 ひどく場違いで、非現実的な光景。


 青い柱はいくつもの帯が重なり合って形成されていて、その一つひとつには文字や数字らしきものが表示されている。


 


 ――これもしかして俺に近づいてきちゃうやつ?


 


 いやそんなことあるはずないって、冷静になれよ俺。きっと何かのライトアップ、そうでなければ誰かのイタズラだろう。


 だから俺には何の影響もないし、よもや巻き込まれるなんてことは……


 


 柱、動き出す。




「「いやなんでっ!?」」




 おいあんた、百点のハモリだな。指輪を一つ贈呈してやってもいいぞ。


 


 いまそんなことを考えるのは、もはや馬鹿としか言いようがない。


 


 青い光の柱は高速に回転し。


 徐々に下降してきて。


 ついには俺と少女を完全に囲んだ。辺りを突風が駆け抜け、俺のフードが脱げた。




「ちょっこれなにどうなんのっ!?」




 少女が光の帯から距離を取りながらパニック声を上げた。




「ねぇあんたこれどうにかなんないの!」




 は!?




「いや俺が聞きたいわそれ! ていうかあんた言うな、年上だぞ!」


「私は十六……って知らんわ! きっとこれはあんたのせいよ、こんな夜道でウロウロしてるから!」


「なんで俺のせい!?」




 なかなかに荒いやつだ。外見からすれば、誰にでも優しくフレンドリーな少女、って感じだったんだけど。


 うーむ、今度から見た目も参考にして〈仕事〉しようかな……。




「こんなときになにしてんのよっ! 早くどうにかして、なんかよくないことが起きちゃいそう! そうなったら警察を呼んであんたに辱められたって――」


「わ、わかった分かった! なんとかすりゃいいんだろ!」




 まったく、人使いも荒いというのか。


 お願いの言葉ひとつなかったが、警察を呼ばれたら困るので大人しく従う。


 


 俺達を取り囲んでいる柱に近づいてみる。


 何かが表示されているが、やはり読むことはできない。


 


 何気なく手で触れようとしたら、ひんやりとした感触が伝わった。


 つまるところ、その光は壁と化していた。


 えぇ……。


 今度は両手で思い切り押してみる。




「うぐぐぐぐぅぅぅ……」




 だが足がズザザと地面を滑るだけで、柱はびくともしない。




「……何してんの、それ」


「見て分かるだろ、押してるんだよ!」


「はぁ? 押してるって、これを?」




 少女は正気を疑っているかのような顔になり、自らも光の壁に近づいていく。


 つん、と指でつつく。




「あれ」




 見えない何かに押し返され、しばらく指とにらめっこをしていた。


 と思ったら、いきなり壁を蹴り始めた。




「こっ、このこのこのっっっ!!」




 おお、怖いなぁ……。


 その蹴りは、今まで何人かを殺めてきたのではと思うほどに勢いがあったが、それでも壁は動かない。


 そこの存在しているはずなのに、音さえも鳴らない。


 少女がドンドンと両手で殴り始める。




「なに、よ、これっ! どうなってんの、あんた!」


「だから俺に聞くな! 口より手を動かせ! 殴り続けたらいつか壊れるだろ!」


「そうには見えないんだけど!? 最高に頑丈なんだけど!?」




 だから喋らなくていいって!




「ねぇほんとに壊れんの? 手が痛いんだけど!」


「それは俺も同じだ! いいからさっきみたいに蹴っててくれ!」


「えぇ……。いたいけな少女になんてことを……」




 おいそれ、後でもう一回言ってもらうからな。さっきの少女らしからぬクリティカルな蹴りを俺は見たぞ。




「こんなことやって意味あるのかなぁ……。ていうかこれなに、壁なの光なの? なんで外出られないの?」




 俺は黙々と壁を殴り続ける。




「未知の文明かなぁ。もしかしたらこのまま、別の世界に飛ばされちゃったりして」




 そこで俺は、ぴたりと動きを止めた。


 少女はこんこんと壁をノックしている。




「って、それはありえないよね、あははっ」





 ――えっ、それフラグ?





 そのときだった。


 ビィィィイイイ、と機械音が響いたのは。





 俺が二十年ほど生きてきて発見した世界の法則を三つ教えよう。


 一つ、うまい話には必ず裏がある。


 二つ、良いことと悪いことは交互にやってくる。


 三つ。


 フラグは必ず回収される。





 一瞬にして、青かった柱が血のような赤に変わる。




「ちょっ、おいお前なにした!?」


「いや私は別に何もしてないんだけど!」




 ピコン。


 四角い枠が表示された。少女の手が触れている場所に。




「やっぱりお前じゃん!!」


「なっ、わ、私はなんも悪くないっ!」




 どのあたりが!? どう考えてもこれはお前のせいだろ!


 会話のドッジボールを続けている間も、次々と四角が表示されていき、やがて柱を埋め尽くした。




「どうなるんだよ、これ!」




 俺がそう叫んだのと同時に、柱が高速で回転し始めた。


 キィ――――ンと耳障りな音をたて、まばゆく発光しながら。




 段々と視界が白くなっていく。横の少女を見ると、地面にへたり込んでいた。




「うぇぇぇ……、いやだ助けてよ……まだ子どもなのに……まだやりたいことたくさんあったのにっ……」




 その姿だけは、いたいけな少女だった。




 あぁもう、仕方ない!




 そう胸の内で毒づきながら、俺は少女に近づいた。




「ほら、手ぇかせ!」




 少女は俺の顔を見ると、驚いたような顔を見せてから、ふくれっ面になった。




「なんであんたみたいな見知らぬやつに……」




 ぶつぶついいながらも、俺の手を取った。引っ張って立ち上がらせる。


 随分と軽かった。そういえば年下だったことを思い出す。


 まぁ、子どもなんだから怖いものなんて知らないし経験したことないよな。


 俺は〈仕事〉をしてきて何度も危ない目にあっているから、このくらいのことでは動じない。




 ……大人として、人生の先輩として、ちょっとは頼れるところを見せようかな。顔も見られちゃったし。




「大丈夫だ、俺の手を握っとけ。そしたら安全だ」


「……なにを根拠に」


「歳。お前子ども、俺大人」


「うわぁうざい!」


「実際そうだろ、あらゆる面で大人の方が強い」


「それを平気で口にするところ、おかしいよ! 大人なら子どもに優しくして!」


「うぐっ」




 見事に切り替えされてしまったが、さっきまでの気分を消し飛ばすことができたみたいなので良しとしよう。


 いつの間にか、周りは全て真っ白になっていた。立ち並ぶ家々も、真っ黒な夜空も、今はもう見えない。


 音と光はさらに強まっていく。




「その、まあ、頑張れ」


「……気の利かない大人」


「どういうことだ?」


「ふつう、こういうときにはね……」




 キィィィィイイイイイイイン――。




 いよいよ声が聞こえなくなり、視界も境目を失いつつあった。


 試しに少女の手を強く握ってみたが、返してはくれなかった。つれない子どもだ。




 ついに、地面の感覚がなくなった。宙に浮いているかのような感じ。


 やがて視界が黒く染まっていき、四肢の感覚が薄れていき、少女と繋いだ手の感覚は確かなまま――


 意識が途絶えた。






 ――そう、これはストーカーの俺といたいけな少女が異世界転移に巻き込まれ、汗水たらしながら必死に生きていく話である。

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