紅白の花
「は〜なこさん。遊びましょ」
皆さんも一度は聞いたり、中には実際やってみた方もいるのではないですか? 誰も居ない古い校舎の女子トイレの3番目の扉を3回ノックすると、花子さんが出てくるなんて話は有名ですよね。
おっと失礼。わたしは、「白雪 桜」立派な大学生です! 今日はわたしが高校1年生の時に出会した不思議で可愛らしくて頼りになる体験をお話しします。
あれは、わたしがまだ高校に入学して間もない頃でした。わたしは中学の頃から内気でクラスに馴染めず、よく虐められていました。それに、これはうちの家系独特の特徴に、女性は瞳が赤っぽくなり、髪の色素も薄くなるという物があるのです。当然これはわたしにも当てはまり、瞳は赤く、髪は白に近い茶色をしています。この様な見た目の違いもあり、相変わらずわたしは高校でも虐められる毎日でした。
そんなある日、わたしはいつもの様にいじめっ子3人組に絡まれていました。
「ね〜あべこ。あたしお金無くなったからお金頂戴。今日この後彼氏とデートなんだ」
「あれ? 亜子この子の名前桜じゃなかった?」
「前も言ったじゃん。伊果。白雪のくせに桜だから、あべこべでしょ? だからあべこ」
「なるほど。まじウケる。ね〜海子はしってた?」
「知ってたし〜。でも何度聞いてもまじウケる」
「だよね〜。ほら、あべこ早く出してよ」
「「「きゃはははは」」」
この後わたしは結局お金を渡してしまいました。わたしは自分が情け無くて仕方なかった。家では内気な性格を注意される事があるので、いじめの事は話せていなかったですし、自分で抱えるしかなかったのです。わたしは次の事業は自分への戒めの気持ちのせいで殆ど集中できませんでした。この授業が終わったらまた虐められる。また情けない自分を見つめることになる。そう考えるとわたしは耐えられなかったのです。わたしは咄嗟に手を挙げて、先生にトイレに行くと伝えました。ただし、いつもの校舎のトイレではいつもの3人が追ってくると思ったので、わたしは旧校舎へと向かい、そこのトイレで誰にも見つからない様に扉にもたれかかりながら息を殺していました。
わたしはこの時、ふと小学校の時一緒だった年下の従妹の葵姫ちゃんと共にやってみた花子さんの都市伝説を思い出しました。
「そういえば、小学校の時、オカルトとか好きだったな~。は~なこさん。遊びましょ。って3番目の扉を3回ノックするんだよね」
トントントン。
ガタッ。
わたしは突然物音がしたので、振り向くと、ゴミ箱が倒れていました。わたしがそれを拾い屈みながら元の位置に戻すと、自分の身体の状態を起こしました。すると、目の前には何の前触れもなく白いおかっぱ頭の目が紅色で、同じ制服を着た可愛らしい女の子が立っていたのです。
「バァッ!!」
「ギャ――――――!!!!」
その子は至近距離でわたしを脅かしてきました。わたしはあまりにもびっくりして、そのまま尻もちをついてしまいました。
「ちょっと、大丈夫? ごめんなさいね」
その女の子はわたしにも優しく手を差し出してくれました。わたしはせっかくなので、ぎこちないながらもコンタクトをとってみる事にしました。
「そ、その~」
「何? はっきりしなさいよ」
「な、何してるんですか? 今授業中ですよね?」
「それはこっちのセリフなんだけど……」
完全に呆れられた。わたしはそう思ってまた黒歴史に残ると思いました。しかし、彼女は全く気にしていませんでした。
「変な子ね。こんなところに来るなんて。それに反応も薄目だし」
「それこそ、あなたもなんでここに?」
「なんでよ。あなたが呼んだんじゃない」
「え?」
「え? もしかして、気づいてないの……」
わたしは、不思議思い首を横に傾げました。
「はぁ……。だから反応薄目なのね……。下見なさい。下」
わたしは言われるがまま下を向きました。すると、わたしの目にはその女の子が浮いている様に見えましたが、わたしは信じられず、唖然としていました。
「え。これ、ほんと?」
「当たり前じゃない。あたし『幽霊の花子』よ」
その瞬間わたしの脳内CPUはショートしてしまい、そのまま倒れてしまいました。その時わたしが感じたのは必死に呼びかけるその女の子の声だけでした。
わたしが目を覚ますと、その女の子が目の前に居ました。
「も~心配したわよ。いきなり倒れるんだから……」
「ごめんなさい。びっくりしちゃって……」
「まぁ、あたしをうっかり呼び出しちゃったのは察したから。それで、なんであんたはこんなとこに居るのよ」
「それが……」
わたしは花子さんにいじめの事を包み隠さず話しました。花子さんなら信頼できると思ったからです。ありがたいことに、花子さんはわたしの話を真剣に聞いてくれました。
「なるほどね~。分かるわよ。あたしも虐められてたし」
「え。花子さん強気だからそんな事無いと思ってた」
「ほら、あたしも瞳が赤いし、髪も白だし、妹もそんなんだったからあたしが庇ってたの。そしたら妹の分も虐められるようになっちゃって……」
「そうだったんだ……。ごめんなさい。辛い事聞いて」
「いいよ。ほら、紅白仲間のよしみだし」
「そうだね」
わたしと花子さんは2人で大笑いしました。今まで友達と笑い合うなんて事はありませんでしたし、初めて自分の瞳と髪に触れられて嬉しい瞬間でした。
「人と笑うのって、楽しいんだね」
「そうでしょ? あたしも妹とよく笑ったよ……。元気かな~」
「きっと元気だよ」
「そうだよね。ありがとう」
すると、廊下の方からいつものいじめっ子3人組の声が聞こえてきました。
「お~い。あべこ~。逃げられるとでも思ったのか~」
「わざわざ探しに来てやったぞ~」
「マジウケる」
わたしは咄嗟に頭を抱え、顔を真っ青にしました。正にこの時は天国から地獄に叩き落された様な気分でした。そんなあたしの顔を見て花子さんは彼女達が例のいじめっ子達だと察してくれました。花子さんがわたしをトイレの個室に押し入れると同時に、その3人組が入ってきました。
「おい。あべこ。隠れても無駄だっての」
3人組のリーダーである亜子が個室の扉を開けた瞬間、形相を変え、悪霊の様な顔になった花子さんが飛び出し、おどろおどろしい声で言いました。
「あたしを呼んだか~!!」
「「「ひぇ―――――――――ッッッ!!!!!!」」」
3人組は大きな悲鳴を上げると、腰を抜かしながらも、その場から必死になって逃げだしました。
「はぁ、これで大丈夫?」
わたしの方を向いた花子さんは既に元の可愛らしい顔に戻っていました。わたしは少しびっくりしましたが、それと同時に安心と喜びを感じました。
「ありがとう!! もう大丈夫だよ!!」
わたしは思わず花子さんに飛びつきました。花子さんの肌は冷たいはずなのに、どこか暖かく、安心感を覚えました。この時、花子さんも何か懐かしい物を見ているようでした。
「そういえば、あんたの名前聞いてなかったわね」
「あ~。ごめんね。わたし、白雪 桜って言うの」
するとその瞬間、花子さんの表情が変わりました。目を大きく開き、わたしの両腕を掴むと、わたしの顔をじっと見つめてきました。
「白雪、赤い瞳、白い髪。間違いない……」
「ど、どうしたの?」
すると突然花子さんは大声を出した。
「あんたのおばあちゃんの名前は!!」
「え、白雪 友葵子だけど……」
「元気なんでしょうね!!」
「え、う、うん。元気だよ」
それを聞いた瞬間、花子さんは顔を手で覆いながら泣き崩れてしまいました。
「そうか、元気か~。良かった……」
「どうしたの?」
「あたしの本名は、白雪 葵子。あんたのおばあちゃんの姉だよ」
わたしはこの時、驚きのあまり声も出ず、ただ動揺していました。その瞬間葵子さんの体がほのかに明るくなると同時に、薄くなり、光の粒になってゆきました。
「どうやらあたし、安心したから昇天するみたい……」
「そんな事言わないでよ。せっかくできた初めての友達なのに……。そうだ。まだおばあちゃん本人に会ってないじゃん! もう今から会いに行こうよ!!」
「そうだね。なら、手を広げて」
わたしは言われるがまま手を広げると、わたしの右手に葵子さんの光の粒が集まりました。
「これで、あたしと桜はずっと一緒。もうくよくよする事はない。さぁ、友葵子のとこに行こう」
「うん!!」
わたしは右手を力強く握りしめ、走り出しました。そしてそのまま学校を飛び出し、自転車に乗っておばあちゃんの家へ向けて全力でペダルをこぎました。
おばあちゃんの家に着くとおばあちゃんは庭の縁側に座っていたので、急いで駆け寄りました。
「まぁ。おかえり」
「おばあちゃん!! これ見て!!」
そう言ってわたしが右手を開くと、そこには紅と白の混ざった一凛の葵の花が乗っていました……。
その葵の花は今も咲き続け、わたしの髪飾り兼お守りとして、いつもわたしに勇気をくれています。