第四節 スカイツリーに侵入
リミさん曰く、元の世界に戻るためには、僕が首にかけている指輪を破壊しなくてはならないらしい。
しかし、指輪の硬度は高い。ハンマーで叩く程度では壊れない。
指輪を壊すためには、この世界の神様に許可をもらわなくてはならない、とのことだ。
「……許可って簡単にもらえるの?」
「……」
無言が答えだった。
というわけで。
僕らは、神様とやらがいる場所へと向かった。
電車を乗り継ぐこと、数十分。たどり着いた神様が住む場所は、
「……スカイツリー?」
「うん、スカイツリー」
東京の墨田区にそびえたつ電波塔、スカイツリー。
観光名所にもなっている塔が、今、目の前に立っていた。
「……」
疑問はいくつかあったが、僕は流すことにした。
「それで神様? はどこにいるの?」
「一番上。てっぺんだよ」
想像通りだった。
「それで、……どうやって行くの?」
一番気になる質問を投げかける。
「神様に招かれているならエレベーターだけど、今回は倒しにいくから、バレないように行かないと」
「……つまり?」
「階段でいかないと」
「……」
こちらも、想像通りだった。
○○○
スカイツリーの中は、機械だらけだった。
四つん這いのロボットが目を青く光らせて、警戒していた。
僕らの視界に、小さな虫が暢気に飛んでいる。ロボットのすぐ近くを通ると、機械たちは目からレーザーを出して、消し炭にした。
「……」
見つかったら、きっと、ああなるに違いない。
リミさんは僕の手をひく。
「こっち」
機械の視界をうまくくぐりぬけ、一階ずつ上っていく。
ひりひりとした緊張感は確実に心を蝕み、知らぬうちに疲労がたまっていく。それでも、リミさんの暖かい手に触れていると、気持ちが和ぐ。
機械の目をかいくぐり、
上って、
上って、
上って。
思ったよりも早く、頂上にたどり着いた。
○○○
元の世界で、僕はスカイツリーの頂上にいったことがない。けれど、テレビなどのマスコミで、頂上の映像を見たことがある。
おしゃれなバーに、巨大な窓から見える東京の夜景。それはそれは美しく、高貴な印象を感じていた。
しかし、この世界のスカイツリーの頂上は違った。
大きな窓は同じだが、ところどころ割れている。外は真っ暗だが、月も出ていなければ星一つもない。漆黒の闇が広がっている。
スカイツリーの頂上も、報道で見たように、おしゃれでもなく、こじんまりとさえしていない。異常に広く、ごったがえしていた。
たとえるなら、工場か。見たこともない機械が一面に広がっており、休みなく働いている。
機械群の中に、一人の男性が立っていた。
彼の頭には、青い光でできた鹿の角がはえていた。角は、右側が折れていて、左側しか生えていなかった。
リミさんに真実を告げて貰った、結婚式場の門前にあった、鹿の像のようだ。
彼は、振り返る。
その顔は、
僕と同じ顔だった。