第三節 幸せな生活の、ちょっとしたこじれ
ベーコンの焼けるいい香りに、僕は目を覚ました。ここはどこだったかと考えて、そういえば僕は異世界に転生したのだと思い出す。
いつもの習慣で窓を開ける。
異世界なだけあって、外の光景は現実世界と全く異なっていた。
球が無数に浮いていて、それぞれの球は細い管で繋がっていて、まるで宙を浮く蟻の巣のようだ。
一つ一つの球は、一つの部屋となって降り、いくつか集まることで家となっているらしい。
最初に目覚めたとき、なぜ部屋の形が丸いのかと疑問に思っていたが、そういう理由があったらしい。
寝室も真ん丸な部屋で、それに合わせてか、ベッドも真ん丸、(行ったことはないが)まるでラブホのベッドのようだ。
パジャマから着替え、一人しか通れない細い廊下を進むと、僕が目を覚ましたリビングにたどり着く。
二人用のテーブルには、黄身がふっくら膨らむ目玉焼き、油でつやつやしているベーコン、新鮮なサラダに、湯気がただようコーンスープと、美味しそうな朝食が並んであった。
「青宮さん、おはよう!」
リミさんはコーヒーを片手に満面の笑みを浮かべる。
「どう? リミさん特製のブランチ!」
「すごく美味しそうだね。ホテルの朝食みたい」
「えへへ、それほどでもあるかも! 冗談はさておき、ご飯食べよう!」
リミさんは椅子に座る。僕も座ると、リミさんは両手を合わせる。
「いただきますっ!」
「いただきます」
まずはスープでお腹を温め、目玉焼きに醤油をかけて半分食べる。ベーコンをかじり、サラダをささっと食べる。
どれもこれも美味しくて、箸が止まらない。
リミさんはコーヒーをすすり、くすりと笑う。
「うんうん、結構美味しくできたな。そうだ、青宮さん。今日は何しようか。またまたデパート散策する?」
「うーん、どこでもいいよ」
「なら、自然公園にいこうよ。お花が綺麗なのよ」
「そうだね。公園にいこうか」
リミさんとお喋りしながら食べていると、朝ご飯も何倍も美味しい。
幸せだと。
しみじみと感じる。
そのとき、だった。
服の中にしまっていた指輪が、淡く輝いた。
「あれ? なんだろう、光っている……?」
デパートのときも光っているように思ったが、今回はあのときよりも爛々と輝いている。
リミさんなら分かるかと、僕は顔をあげる。
「……」
リミさんは、
指輪を凝視していた。
その表情は、嬉しそうにも、悲しそうにもみえた。