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リミさんが向かった先は、洋服屋だった。
女の子らしいな、と思ってはいたが、
「どうかな! この服!」
「……えっと、」
帽子は青。
ジャケットは黄色。
ズボンは赤。
「……信号、機?」
率直な感想を伝える。
「ええ!? どこが!?」
「……色が……」
ネタでやっている訳ではないようだ。リミさんは首をかしげて服をつまむ。
「信号機かあ。うーん、私はそう思わないのになあ」
どうやら彼女は、服を選ぶセンスがないらしい。僕もあまり服に興味はないが、さすがにリミさんの格好はおかしい。
結局、リミさんは服を購入せず、代わりにパッチワークのバックを買っていた。これまたド派手だが、本人は満足しているので、別にいいかもしれない。
「そろそろお腹空いてきたね。ご飯食べに行こう! 何食べよっかー」
なんて歩いていると、突然、彼女は立ち止まる。どうしたのかと尋ねると、彼女は声を潜めて指差す。
「ねえ、あの子。もしかして迷子かな」
人々やロボットが闊歩する中で、ぽつんと、一人の子供が不安そうに辺りを見渡していた。近くに親らしき人はいない。
「声かけてくるね」
リミさんはすぐに子供に駆け寄る。
「どうかしたの、迷子?」
子供はふるふると首を横に振る。
「僕は迷子じゃないよ。お母さんとお父さんが迷子になっちゃったの。僕が目を離したすきにいなくなっちゃったの」
子供の目は潤んでいて、涙が零れ落ちてしまいそうだ。
「そっかそっか。なら、お母さんとお父さんを探しにいかないとね。お姉さんとお兄さんが頑張って探してあげる!」
リミさんはちらっとみて「いいよね?」と目で訴える。別に断る理由もないので、軽く頷く。
子供は涙を袖で拭き、にこっと笑顔をみせる。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとう!」
リミさんは子供の手を引く。
「君の名前、教えてもらってもいいかな?」
「僕はね、りゅうと!」
「りゅうと君か。かっこいい名前だね」
「えへへ、そうでもないよ」
リミさんのおかげで、あんなに不安そうにしていたりゅうと君も、徐々に笑顔が戻ってきた。
もちろん、リミさんは話にばかり集中していない。しっかりと辺りを見渡し、親がいないか探している。
さすがだな、と思いながら、僕も二人の後ろをついていき、この子の親を探す。
「……ねえ、お姉ちゃん、お兄ちゃん」
りゅうと君は頬を赤らめる。
「トイレ、いってもいいかな」
「おっ、ちょうどあそこにお手洗い場があるね。じゃあ、いこうか」
「うん……」
さすがに子供一人で行かせるわけにはいかない。僕もりゅうと君と一緒にトイレに入る。
先に用をたし、手を洗う。無意識に鏡を見ていると、
「あれ……?」
ずっと気づかなかったが、首にネックレスのようなものがかかっている。
ネックレスには、銀色の指輪がついていた。まるで結婚指輪のようだ。まじまじと見ていると、りゅうと君が隣に並んだ。
「おてて、洗う!」
「うん、洗おうか」
あとでリミさんに聞こうと思い、僕は指輪を服の中にしまった。