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空は青く、太陽は機嫌よく暖かな光を放っている。
お礼とばかりに、テラスの中央にある噴水は水を高らかにあげている。
噴水の周りには、楽しそうに遊ぶ子供たちのオブジェが設置されている。
その周りで、本物の子供達がおいかけっこ、親はテーブルでお菓子をつまみながら、のんびりとお茶会をしていた。
テラスは、平日の昼間のように、のんびりとした時間が流れている。
この風景だけを切り取れば、もとの世界の公園のようだが、少し視線をそらすと、ロボットたちがお店でランチをしているのが見える。
リミさんに聞いたところ、この世界のロボットは普通にご飯を食べるし、睡魔に襲われるし、病気にもなるとのことだ。
今だって、僕とリミさんが座るベンチの向かいで、ロボットが美味しそうにハンバーガーを噛っている。
「ねえねえ、青宮さん!」
リミさんは嬉しそうに一眼レフを見せる。
「よく撮れているでしょ! 私が一番気に入ったのはね、これこれ。緑の薔薇! 意外に可愛い! 私も育ててみたいなあ」
ここで、「青宮さんは何の花が好きだった?」と聞かれたらどうしようかと、僕は身構えていた。
正直なところ、花にはあまり興味はない。どんな種類の薔薇も、「花だなあ」と思うだけだ。
リミさんと花を見ている間も、笑顔の彼女をぼうっと眺めていたのだから。
けれど、彼女は僕に質問してこなかった。
大袈裟にぴょんと跳ねて立ち上がると、お腹をさする。
「小腹すいてきちゃったな。軽く買ってきていいかな」
頷くと、はち切れんばかりの笑顔になる。
「やった! じゃあ、行ってきます!」
ピシッと敬礼して、彼女は小走りで走っていく。
ぼんやりと噴水のオブジェを眺めていると、リミさんはすぐに戻ってきた。
「これ、すごく美味しいんだよ!」
自信満々に掲げたのは、
「……た、たこ焼き……?」
「うん!」
それも、ただのたこ焼きではない。唐辛子がたっぷりかかったたこ焼きだ。
「……辛いもの、好きなんだね」
「えへへ、まあね」
なぜかリミさんは照れている。
「一ついる?」
「えーっと……」
食べたらお腹を壊してしまいそうだが、せっかくの厚意だ。受け取らなくてはならない。
「それじゃあ、一つだけ、」
「むむっ!」
突然、リミさんは唇をとがらせる。
「リミセンサーが発動! ピピピピ、報告します! 青宮さんは、このたこ焼きと相性が悪いようです!」
「……相性?」
「そうです! だから、」
リミさんはふんわりと微笑む。
「無理して食べなくてもいいからね」
僕は、はたと理解した。
彼女は、僕が遠慮して、嫌々激辛たこ焼きを食べるのかもしれないと心配してくれたのだ。
彼女の優しさに触れ、義務感に縛られていた僕の心が絆される。
「辛い物はそんなに得意ではないけど、一つくらいは貰ってもいいかな」
「けど……」
なおも心配してくれている。
「大丈夫。辛い物は苦手じゃないから」
さっきは、リミさんの顔を立てて、食べないといけないと思っていた。
けれど、今は違う。
自分を思いやってくれるリミさんが太鼓判を押しているのだ。一つはチャレンジしてみたい。
息を吹きかけて冷まし、一口食べる。
「んっ……」
あつあつのタコ焼きの中から、深みのある辛さがじんわりと滲みだす。辛すぎず、物足りなさもない、ちょうどいい辛さだ。
「美味しい……」
ぽろりと言葉がこぼれる。
不安そうにしていたリミさんは、花が咲いたように顔をほころばせた。
「ほんと! でしょ? 美味しいでしょ! よかった、気に入ってくれて!!」
上機嫌で、リミさんはたこ焼きを頬張る。
「あふっ! あふあふっ!」
「わっ! 水買ってくるね!」
近くにあった自販機で水を購入し、リミさんに届ける。
「はい、飲んで!」
リミさんは急いで水を含み、飲み込み、ふう、とため息をつく。
「美味しい……。熱かったけど……。美味しい……。青宮さん、お水ありがとうね」
「ううん、たこ焼き一個もらったお礼だよ」
「本当に助かった! これはタコ焼き一個だけじゃ私の感謝の気持ちは伝わらない! もう一個いる? 無理はしなくていいからね」
「ありがたくもらおうかな」
「どうぞどうぞ!!」
木串でタコ焼きを一つすくう。
ぱっと見は真っ赤で、非常に辛そうだ。僕だったらどんなにお腹が空いていても、こんな怪しいタコ焼きは食べない。
リミさんが買って勧めてくれたおかげで、美味しいタコ焼きを食べることができたのだ。
それが新鮮で、心がわくわくする。
すべて食べ終わると、リミさんは満足そうにお腹をさする。
「おいしかった! このままお昼寝したいけど、どうせならショッピングしたいなあ。行ってもいいかな?」
「もちろん」
「よーし!」
彼女は立ち上がると、手を差し伸べる。
「行こう!」
彼女はまるで太陽のようだ。
明るい光をふりまき、僕が見たこともない景色を照らしてくれる。
僕は誘われるまま、彼女の手を取る。
正直、年齢イコール恋人いない歴な僕は、恋人という概念がいまいち分からない。リミさんが恋人と言われても、まだしっくりこない。
けれど、彼女についていきたいと、僕はそう思った。