第二節 デパートにいこう
この世界は、リミさん曰く、ミラクルランドという名称らしい。魔法使いや怖い魔物がいそうな名前だが、意外にもこの世界はSF世界だった。
道中の建物はSFで見たことがある近未来的なつくりで、通行人の中にもロボットが呑気に歩いていた。
しかし、デパートは意外や意外、普通の老舗デパートであった。明治時代の建物と説明されても納得がいく。
デパートは繁盛していた。今も多くの家族連れやロボットたちが楽しそうにデパートの入り口に吸い込まれている。
リミさんは大きく伸びをする。
「とうちゃーく!まだ昼には早いけど、ご飯食べる?」
建物の屋上に設置されている時計は、十時を示している。お腹もまだ減っていない。
「減ってないけど、そもそも、死んだあとなのにお腹減る……んですか?」
唐突の展開に驚いて、ついため口をきいてしまったが、普段は敬語を使っている。
後付けで敬語を口にすると、リミさんはニコニコ笑顔で首を横に振る。
「畏まらないでって! リラックスリラックス! お腹はしっかり減るよ! 眠気もちゃんとある! ここは異世界だからね。天国とはまた違うの」
彼女は顎に手を当てて「うーん、」と悩む。
「なら、最初はどこ行こっか? 青宮さんは見たいお店ある?」
「いや、特には……」
「あまりショッピング興味ないの?」
「まあ……」
特別趣味もなく、生活必需品を購入する以外の目的で店に入ることは滅多にない。
「そっかー。なら、九階にあるテラス、見に行っていいかな?」
リミさんは目をキラキラ輝かせる。
「テラスのフラワーロードに、いろんな種類の薔薇が植えてあるんだって! 私、お花好きだから、見に行ってもいいかな?」
「ああ、うん。わかった」
「やった!! たくさん写真撮っちゃお!」
はしゃぐリミさんはまるで子供のようで、僕はついつい吹き出してしまった。
こちらの世界に来て以来はじめて、いや、あちらの世界を含めても久しぶりに、僕は笑った。