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#6 軽自動車は空を飛ぶ。

「どうやって逃げる?」

「外にホ〇ダのN-B〇Xを控えておいたわ」

「ご都合展開ですし『まる』が『オー』に見えますから!!」

「そんな茶番やっている場合じゃあないぞ!!」


 後ろから控えめに言って爆音が響いてくる。


「くっ……追い付かれるな」


 ポテトが独りごちる。そこで田中が意を決したように、


「勇者様!! 例のバズーカ、貸してください」


 チエが驚く。


「田中さん!!」

「ええ、ここは私が」

「あっそうじゃなくて靴紐ほどけてますよ」

「あら本当」


 靴紐を結び始める田中……。迫る轟音……。


「急げBAKA!!」

「ああっもう良いです早くバズーカを!!」


 ポテトがバズーカを手渡したところでDryMoonが曲がり角から出現!!


「今の内に逃げてください!!」

「頼んだぞ」


 去る三人。バズーカを構える田中。迫るDryMoon。


「行けぇ!! 8.6秒バズ〇カ!!」


 パーン


 色とりどりの紙吹雪……。


「……」

「……」


 恐る恐るバズーカを見る田中。


『8.6秒クラッカー』


 田中とDryMoonの目が合う。愛想笑いをする田中……。


「ぎゃあああ×数回」



× × ×



「今悲鳴が聞こえたような」

「気にするな。車はどこだ」

「N-B〇Xならそこに……」


 ビルから出た三人は少し離れたところにある車に近付いた。


「私が運転するのでお二人も早く!!」


 そこで


「待ってくらさ~い!!」


 見れば田中が走って来る。


「ああもうタイミング最悪だ」

「田中!! 早く乗れっ!!」


 田中の後ろにはDryMoonの姿も見える。魔法を使ったのか、凄いスピードで田中が後部座席に乗り込んだ。チエは運転席、ポテトは助手席、魔王も後部座席に乗り込む。DryMoonがどんどん迫ってくる。


「まずいっ早くドアを閉めろっ」


 田中がドアを閉め……


 ピーッピッピッピッピッ……


「ああっ自動スライドドアだった!!」

「やばい来るよ来るよ!!」


 DryMoonが目を赤くして走って来る。


「ドア閉まった!!」


 ピーーッ


「今度は何だよ」

「勇者様、半ドア!!」

「あっ」


 DryMoonは車体の左に超接近している。その腕が振り上げられ……


 ドカッ


 ポテトが思いっっきりドアを開けてぶつけた。DryMoonが姿勢を崩す。ドアが閉まる。


「チエ、出して」

「シートベルトしました?」

「したから早く!!」


 ブオオオ……


 車が発車する。


「ふぅ……流石に追ってこないだろう」

「あっポテトさんそれフラグ」

「ま~さ~か~? 来ないよ」


 ダッダッダッ


「……」

「……」

「……」

「……」


 後ろから……


 ウィンウィンウィンウィン


「来てますよっ!!」

「そんなに良い関係を築きたいのか……」

「ウィンウィンな関係って言いますけど!!」

「チエ、運転得意かっ」

「数日前に免許取って、これ新車なんですよ~」

「最悪だっ」


 走るN-B〇X、それを追うDryMoon!! 傍から見れば大変シュールな光景だ。


「追い付かれるぞ。チエ、もっと速くできないか?」

「いえ、法定速度は守らないと……」

「法定速度!!」


 田中が叫ぶ。


「そんなの普通気にしませんから!! もっと飛ばしてください!!」

「もう……」


 チエがアクセルを踏み込む。一気にDryMoonを引きはがす。


「あれは戦闘用だから、走るのには向いていないんだろう」

「よし、この調子なら逃げ切れるぞ!!」


 キッ


「は? 何で止まった? 赤信号か?」

「いえ、前見てください」


 グワッグワッ


 実に愛らしいカルガモの親子がゆ~っくり横断している。


「~!!」

「ん~あぁ~」


 グワッグワッ


「早く~早く~」


 後ろからDryMoonの駆動音がする。


「早うせんか! 早うせんか!」


 横断終了!! N-B〇X発進!!


 ブロロロ……


「危なかったな」

「……あ」

「何だよ田中」


 振り返る一同。見えたのは、足を車輪に変化させたDryMoon!!


「まじか!! そんなのアリかよ!!」

「まずいですよ!!」


 キッ


「今度は何だ!!」

「赤信号です」

「もうっハンドル借りるぞ!!」


 ポテトが横からハンドルを奪う。


 キィィ……


 タイヤが地面を削り、次の瞬間車が走り出す。エンジンの重低音が空気を震わせる。ある程度速度が安定したところで二人が席を交代した。


「ポテトさん免許持ってるんですか?」

「いつか取りたいと思っている!!」


 残り三人が悲鳴を上げる。


「くそっ振り切れない……」


 DryMoonはまだついてきていた。車は超高速で道路を走っていたが、DryMoonも全く負けずに、徐々に距離を詰めてくる。双方の車輪が車道を盛大に削っていた。


「このままでは追い付かれます!!」

「田中、不愉快だから黙ってろ」

「……」


 ポテトがイライラとハンドルを指で叩く。


「チエ、何か方法無いか? それこそ、魔法で吹っ飛ばすとか」

「あの物質、相当頑丈です。無理があります。特に……」


 チエは少し黙り、


「私なんかじゃ」


 車内が静かになる。聞こえるのは車のラジオから流れる「女々しく(ry」だけだ。


「何でそんな歌流してるんですか」


 田中が呆れる。チエはじっと考え込んでいる。そしてハッと顔を上げた。


「どうした。滅びの呪文でも思い出したか?」

「違います。左に行ってください!!」


 ギィィッギャギャッ


 車が急激に方向転換し、左へ走り出す。木の生い茂った林の中の道になる。


「……何でだ?」

「曲がってから聞くんですか? この先に崖があります」

「Uターンして良いかな」

「ダメです。スピード緩めないで下さい」


 後ろから地面の擦れる音がし、DryMoonが木を薙ぎ倒しながら走って来る。


「集団で身投げでもするつもりですか? チエさん」

「私がどうにかしますから!!」

「信じるぞ」


 ポテトの言葉に、チエの頭にある光景が浮かぶ。


『信じるぞ。チエ』


 攻めて来た軍勢。動けない自分。仲間の悲鳴。


「……っ」


 チエは唇を噛みしめ、拳を握った。その時だった。


「あと、できなかったらハーゲンおごれよ」

「……!?!?」


 突然何を言い出すのか、この男は。こんなギリギリの状況で……?


 そこで後部座席から、空気の漏れるような音がした。魔王トムが苦笑しているのだった。


「ほら見ろよ。俺らの勇者は滅茶苦茶だ」


 田中もため息をついている。


「はぁ~……。私も援護するしかないですよね」


 呆気に取られていたチエも、何だか可笑しくなってフッと笑ってしまう。


「本当に、」


 ポテトがアクセルをさらに踏み込む。


「滅茶苦茶ですね」


 車はさらに加速する。高速の車の中に、フワッと軽い空気が溢れた。


「見えて来たぞ!!」


 ポテトが叫んだ。目の前に、崖というより、巨大な裂け目が広がっていた。裂け目はかなり広く、そして深かった。


「まさか飛び越えるのか」


 ポテトが心なしか愉快そうに呟く。


「はい。DryMoonは谷底に落ちます」


 チエが答えると、田中は呆れたように


「私の呪文でも飛び越えられるか微妙ですよ」

「いえ、私もやります」


 田中が何か言おうとした時、ドカアッと音がした。魔王が舌打ちする。


「小型ミサイルを打って来やがった!!」

「……!!」

「ちっ、もう崖が目の前だぞ。頼むぜ」


 ギャギャッ


 ミサイルを避けつつ、車が進む。目前に巨大な裂け目が迫って来る。


「今だっっ!!」


 ポテトが叫ぶ。チエはウィンドウを開いた。田中が呪文を詠唱する。


「ハヤク+ハネル!!」


 現れた魔法陣の上を車が通過し、一気に加速して、前へ跳んだ。しかし到底向こうには辿り着かない。そこでチエが窓から身を乗り出した。後ろを向くと、減速できなかったDryMoonが崖から飛び出ていた。それに向かって指を向けた。


 相手を倒す必要はない―――。


 精神を集中させる。チエの髪に、パリパリッと火花が飛び散る。指の先が光り、


「レモーブ!!」


 白い光が炸裂し、赤と橙の火花が飛び散り、DryMoonが大爆発を起こした。


 青と白の破片と煙が飛び散る中、N-B〇Xは爆風に乗ってさらに跳ぶ。そのまま対岸にギリギリ後輪をつけた。


 ギャギャッ、ギャァッ


 タイヤが悲鳴を上げ、車は少し走って停止した。


 キッ


 ―――沈黙。


 次いで皆がふぅ~っとため息をつく。


「……やりましたね」

「ああ、凄かったな」

「ハーゲン無しかぁ」


 口々に呟く。やがてポテトが身を起こし、


「無茶をするなぁ。正気じゃない」


 チエは少し俯き、


「すみません」


 謝る。しかしポテトは


「ただ、ああいう滅茶苦茶なのは嫌いじゃないな」


 そう言って、ニッと笑った。


「……あ」


 次の瞬間には、ポテトはいつも通りの無表情で、


「よし、家に帰るまでが遠足だ」

「村に帰りますか」

「DryMoonも、崩壊しただろ」

「テキトーですね」


 ガヤガヤしつつ、N-B〇Xはゆっくり走り出した。

 自動スライドドアのネタをやるためにわざわざ車種を調べた記憶があります。

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