#5 音楽は世界を変える。
「でもアジトなんてどこに?」
勇者一行は村から出発したが、すぐに止まった。
「ああ、アジトの位置は分かってるの。こっちよ」
チエが先陣を切って歩き出す。
「よく見付けられたな」
「苦労したでしょうね」
残り三人がそんなことを言ってついていくと、
「ほら、あれよ」
男性一同、一気にズッコケた。
巨大なビル。ご丁寧に看板にネオンサインでDryMoonと書いてある。屋上には金色のオブジェ。
「目立つな!!」
流石のポテトもツッコミを入れた。チエは表情を引き締めている。
「それだけ余裕があるということよ」
四人はビルの前に立った。正面の自動ドア前の看板に「来客はこちら」
「入っていいのか?」
「あ、もう一つドアが」
そちらの前の看板に「侵入者はこちら」一行はしばらく黙り込んだ。
「罠ですよね」
ポテトは頷き、田中を引っ張り、侵入者用ドアを開け、中に放り込んだ。
「ちょ!?」
ポテト、容赦なく扉を閉める。
「待ってください! 開けて!! 開けてくださ、う、うわぁ」
ドーン
バキバキ
バーンズガーン
ドドド……
グサッグサッ
……
「「「……」」」
三人が沈黙する中、田中が出て来た。可哀想な田中……酷くボロボロだ。
「だ……大丈夫じゃないですよね……」
チエが遠慮がちに声をかける。田中は地面に伏した。
「よし、行くか」
ポテトがさっさと正面玄関に入っていく。
「ちょっと!?」
田中がピョコンと起き上がる。何故か傷は完治している。
「あ、治ってる凄い」
チエが驚く間もなく田中はポテトを追って行った。
「……皆さん個性的ですね、魔王さん」
「トムで良いぞ」
魔王に促されてチエもビルに入った。
ビルの中は清潔だった。壁、床、天井が白い。
「もし敵に会ったらどうするんです」
田中が訊くとポテトはめんどくさそうに
「そんなの、お疲れ様で~すって言って愛想笑いで誤魔化すんだよ」
「大丈夫ですか……そんなんで」
チエも遠慮がちに言うが、ポテトは気に留めない。
角を曲がると、警備員が数人いた。
「……」
「……」
互いに見つめ合って数秒硬直するが、やがて勇者一行は
「「「お疲れ様で~す!!」」」
ニコニコしつつゆっくり後退……。
「侵入者発見!!」
慌ててUターン。
「ダメじゃないですか~!!」
「くそっ勝ちるが逃げだ!!」
「いやいや逆ですから!!」
警備員はずんずん追ってくる。
「流石に逃げ切れないな……チエ!!」
「ひゃっ」
ポテトがチエに武具屋の縄跳びを渡す。
「え、こんなのでどうすれば?」
「魔王」
ポテトの声に魔王は頷き、「ミュージック、スタート!!」
~♪
何やらさくらんぼが食べたくなるようなメロディーだ。
「いやいやそのナレーション狙ってますよね」
一方チエは音楽の魔力で自然と縄跳びを始める。
「え、何、体が勝手に」
警備員は呆気に取られている。そこに白いキャップを被った田中登場。
「なるほど! リズムに合わせて縄跳びを跳ぶのがリズム縄跳びなんだね!!」
音楽の高揚と共に縄跳びのリズムも早くなる。
「凄いね~! サビくるよ~! サビどうなっちゃうの~?」
サビ。チエが縄跳びを床に叩きつける。
パーン
「跳ばなぁい!!」
チエが両手をグッジョブにして不思議な踊りを踊る。警備員は戦う気力を削がれていく……!!
「サビで跳ばないのぉ!? なんか頭から離れなぁい!!」
田中も踊りだす。ポテトと魔王も参加する。警備員も一緒になる。この技は攻撃の為のものではない。相手の戦意をなくし、和解してしまうのだ……!! なんと恐ろしい。
「そしてこの技をにゃ〇こスターと言う……!!」
ポテトはほくそ笑んだ。
× × ×
DryMoonビルの最上階、黒い影がパソコンを操作している。その口元には笑みが浮かんでいる。
「くくく……」
その人物がキーボードを素早く叩いた!!
『ゲームクリア☆』
「っしゃあトゥルーエンド来たぁ!! いや~分からない、あんなトコの隠しは気付かない!!」
部屋の扉を開けた勇者一行はまさにその瞬間を見たので気まずい。
「……」
「あ」
影が振り返る。どうやら良い年のおじさんだ。
「ってそんなことより気付かれましたよ!!」
焦る田中、焦る魔王、焦るチエ、日ごと色褪せる記憶。
「変なナレーター入れないで下さいよ!!」
DryMoonのリーダーっぽい男は近づいてくる。そして
「一緒にやる?」
「やるやる~ってなるかボケぇ!!」
ポテトのハイキック!! 吹っ飛ぶリーダー!!
「あっ侵入者」
「遅いわー!!」
魔王とチエは完全に取り残されている。リーダーはチエに気付くとニヤリと笑い、
「何かと思えばあの時魔法を使えなかった魔女か……」
「あ、そうです。私、魔女のちえみ。こっちはオタクの田中」
自己紹介が聞き覚えのある響きだ。
「ふん……そんな奴に何ができるっ、私も戦闘はできるのだ」
リーダーは突然ポテトを殴り飛ばし、田中をすっと横にずらし、魔王を気迫で吹っ飛ばした。強い!!
「ちょ、なんか私だけ……」
田中は一人うろたえる。
「はは、見ろ、お前が戸惑っている間に仲間は全滅だ!!」
「……はっ!! え、あ、すいません、ちょっと寝不足で」
「( ゜Д゜)ハァ? 戸惑ってるどころか寝てんじゃねーか」
「すいません」
チエが頭を下げる。リーダーは呆れた。
「ふん、そんなんじゃあ村なんて守れない、ざまぁねぇな」
「うっ……」
チエは、魔法を使えなかった自分の姿を鮮明に思い「出さなくていい!!」
「へ?」
ボロボロになって倒れたポテトだった。
「変なナレーション入れて惨めな自分思い出してどうする。それより上手くいく自分をイメージしろ!! お祖母ちゃんの生きる知恵だ!! チエだけに」
チエもリーダーも呆気にとられている。
「これを使えっ」
パサッ
「これ……武具屋の、服?」
「着ろ!! 上から羽織れ」
チエがその「スーパーブルゾン」を着た瞬間、音楽が流れだした。
「どうも、効率的な戦い方、充実した攻撃呪文―――魔法使いです」
倒れたポテトと魔王、棒立ちの田中、そしてリーダーは突然何か始めたチエを見ている。
「DryMoonってどんな活動してるの? え? 略奪に強盗、詐欺に万引き? はっ、ダメ組織!!」
「いや何も言ってないけど」
困惑するリーダー。
「じゃあ、そうやって手に入れた金は、どんな金ですか~?」
音楽が止まる。
「汚い、金よ!!」
~イッツァダティワーク♪
チエの両隣に美化されたポテトと魔王が登場。
「え、何、何なの」
「そんな非人道的な手段で稼いだ金は絶対に綺麗じゃなぁい、世の中のサラリーマンはみんな汗にまみれて不安を抱えて、それでも働いてるの、今からでもDryMoonはやり直せるわ、どうすれば良いと思う?」
~テテテテ テーテテ テテテテテ
「真面目に働く」
ジャジャジャン ジャジャン ジャン
ジャッジャッ ジャジャンジャジャン
「自分で稼ぐ」
ジャジャジャン ジャジャン ジャン
ジャッジャッ ジャジャンジャジャン
ナ―ナナナ―ナナ ナナナナ~
ナ―ナナナ―ナナ ナナナナ~(魔王が脱ぐ)
「真面目に働く」
ナ―ナナナ―ナナ ナナナナ~
ナ―ナナナ―ナナ ナナナナ~(ポテトが脱ぐ)
「自分で稼ぐ」
ナ―ナナナ―ナナ ナナナナ~
ナ―ナナナ―ナナ ナナナナ~
ナ―ナナナ―ナナ ナナナナ~
ナナナ~
ダティワッ
「自分で・稼ぐの」
リーダーは倒れてしまった。
ポテト「スーパーボンバー」
魔王「ウルトラハイパー」
チエ「ブルゾンチエみ」
ポテト&魔王「withY!!(勇者)」
「……なんかダサいね」
チエが呟いた。
× × ×
「さ、反省した?」
「しました。もう悪いことしましぇん」
「児童書も驚愕の改心の早さ」
チエが呆れるとポテトが
「怪しいな。まだ武器兵器その他諸々あるんじゃないか?」
「あります」
「突然素直になったなコイツ」
ポテトも流石にたじろいでいる。
「で、何があるんだ」
「ベッドの下に秘蔵書が……」
「……それ一歩間違えるとこのサイトの利用規約に違反しますよ」
田中が忠告した。魔王がイライラしつつリーダーを問い詰める。
「そうじゃなくて何か危険な物がねぇのかって聞いてるんじゃワレェ」
「あ、はい。DryMoonというアンドロイドが隠してあります」
「組織の名前まんまやんけ」
リーダーの話によれば、戦闘用の殺戮兵器らしい。
「そいつを破壊してもらおうか」
「はい。ではこの停止スイッチを……」
ピッ
グイーン
「……何の音だ?」
「あっしまったこれエアコンのスイッチだ」
一同ずっこける。
「こっちだった」
ピッ
ガガガ……
音のした方に目をやると、ガレージのシャッターが開いている。
「また間違えたのか。いい加減にしろ」
「……」
「?」
「あのガレージの中に何が入っていると思う」
田中は首を傾げ、
「そりゃ車……」
と言ってからはっとした。ガレージの方からガシャン、ガシャンと音がする。
「くそっ騙したかっ」
「ははは!! そう簡単に改心するかバーカ」
「く……」
現れたのは青い体に白いラインの入ったスリムな人型ロボットだ。
「標的発見。僕DryMoon」
「え?」
「僕ドライ……ムーン……ドラえ……もーん」
どうやら猫型ロボットのようだ。
「いやいやアウトですから!!」
キュイーン
DryMoonは跳躍し、まずリーダーを叩きのめした。
「あっ」
「……可哀想に」
「今のうちに逃げるぞ!!」
あの人たち、今は何してるんでしょうね……。