#2 勇者は田中を捕まえる。
なめらか城前。
「酷い目にあったな。まあいいや」
ポテトは追い出された際全身に着いた埃を払う。目が痒い!!
「僕はハウスダストアレルギーがあるんだよ……」
埃が大体落ちた。
「さて、RPGの鉄則、仲間を探す。さっさと仲間探して戦闘を楽にしようっと」
ポテトは周囲を見渡す。城下町は石畳の道に石造りの建物があり、人々が行きかい賑やかだ。その中に看板があった。
「おっ」
ポテトは看板を読んだ。しかし看板は裏側だった。表からでないと字が読めない!
「はあ? この妙にリアルな要素要らないよなぁ~。裏に書いてあってもいいじゃん」
回り込む。
『ルイータの酒場 この先→』
「どこかで聞いたような響きだな。まあ酒場で仲間が探せる」
顔を上げると、爽やかな青空が広がっていた。こうして勇者ポテトの冒険は始まった!!
『ルイータの酒場は閉店致しました。長らくのご利用誠にありがとうございました。』
「嘘だろぉぉ!?」
なんてこったパンナコッタ。
「それはイタリアのデザートだ」
あれ美味しいですよねぇ。
「知るか!! さてどうしよう」
ポテトは途方に暮れる。閉店した酒場の前をウロウロしていると人が通りかかった。とりあえず至 急そいつをロープで捕獲する。
「ちょ、何するんですか!!」
男は「お助けぇ」と叫ぶ。いつの時代劇だ。そこを通った人が警察に通報しそうだったのでオモチャの警察手帳を見せ、
「私が警察です。問題ありません」
「嘘だッ!!」
「まぁ乱暴しないから。ちょっと来て」
路地裏に引きずり込む。
改めて男を見る。黄色の眼鏡、黄色のTシャツに黄色のシャツを羽織り、どこで買ったのか黄色のズボンに黄色の靴だ。黄色のカバンも持っていた。
「何だかイエローな奴だな。そうだ、お前仲間になれ」
「いや、どんだけ態度デカイんですか!?」
そう言った顔は僕には及ばないが、まあイケメンだ。
「何、変なナレーション入れてるんですか! ロープ解いてください!」
「まあ焦らずにお茶でも……」
お茶を淹れ、自分で飲むポテト。
「いや自分が飲むんですか!」
「ん? 何だこれ」
ポテトが男のカバンからキーホルダーを外す。
「あ~、キュアプリのか。幼児向けアニメだぞ?」
「キュアイエローちゃんに触るなっ」
男は叫ぶがポテトはニコニコ笑ってナイフを取り出す。
「さて……仲間にならないならこの子の首を切r」
「申し訳ありませんでしたもし私のような役立たずのポンコツで良ければ是非貴方様のお仲間にしてくださいお願いします」
「あはは自分の大切なもののために必死になる姿がたまらないねぇ」
「(この人鬼か悪魔だ……)」
ポテトは男のロープを解いた。ポテトは男にキーホルダーを返す。
「そういえば名前聞いてなかったな」
「私は田中です」
沈黙。
「ぷっ」
ポテトが吹き出し、笑いだす。
「HAHAHA! 田中ってwww 田中ってwww」
「それ全国の田中さんを敵に回してますよ。田中姓は多いですよ」
田中は律儀に答え、続けて
「それに本当はタイタニック・ナーザンライツ・カタストロフィの略なんです」
「めっちゃレアだった。しかも中二病チック」
ポテトが呟く。
「私もお名前をお伺いしておりませんでしたね」
「僕はポテト……」
田中が笑いをこらえている。
「い、いや、ポメラニアン・テリア・トイプードルの略なんだ」
「なんで犬なんですか。余計ダサいですって。まあ、よろしくお願いしますポテトさん」
「勇者様」
「は?」
「勇者様って呼べ」
「やですよ」
「よしキュアイエロー斬首だ」
「よろしくお願いします勇者様ァ!!」
「よしよし、それで良いのだ」
不服そうな田中と満足そうなポテトは握手した。こうして、ナンチャッテ勇者とイエローマン田中の冒険は始まった……!!
「お腹すいたな」
「はぁぁ!?」
ポテトは腹をさする。
「ほら、腹が減っては細工はできないって言うでしょ」
「イクサですよイクサ。第一、まだ町を出てないっすよ!」
なめらか城下町は賑やかだ。
「いいじゃん別に。ほら、あそこの寿司郎で食べてこ」
「駄目ですよあそこ高いんですから。別のにしましょう」
「仕方ない。あそこのファミレスにしようか」
2人はファミレス「コココス」に入る。可愛い店員さんが出てくる。
「いらっしゃいませ~ココはコココスで、ココココスではなく、ココ、コココスです」
「紛らわしいな。コココスだろ」
「三名様でよろしいでしょうか?」
二人しかいない。
「え?」
「え? 後ろに黒い髪に白いワンピースの……」
「怖!!」
そんなことを言いながら席に案内される。
「さて、何を注文したものか」
田中がキーホルダーを取り出す。
「ねえイエローちゃん、何にする?」
「キーホルダーに話しかけるな気持ち悪い!!」
田中は気にしない。
『(裏声)私、スパゲッティ食べたいな♡』
「うん、分かったよ~じゃあ私もスパゲッティにするよ♡」
『(裏声)やったぁ♪』
ポテトは呆れる。
「それ一人でやってて虚しくないのか……?」
注文が決まったのでボタンを押す。
ピンポーン♪ ピンピンポピンポーン♪ ピンポピンピピンポン♪ ピンピンピピンポーン♪
「1回しか押してないわ! しつこい!!」
ポテトが叫ぶのと同時に可愛い店員さんがくる。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「僕はマルゲリータピザ……」
田中は
「私、あなたを注文します(キラッ」
「何言ってるんだ田中」
ポテトが呆れるが店員は
「えっ、そ、そんな……ポッ(///)」
「あんたも照れるなよ……」
× × ×
チーズが舌の上でとろけ、トマトの甘酸っぱさが華を添える……パンは硬すぎまなく柔らかすぎもしない、まさにモッチリという表現がぴったりで、非常に美味しかった。
「なんで食レポしてるんですか勇者様……」
「ごちそうさま」
体力が上がった! スタミナが上がった!
「分かる人にしか分からないのはやめましょう?」
ポテトは箸を置いた。
「いや箸でピザ食べたんですか!? てか一切れ残ってますよ」
「まあいいだろ。じゃ、お代は払ってね」
「え?」
「は?」
「割り勘じゃないんですか!?」
「ああ、髪を一気に切るやつか」
「それはバリカンですから!!」
ポテトは自分の財布を出してひっくり返す。クリップと爪楊枝がポロポロ落ちて来た。
「いや何でそんなの入ってるんですか!!」
「ちょうどいいな……」
「へ?」
田中が聞く隙を与えずポテトはピザの一切れに爪楊枝をぶっ刺す。
「えええ!!」
「あーっと料理に爪楊枝がー!!」
ポテトが叫ぶ。
「悪質だしどこかで見たぞー!?」
バタバタ
「お客様、どうかなさいましたか?」
「料理に爪楊枝……あれ?」
「ん」
二人が固まる。
「あ!! 魔王じゃん!!」
「ゆ、勇者!?」
「えええ!?」
『(裏声)嘘~』
ポテトは驚きの余り我を忘れる前に田中を殴る。
「え、今なんで」
「(無視)まさか副業をやっていたとはな。天気予報士もか?」
白い髪、薄紫の肌、尖った耳と鋭い牙をもつ魔王はうろたえる。
「ぐ……やっちゃいけないか!?」
「まあいいや。それより異物混入だよな。今はTwitt○rという便利なものがある。この店の噂を広めるのは簡単だぜ」
薄紫の顔が赤くなり、青くなった。信号じゃあるまいし。
「よし、異物混入は無かったことにしてやろう」
「な、何……それは助か」
「ただし」
ポテトが遮る。田中は嫌な予感がした。
「僕に討伐されたことにするんだ」
「うーわ!!」
やると思った!!
「平和は早い方が良いだろ? 魔王を魔王城で倒すのもファミレスで倒すのも大して変わらないさ」
「全然違いますって!!」
魔王は黙っている。
「そうですよね、魔王としてのプライドが」
「その条件、飲もう」
「飲むのぉ!?」
田中が慌てるのをよそに話がまとまる。
「よし田中、王様に報告しに行くぞ」
「えぇ……ちょっと」
「ポテト行っきま~す!!」
「それアカンやつ~!!」
× × ×
なめらか城。
「おお、勇者よ、幾多の困難を乗り越え、遂に魔王を倒してきたか!!」
「幾多の困難?」
田中が首を傾げるが、ポテトは
「ええ。長い旅でした。ある時は滅びかけた村を救い、ある時は国同士の戦争を止めました。溶岩の燃え滾る火山を行き、吹雪の吹き荒れる雪原を行き、大海原では嵐に遭い、不死鳥に乗り空を飛びました。多くのモンスターが我々の行く手を阻んだことは言うまでもないでしょう。7つの玉を集め、闇の世界へ行き、そこで何度も諦めかけ、しかしそれでも屈さずに前へ進み、そして魔王を倒したのです」
「嘘だぁ!! 町から一歩も……モゴ」
ポテトが田中の口を塞ぐ。王様は頷き、
「よくやった勇者よ。お礼に我が王位を譲ろう」
「いいえ」
ポテトが言う。
「私の治める国があるなら、それは私自身の手で探したいのです」
「そのセリフ、カッコイイけどパクリですから!! ってちょ?」
ぐっ
「ちょ!! ま!! ポテトさん!! 何で私をお姫様だっこしてるんですか!! え、ちょっと!? まさかこのまま終わらせちゃうんですか!? ちょ、下ろしてください!!」
構わずポテトは田中を抱えて進む。多くの拍手に包まれ、ポテトと田中はまろやか国を出た。
_人人人_
>☆完☆<
ーYYY-
当時流行っていた映画の影響が露骨に見られます。もう5年も前なんですね、そのことの方が衝撃です。