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15/16

#15 芋は熱いうちに食え。

 ナゲットは顔に無理矢理笑いを浮かべた。


「ふぅん……伝聞からそこまで推測するとはね」


 ポテトは少しばかり得意げに、


「証拠も何も無かったが、剣みたいな逆鱗、盾みたいな堅殻、まず生物じゃあり得ない。それに、炎だの氷だの雷だの、使う魔法も多彩すぎる。あれを見たら、間違いないだろ。さ、帝王パストラは倒した。後はお前だけだ――ソケット‼」

「それ豆電球のアレだよ⁉」


 もはやテンプレとなりつつある儀式を終わらせてから、ナゲットは咳払いをした。


「でも、どの道、君達はここで死ぬのさ」

「セーブしてますけど」


 田中が言うと、ナゲットはいきなり光線を飛ばしてきて、ポテトの持っていた冒険の書を焼き払った。


「あ゛~なんてことを」

「ふん! これでもう復活はできない‼ そして、僕は元々、帝王パストラを出撃させるつもりは無かった――あんなもの、制御できないからね。僕の求めているものは、今まで溜まったパワーだよ‼」


 魔王が何かを察したらしく、「まさか‼」と叫んだ。


 ナゲットは、高笑いをしながら手を下へ伸ばした。何十人もの勇者達を取り囲むように魔法陣が光り、その中心の上に黒く輝く光球が現れ、ナゲットの手へ飛んだ。


「これだぁ……この力が欲しかったぁ……」


 ナゲットは今までで一番邪悪な笑みを浮かべ、その球を――呑み込んだ。チエがキャッと悲鳴を上げる。球を嚥下したナゲットは咳き込んだが、体の周囲に黒い霧が発生していくのがハッキリ見えた。


「あ、あれ、何ですかっ⁉」


 チエが叫ぶ。


「恐らく、パストラの中に長年蓄積した力でしょう。制御できない帝王パストラは、勇者を取り込み続けて力を溜めたら用済みなんです。ここで私達がこうしてなくても、近く帝王パストラを分解して力だけ取り出す予定だったんでしょうね」

「そんな解説している時間は無さそうだ」


 ナゲットは黒い霧の中で目を赤く光らせた。そして背筋が凍るような高笑いをしながら、回廊から身を乗り出し、そのまま宙に浮いた。紫の衣をはためかせ、叫ぶ。


「さぁ‼ もう僕に敵う物は1人としていないっ‼」

「こっちには勇者軍団がいるんだぞ」

「みんな力を吸収されてへばってるよ」

「あ゛~」


「さあ、最高のショーの始まりだ!」


 ナゲットが言い放ち、黒い霧の中から赤い針を乱射してきた! ポテトが剣で全てはね返す。


「田中、その辺の魔法使いのMPマジックパワー回復しろ! それなら後は、そいつら自身で回復できるだろ⁉」

「いいですけど、時間稼いでくださいよ‼」


 田中が奔走する。どうも地味な役が似合う男よ。


 一方、チエが魔法を打ち上げる。しかし橙の光は、黒い霧に呑まれて消えた。


「魔法を無効化した⁉」

「残念。無効化どころか、吸収したのさ。パッと光って吸収されたね」


 軽口を叩きながら、ナゲットは大量の紫の炎を投下してきた! チエの動きが一瞬遅れたが、魔王が滑り込んできて炎に当たって死んだぁ⁉


「あっ魔王さあああぁぁぁん」

「弔い合戦じゃあああぁぁぁ」


 ポテトが壁を蹴って跳躍するも、黒い霧の中に入るとまるで洗濯機の中の洗濯物のようにグルグル回ってネルネルネルネされて落ちてきた。


「あっはっは♪ 僕には勝てっこないよ!」

「くそっ……田中、回復まだか⁉」


 田中と、回復された数名の魔法使いが慌ただしく動いているが、まだ全員全快というわけにはいかないらしい。ポテトは歯噛みした。


「……あのバリアみたいな霧、上から攻撃できれば避けれるのに――」

「流石にそれはできないですね……。しかも魔法も吸収されますし」


 まだ全力を出していないであろうナゲット。その黒い霧すら越えられない。最早手立てはなく、バンジー急須……じゃなく万事休すと思われたその時‼


 パリイイイィィィン‼


「……待たせたな‼」

「⁉ その声は……」


 全員が驚き、声のした回廊に顔を向ける。そこに、割れた窓から光を受ける複数の影があった。ナゲットも回廊を見上げ、突然現れた何者かに訊く。


「誰だ……っ」

「俺か? 俺は……」


 影の1つが跳躍した。重力を微塵も感じさせない動きでフワッと宙に舞い、呆気に取られるナゲットに向かってキリキリと急降下した。


 シャキィン――


 黒い霧を避けた影の鋭い斬撃がナゲットを裂く。同時に、乾いた断続的な音と火花が散った。まともに攻撃を受けたナゲットはバランスを崩し、床まで落下した。骨が軋む嫌な音が響く。


「がっ……‼」


 地面に転がったナゲットとは対照的に、軽やかに地面に降り立つ影。彼は――


「短剣担当、エス‼」


 懐かしい海賊団の一員、茶髪のチャラ男、エスであった。隣に残り2人が着地する。


「拳銃担当、キラ……」

「料理担当、シークトです」


 ポテトも驚いている。


「お、お前ら……ここは海じゃないぞ……?」

「知っとるわ! ドランディアもといナゲットが好き勝手してると聞いて来たんだよ! 別にテメ―らを助けに来た訳じゃないからな⁉」

「ナチュラルツンデレよ。てか何でそんなの知ってるんだ?」

「ネットニュースだ」

「おい」


 茶番をやっている内にナゲットが立ち上がる。


「……くそっ……今更のこのこ現れて好き勝手して……どうなるか分かっ」


 ズバアアアァァァ


 白い斬道が炸裂した。ナゲットが悶える。


「どうなるんだ? 聞かせてくれよ。このエースレッドにな」


 ナゲットの後ろにいたのは、眼帯をした名剣士……。


「エースレッド……やってくれたね」


 ナゲットが言うが早いか、黒い霧が集束する。エースレッドは2本の刃を交えて防ぎ、大きく後退してエスの隣に並んだ。


「7つの海を制覇する‼ 海賊集団、パイレーツ改‼」


 相変わらずダサい掛け声である。よくよく見れば服に名前が刺繍してあるのもお変わりないようだ。


「ふん、どんなに人数が増えたところで同じだよ……君達はこの黒い霧すら突破できないんだからね‼」


 確かに、海賊でも黒い霧を突破することはできないようだ。海賊たちは歯噛みした。が、そこに声が響き渡った。


「そのようなことはございませんよ」


 丁寧で冷静で活舌の良い声……。その声と共に、白い光が降り注ぎ、ナゲットの黒い霧を消し去った。


「な、何ぃ……? 何者だっ⁉」

「申し遅れました。わたくし、カトリ―マートの店長。香取店長です」


 黒髪の爽やかイケメン、香取店長だ‼ 覚えてない人は>42へ。


「香取も来てくれたのか! やっぱりネットニュースで?」


 ポテトが訊くと、既に回復していた魔法使いが「あ、僕がSwitterで呟いたんです」と言う。流石はインターネット社会……てか呟いてないで仲間の回復しろよ。


 とにかく、今、ナゲットを倒すためにポテトたち勇者一行、海賊一味、香取店長、その他大勢の勇者や戦士や魔法使いが集合したのだ。まさに歴史的瞬間である。


「ふん……霧が無くても、僕に勝てる訳がないんだ……最強の力を手に入れた、この僕にはあああぁぁぁ‼」

「おうおう、言ってろ言ってろ。数の暴力ってやつを見せてやるよ」

「その言い方は良くないのでは……」

「ん? 知らない知らない。さあ、とにもかくにもマジで本当にラストの最終決戦だ‼」


 ポテトが叫び、全員が雄叫びを上げた。


「数の暴力とは恐れ入るなぁ……っ‼」


 言い放ったナゲットの姿が振動し、徐々にダブっていき、そして大量の黒いナゲットが出現した。その全てが気味の悪い笑みを浮かべている。


「な、何ですかあれ……」

「ナゲットの分身だ。モブナゲットといったところか」


 チエの質問に答えたポテトは、周りを見回した。海賊に、店長に、勇者たち。ポテトは彼らに声をかけた。


「お疲れだとは思うが、もう少し手伝ってもらう! 皆はモブナゲットを! 僕は本体に直接攻撃しにいく!」


 皆が頷く。ナゲットは表情を歪めた。


「ムダだよっ‼」


 モブナゲットが一斉に動き始めた! 勇者たちも武器や杖を構え……戦いの火蓋が斬って落とされた‼


 魔王は巨大な剣を豪快に振り回し、モブナゲットを薙ぎ払った。モブナゲットはあまり強くはないが、数でこちらを圧倒的に上回っている。


「くそっ」


 前方からの攻撃を剣で防いだ時、後ろから殺気を感じた。ハッとして振り返る。モブナゲットが目の前だった。防御も間に合わない……!


 しかし、そのモブナゲットが吹き飛ばされた。見ると、黒い服を纏った悪役風の男が槍を構えていた。見えない程の速さで攻撃をしてくれたらしい。


「すまない、助かった」

「おう。アンタ、魔王だろ? んで、勇者に強引に仲間にされちまったってトコか」


 言い当てられた魔王は苦笑した。モブナゲットを倒しつつ言う。


「そういうお前も同じ穴のムジナだろう。気が合いそうだな」


 互いにニヤリと笑う。そこにエスが飛び込んできた。


「お喋りしてる場合かよ? お二人さん。さっさとこの気持ち悪い奴一掃しようぜ!」

「クク。そうだな‼」


 魔王の剣から炎が迸る。「超・スーパー魔王斬り・改‼」ネーミングセンスを疑うが、火炎の斬撃がモブナゲットを次々焼き払う。その間を先程の男やエスが駆け抜けた。


「レモーブフラッシュ×5‼」


 爆発が連続するが、モブナゲットはその間からどんどん湧いて出てくる。


「いっ……キリが無い……」


 焦るチエの肩に、ポンと手が置かれた。振り返ると、桃色の髪の老婆が立っていた。老婆なのに背はシャキッとし、肌には艶すら伺える。


「焦ってはダメよ、落ち着いて。私達がいるわ」


 桃髪の後ろにもあと4人、カラフルな髪のお婆ちゃんがいる。皆高齢のようだが、なかなかどうして健康的に見える。そして、コスプレチックな衣装……。


「もしかして……」

「そう、私達はグランマキュアプリ5よ!」


 5人が横に並んでポーズを決める。チエはポカンとしたが、やがて


「……っ、素敵です!」


 感激の様子。


「あら、ありがとう。ところでアナタもキュアプリね?」

「はい! キュアミリアートです!」

「よし、一緒に戦おう。アタシはキュアヨシヱだよ。アンタが入れば、グランマキュアプリ5ゴーゴーだ!」


 にわかに結成されたグランマキュアプリ5ゴーゴーは、しかし目を見張る連携でモブナゲットを倒していった。流石は伝説の戦士たちである。勿論、その周りでもたくさんの魔女や魔法使いが呪文を詠唱し、魔法を放っていた。


「うう……無理だぁ」


 フードを被った魔法戦士が怖気づいてしゃがみ込んでいた。モブナゲットに囲まれ、絶体絶命。


「ルリィちゃん……」


 魔法戦士は誰かの名前を呟いて観念した。しかし、モブナゲットに柱が飛んできた。


「⁉」

「大丈夫ですか!」


 柱を飛ばしたのは田中だった。魔法戦士に近付き、傷を魔法で治す。そして


「ルリィちゃん。それがあなたの推しですね」

「……?」


 田中の周りに人が集まってくる。勇者たちの中にいた、少し変わり者の戦士たちだ。シークトも混じっている。田中が魔法戦士の手を取り、立ち上がらせた。


「ここにいるのはオタクの皆さんです。趣味も属性も何も一致していません。しかし、これだけは共通している……そう、」

「「「推しに捧げる気持ち‼」」」


 全員が声を揃える。それを聞いた魔法戦士もハッとした。


「さあ、その気持ちがあれば無敵です! 普段は何かと馬鹿にされがちな我々ですが、こんな時くらいカッコつけさせていただきましょう!」

「……はい!」


 オタク軍は、今会ったばかりとは思えないチームワークでモブナゲットを殲滅していった。オタクの結束力は何にも勝るものだった……!


「僕の分身は戦略的最適解を導き出して動いている。無駄な動きを一切しない。数も圧倒的に多い……。なのに……なのにどうして!」


 叫ぶナゲットの横を、また吹き飛ばされた分身が通る。モブナゲットは勇者や海賊たちに倒され、確実にその数を減らしつつあった。


「どうしてこっちが押し負けてるんだ⁉」

「そんなことも分からないんだなお前は」


 ナゲットがハッとする。視線の先に、モブナゲットをまとめて斬り捨ててポテトが現れた。剣を構え、ナゲットに向けて跳躍する。ナゲットも速攻でレイピアを取り出して攻撃を防いだ。そのままつば競り合いになる。


「確かにお前の分身は正確で多い。そしてこっちは、個性も得意分野も弱点もバラバラで、しかも今日会ったばかりだ。でもこっちの方が強い」


 ポテトが言い切ると、ナゲットの目に怒りの炎が宿った。


「何故そう言い切れるっ⁉」

「何故なら、バラバラな僕達は互いの強さを高め合い、弱点をカバーし合い、『お前を倒す』目的のために一丸となって戦っている。そして分身なんて、数が多くてもしょせん分身。お前以上の戦いをすることは望めない。よってこっちが強い‼」


 一瞬、ナゲットの意思がブレた。ポテトはそれを見逃さず、レイピアを跳ね上げ、ナゲットを思い切り蹴った。蹴りをまともに食らったナゲットは後ろに吹っ飛んだが、近くにいたモブナゲットを掴んで体勢を立て直し、そのままそれを投げてきた。ポテトは飛んできたモブナゲットをくぐって進もうとしたが、


「おっと」


 目の前に紫の剣が展開していた。しかも5つ。ナゲットの魔法だ。


「うーん。僕は魔法が使えない……」

「終わったな、ポテト。ここで滅びろぉ‼」


 紫の光が炸裂し、剣が飛んだ。ナゲットがほくそ笑む。しかし次の瞬間、その笑みはかき消えた。砂煙の中、ポテトは巨大な盾をもって不動であった。


「――令和シールド」


 ああ、盾ではなかった。例の官房長官がもっていたアレだ。「令和」と書いてある。


「そんなもの、どこから……‼」

「僕は魔法が使えない。そして今日は4月1日だ。この意味、分かるかな?」(※再掲時注・これが投稿されたのが4/1でした)


 ポテトは言うが早いか令和シールドをナゲットへ向かって投げた。視界が塞がれたナゲット。すぐに令和シールドを跳ね返すが、時既に遅し。ポテトが後ろへ回り込んでいた。ナゲットがすぐに振り返るが、僅かにポテトが速かった。


「熱々に揚がりやがれ‼ フューリースパークス‼」


 ポテトが前に出した両手から炎の竜巻が現れ、火の粉を纏ってナゲットへ向けて直進した。ナゲットは何もできないまま、灼熱地獄へ呑まれた。


 黒焦げになったナゲット、と書くとファストフード店の小説と間違われそうだが、実際ナゲットは黒焦げなのでそう書くしかない。ついでに言えば、本体が深刻なダメージを受けたためか、モブナゲットも消えた。ポテトたち、勇者軍、海賊団、それと香取店長がナゲットを取り囲んでいる。


「逃げ場は無いぞ、ポケット……それはあったな。じゃあポケット繫がりでビスケット、僕達の勝利だ」

「……そうだね……どうやら僕の負けだ」


 みんながワッと沸く。ついにナゲットに打ち勝ったのだ! ……しかし歓声の中、ナゲットが言った。


「……まあ、今日は4月1日だけどね」


 ニタァ……と笑ったナゲットにポテトが気付いた。しかし遅い。急激にナゲットから風圧が吹き荒れ、周囲の全員が吹っ飛ばされた。


「何……⁉」


 ナゲットは黒と紫の瘴気を纏い、ゆっくりと上昇していく。


「あッははは! あッははは、ははッ! もう世界征服なんてどうだっていい……ただ、君達だけは許さない……ここで僕と共に消えてもらおう‼」


 ナゲットは部屋の遥か上方で留まり、そして瘴気を回転させ始めた。同時に、城が激しく揺れ始め、細かい瓦礫が崩れ落ちてくる。


 全員が呆気に取られていた。田中がナゲットを見上げ、そして叫んだ。


「ま、魔力が凄い勢いで上昇している――じ、じば、じばじ、」

「ジバニャ……」

「自爆する気です‼ あいつ、自爆するつもりですよ‼」

「なら自爆する前に攻撃すれば良いじゃん」

「危ないですよ! あんなに魔力が密集しているところに衝撃を与えたら、爆発するかもしれませんよ!」


 必死で止める田中にポテトが静かに言った。


「僕の好きな言葉、知ってるか?」

「はい? いえ、知りませんけど」


 沈黙。


「……芋は熱いうちに食え」

「……は?」


 困惑する田中。沈黙する一同。そして、


「「「おおーっ‼」」」


 湧き上がる歓声。


「え、何で皆さん今ので納得したんですか⁉ 全然関係無い言葉でしたよ⁉」


 田中はワタワタしているが、ポテトはどこ吹く風。香取と共に、高所にいるナゲットへの攻撃方法を議論している。


「じゃあ、あの瘴気のせいで魔法は効かない?」

「はい。かといってここから矢やら銃弾やら撃ってもムダでしょうから、ポテトさん自身がナゲットさんの近くまで行く必要がありますね。彼は動けないみたいですから、接近できれば攻撃は簡単なハズです」

「……良いこと思いついた」


 ポテトが考えた良いことが良いことであった試しはないが、ポテトの作戦を全員が聴いた。なるほど、全くもって馬鹿馬鹿しい作戦であった。


「そんなの絶対に上手く行きませんって‼」

「やってみなければ分からないだろう」

「そうですよ田中さん、どうせアイツ自爆するんですし」

「海賊はいつだって挑戦の連続だった」

「経営もですね」

「やってみようよ!」

「そうだな、ダメもとだ!」

「よっしゃあやってやろう!」

「……何で僕だけ反対派なんですか……」


 目からポロポロ涙を流す田中。可哀想だが、仕方ない。ナゲットの瘴気による城の崩壊で、さっきから瓦礫も落ちてきているし、天井にも穴が空いて光が差し込んでいる。時間が無い。作戦が始まった。


 まず、海賊と香取店長を含む勇者軍団が、魔王の指示で並ぶ! そして、組体操のように積み重なっていき、階段型になったところで田中の魔法で固定! ポテトから見ると、左右に人間階段ができ、ナゲットに向かっているという感じだ。


「……バランス悪そうだな」

「悪いんですよ‼ だから早く‼」

「じゃあ……あ、そういえばさっきの魔法でMP使い果たしてた……どうしよう」


 ポテトは周囲を見渡し、人間階段の一部に魔法使いを見付けると、「親切心」といって魔法使いの傷を薬草で治し、「からのrоb!」といってMPだけ奪っていった。当の魔法使いは一瞬の出来事についてこられずにポカンとしている。


「さあ、MPもある。魔王、始めるぜ」


 ポテトと魔王は剣を構えた。同時に、2列の人間階段の間に勇者たちの剣が架け渡される。つまり、ナゲットへ向かう剣の階段が完成したのだ‼


「みんな、行けるか?」

「はい!」

「おう!」


 ポテトと魔王が走り出した! 田中が「ハヤク‼」と叫ぶと、剣の階段に幾重にも魔法陣が出現する。2人は魔法陣をくぐり抜け、剣を踏み越え、仲間たちの間を疾風のように駆け抜けた。階段の頂上で「ハネル‼」田中の魔法で大きく跳躍した‼ しかし、


「くそ、距離が足りない‼」


 ナゲットまであと30メートルほど届かない。だがそこでポテトの横の魔王がクルリと回転し、下を向いた。


「チエぇっ‼」


 呼ばれたチエが、「はい‼」と返事をし、そして全身の魔力を指先に集めた。チエの髪がバサァ……と浮き、その瞳に金色の光が宿った。指を上の魔王へ向ける。


「ベアーバスターぁぁっ‼」


 黄金の光線が部屋を照らす。魔王は大剣で魔法を受け止めた。強い衝撃により、魔王と、背中合わせのポテトが共に吹き飛び、ナゲットまでさらに接近した。最後にポテトが、「すまんな‼」と言って魔王の背中を蹴った。


 ポテトは剣を構え、真っ直ぐにナゲットへ向かって跳び……


 ズガン


 ポテトの剣が落ちた。誰もが息を止めた。それは、ナゲットの瘴気が崩した天井の破片だった。最後の最後に、最悪のタイミングで不運が起こったのだ。ナゲットは目の前なのに、武器が無い。瘴気を纏ったナゲットは動きにくそうだったが、それでもせせら笑った。


「終わりだな」

「……そうかな?」


 ポテトが懐から取り出した何か。それは壊れた天井からの光を受けて輝いた。それは――ファミレス「ココココス」からパクってきた銀のナイフ――‼


「何いいいぃぃッ⁉」


 ナゲットの顔が醜く歪む。ポテトがニヤリと微笑む。


「備えあれば嬉しいんだよ! 行くぜ……これでハッピーエンドだ‼」


 ポテトがナゲットに斬りかかる。


「ポテト・カットおおおぉぉぉ‼」

 そういえば令和が発表されたのは4/1でしたね。懐かしい。

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