#12 キュアプリは天高く羽ばたく。
「あまりにも草原にミスマッチな巨大ハンバーガー! あれを見るだけで満腹になるというものです!」
「おっと……ハンバーガーから何か発射されましたね」
最終形態となったジャンクフードベロンバァから何か飛んでくる。キュアミリアートとキュアオタクは構えた。飛来するそれは……。
「ナゲットです! しかもケチャップの付いた赤いもの、マスタードのついた黄色いもの、2種類あるようです!」
「効果に何かしら違いがあるかもしれませんね。ただのミサイルとは考えにくいです。ナゲットに警戒しつつ接近したいところですが……」
キュアオタクが走り出す。ケチャップのついたナゲットが地面に着弾し、爆発を起こした。
「……っ」
土煙が巻き起こり、石礫が吹き飛んだ。直撃は避けたようで、構わず走る。ナゲットがキュアオタクを狙っているのに気付いたのか、キュアミリアートは大きく弧を描いて走った。が、黄色い方が飛んできた。
「ちょ……マスタードだらけは嫌なんですけれども⁉」
ナゲットを横っ飛びでかわす。
「危な……ん?」
ナゲットはキュアミリアートを通り過ぎたが、マスタードを散らしつつドリフト? っぽいのをして、再び追尾してきた。
「まさかサーチナゲット?」
キュアミリアートは思わず叫んだ。
「さあ、キュアオタクに降り注ぐケチャップ爆弾の雨嵐、某狩猟ゲームの飛来せし気高き外道を想起させます」
「爆発は小規模ですが、数の暴力が効いていますね。一方、数は2つ3つですが、キュアミリアートを追う黄色いナゲットも危険です」
「執拗に女子を追いかけるその様子、まるで何を言っても耳を貸さないストーカーそのもの。全国から苦情が殺到しそうであります。ちなみにこの全国放送はSwitterと連携しており、右下のsweetボタンを押していただくことで皆さまのsweetを反映させることができます」
「『*(ハッシュドタグ)キュアプリに力を』を付けていただくことで2人がキュアプリを応援してください」
「さあ全国から続々とsweetが寄せられています!」
爆発。爆発。唸る轟音と荒ぶ風圧、視界を遮断する砂煙を背中に受けてキュアオタクは走る。
「……っ、キュアミリアートが見えない……」
一瞬、気を取られた。気付けばナゲットの直撃を受けていた。
「うわ……‼」
吹き飛ばされるが、不幸中の幸いか、前へ吹き飛んだ。体中に痛みが走っているが、可愛らしい衣装にもある程度耐久性が備わっているのか、動けないほどでもない。
「……? 待てよ……」
「キュアオタク、鮮血を彷彿とさせる赤色、ケチャップナゲットの直撃を食らいましたが、動いていますね。溢れる生命力!」
「その言葉はGから始まる某昆虫に使うフレーズですよ……」
「一方のキュアミリアートは……?」
3つ追ってきたナゲットを誘導し、1つを地面に墜落させたが、残り2つは健在だ。しつこい。キュアミリアートもそろそろ疲れてきていた。
(どっちも誘導するのは骨が折れるなぁ……追尾性能はかなり高いし……。ん? ってことは……)
「太陽、ひまわり、とろけるバター、黄色いものはそんなイメージをもちますが、あのナゲットに関しては朗らかさ、柔らかさを一切合切感じさせません!」
「2人ともナゲットの処理に困っているようですね」
おいしくないナゲットに関する会話にも聞こえるから不思議だ。
「この調子では疲労の蓄積、目測の誤差によって撃破されるのも時間の問題か……おっと? キュアオタク、何か魔法を使っている!」
「ウィンガーディアムレビオサー!」
キュアオタクは後ろに向けて呪文を放つ。地面に転がっている土砂が浮かんだ。そこにナゲットが当たり、爆発する。
「これだ!」
押し寄せてくる爆風に自分の体を乗せる。自分の体が浮き上がった。
「ウィンガーディアムレビオサー!」
今度は前。浮かび上がる土砂に、次々とナゲットが当たる。爆音に、空気が震えた。
「大量に放たれる爆弾があだになったようです……」
キュアオタクが発生させた爆発は飛来中のナゲットも誘爆し、連鎖爆発を起こしていた。それはジャンクフードベロンバァにまで到達し、衝撃を与える。
「ネコフルン、悔しがっていますね」
空が赤く染まっている。硝煙の中に、小さく黄色い衣装が見えた。
「キュアオタク自身は風圧で相手に素早く接近しています!」
「眼鏡と赤い蝶ネクタイの、某小さくなった名探偵と同じ手法ですね」
「キュアミリアートも状況をくつがえせるか……⁉」
キュアミリアートは後方から迫るナゲットを一旦避けて前に逃がした。当然のことながら、2つのナゲットは再びこちらを向く。
「よし……‼」
度胸だけはある。キュアミリアートは立ち止まった。
「ここでキュアミリアート、立ち止まった⁉」
「先程から動きが鈍くなっていましたが、疲労が蓄積したのでしょうか」
「このままでは当たってしまいます!」
不吉な黄色が迫ってきている。風が唸る。髪が浮く。
「……」
黙ってナゲットを見据えた。もう目の前だ。
「……」
それでも動かない。
「……」
衝突、
ドッカアアアァァァン……
「ああっと直撃だ! これはもう動けないでしょう!」
「2人がキュアプリから、1人がプリキュアになってしまいます」
「残念無念……? あれは……」
煙の中から現れる、黒と白の衣装。
「なんとっ‼ キュアミリアート、生還した‼」
「……なるほど、自分の目の前で2つのナゲットをぶつけたようです。ナゲットの追尾性を利用した、大胆な策ですね。嫌いではないです」
「自ら死地に赴くその様、被虐のキュアプリと名付けたいくらいです! Switterでは『*キュアプリに力を』がトレンド入りしています! 2人の無事を祝う声、新たな快進撃を期待する声、ネコフルンの黒歴史などがsweetされています!」
2人は合流した。そのままジャンクフードベロンバァへと突き進む。2人の勢いは誰にも止められないかと思われた。しかし――。
ハンバーガーの上のバンズが、縦に裂けた。
「⁉」
そこから紫色の光が溢れる。次の瞬間、紫が炸裂し、2人は吹き飛んだ。
「おわっ……何ということでしょう、まだこんな必殺技が残っていたとは、誰が予想したでしょうか! シンデレラっぽい響きの某巨大不明生物が思い出される!」
「2人に直撃しましたね。今度こそ酷くダメージを負っているでしょう」
地面が直線状に抉れ、地盤がめくれ上がっていた。その上に2人は倒れている。再起不能であった。友を処刑の身代わりに待たせているのに歩いた挙句、川を渡っただけで「もはや芋虫ほどにも全身かなわぬ。やんぬるかな~」と言って倒れたメロスよりいくらマシだか。
一瞬作者の意見が入ったが、とにかく2人は倒れていた。とても動ける状態ではない。
「ダメですね。『力尽きました』というやつです」
「この勝負、残念ながらネコフルンとジャンクフードベロンバァに軍配が上がったといったところでしょう」
「Switterではまだ応援コメントが流れていますが、それも虚しいというもの……」
「おいおい、その応援を腐らせておくのかよ?」
「‼」
実況席の後ろに、勇者ポテトが立っていた。
「今まで寝てたけど、仮にも仲間のピンチ、放っておけないなぁ‼」
「……ポテトさんにしては珍しい趣旨の発言ですね」
「全国放送されていますから、株を上げたいのかと」
ポテトは真顔で
「あ、バレた? まあとにかく、応援sweet、あの2人に届けてやるか」
「どうするんですか? 声は届かな……」
「良いから見てろ」
ポテトは呪文を唱えた。
「――ウィズエブリワン」
× × ×
倒れた2人。どうにか立ち上がろうとするが、全身の痛みがそれを許さない。
「くっ……」
霞む視界に、巨大な敵がぼんやり見える。あれに立ち向かおうだなんて、無茶だったのだろうか?
「……」
涙すら流れなかった。心が諦めの海に沈むのを、2人とも黙って受け入れるしかなかった。だから――。
『キュアプリ、頑張れ‼』
その声も、幻聴かと思った。2人は顔をゆっくり上げた。声の源はどこにも見当たらなかった。やはり都合の良い幻想だったのか……と思った矢先、
『キュアプリに力を!』
『みんなの希望だ』
『負けるなキュアプリ‼』
『世界の平和を守って、キュアプリ!』
『キュアプリに力を!』
『キュアプリに力を‼』
たくさんの声が聞こえてきた。誰のものともしれない応援。
「……」
「……!」
キュアオタクとキュアミリアートは倒れたまま顔を見合わせた。声はどんどん増え、どんどん大きくなる。2人を叱咤し、励まし、信じる人々の声。
「そうだ……」
「そうだった……」
『あなたたちはキュアプリだ!』
『キュアプリが世界を救う‼』
「私達が……」
手を取り、ゆっくりと、立ち上がる。涙が頬を伝った。
「世界を救うんだ……」
声は今や空間を埋め尽くしている。温かい希望を覗かせる、声。
「こんなところで、諦められないんだ」
「守らなきゃいけない人々がいるんだ」
世界を救うだなんて抽象的で曖昧模糊としたものを、今やっと分かった。人々のたくさんの声を耳にして、初めて分かった。
「だって私達は……」
「キュアプリだから……」
顔を上げた。
「2人が、キュアプリだからーっ‼」
叫んだ。地を蹴り、飛んだ。
「世界中の人と一緒に戦ってる。だからこそ、ウィズエブリワン『みんなといっしょに』なんだよ」
ポテトが呟く。
「1人じゃないってことですね」
「はい。さあ、キュアプリが飛んだ。そしてなんと……羽が生えている!」
2人の背中には、太陽の光を浴びて輝く、ガラス細工のような美しい羽が生えていた。
2人は巨大な敵へ飛翔する。ジャンクフードベロンバァが再び紫色の光線を放つが、避けられた。虹色の軌跡を残し、キュアプリはアカンベーの真上へ回り込んだ。
「一気に倒すつもりですね」
「しかし、ベロンバァもそう易々とは倒されない!」
光線がさらに数本放たれた。空が紫に輝く。大量の殺戮光線の間を縫って2人は飛ぶ。世界中が2人の雄姿を、固唾を飲んで見守っていた。
キュアオタクはキュアミリアートに叫んだ。
「この調子じゃあいつまでたっても攻撃できませんよ!」
「分かった――レモーブフラッシュ×2‼」
キュアミリアートの呪文。小規模の爆発が大量に起こってジャンクフードベロンバァを包み、最後に大爆発。ハンバーガーの装甲を吹き飛ばした。紫の光線もいくつか消える。
「今だ……行くよ!」
「はい!」
2人は手を繫いだ。
「――剛星【スターダスト】」
煌めく星々が、大気圏を破り、紫の空を裂いてベロンバァに降り注いだ。星の軌跡が空を塗り替える。そして2人も、一気に下降した。
「星が降り注ぐ、その中をご覧ください、2人が手を繫ぎ、青白く輝きながらジャンクフードベロンバァへと向かっています‼」
「計算不能なパワーです! ジャンクフードベロンバァの光線が何度か当たるが、弾き返しています‼」
「2人の姿は、糸○町とそこの人々の心にクレーターを残した、ティ○マト彗星、まさにそのままです‼ 落ちて、落ちてゆく――っ‼」
光が炸裂した。天と地の境目までも白く染め上げ、次いで旋風が草原を駆け抜けた。あまりの衝撃に誰もが目を開けられなかった。
「どう、なったの、でしょうか……」
「あ……」
ハンバーガーはそこに残っていた。
「なんと……まさか効かないとは……」
「いや、待ってください」
ピシ、と音がし、次の瞬間、ジャンクフードベロンバァは一気に砕け散った。大量の瓦礫のように土砂崩れを起こす。
「☆粉砕☆玉砕☆大喝采☆お見事ですね……キュアプリ‼」
2人は草原に立っていた。光が弾け、元の姿に戻る。
「ああ、疲れた……」
チエは膝から崩れ落ちる。田中も空を仰いだ。
「そうですね……ん? 空から何か降ってき
ゴツン!
田中の頭に何か当たる。
「ひゃあー」
田中は倒れた。チエが、田中の頭に当たった物体を拾い上げる。
「これは、ネコフルンがベロンバァを出す時に使ってた……まさかこれが赤い石⁉」
「おおっ揃いましたね!」
2人で顔を見合わせ、笑った。
「そうはさせるか~っ‼」
「え?」
2人の前にネコフルンが着陸した。
「ニャルッフフフ……それは返してもらうぜ」
「嫌ですよ」
「俺様は嫌じゃねぇんだよ! お前ら、もう戦う余裕はないはずだしな」
悔しいが言う通りだった。ネコフルンが鉤爪を振りかざす。
「うおら……」
「ムンッ‼」
しかし、ネコフルンが斬り裂かれる。
「ぐわあ~」
ネコフルン を たおした !
倒したのは魔王トムだった。
「トムさん!」
「ははは! 読者よ、しれっと俺のこと忘れてただろう! ははは! 肝心なところで活躍できないと思っていたであろう! ははは……あれ、あ、ちょ、おい、おい! おいてくんじゃない! てかもう行くのか⁉ 少し休まない? ねぇ……」
実況と解説の2人はセットを片付けている。
「今回は新しい必殺技もたくさん出ましたね!」
「はい。実は作者が小説準備・会話掲示板で必殺技を募集しているんですよ」
「そうなんですか?」
「はい。そろそろ帝王城に乗り込みますし、必殺技のアイデアが欲しいのでしょう」
「そういえば勇者ポテトの大冒険、ゲーム化の話もありますよね」
「ええ、まだあまり進んでいないようですが、私は、まあ、楽しみにしていますよ。どうも4パートに分けるそうです。この小説は今パート3が終わったところです」
「早いですね! ではもうパート4、ラストってことですね」
「はい。どんな展開が待ち受けるのか、楽しみにしましょう。シロルさん、今日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
無謀にも『勇者ポテトの大冒険』のゲームを作ろうとしていた時期がありました。結局、田中が仲間になったあたりまでが限界でした。