表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

#12 キュアプリは天高く羽ばたく。

「あまりにも草原にミスマッチな巨大ハンバーガー! あれを見るだけで満腹になるというものです!」

「おっと……ハンバーガーから何か発射されましたね」


 最終形態となったジャンクフードベロンバァから何か飛んでくる。キュアミリアートとキュアオタクは構えた。飛来するそれは……。


「ナゲットです! しかもケチャップの付いた赤いもの、マスタードのついた黄色いもの、2種類あるようです!」

「効果に何かしら違いがあるかもしれませんね。ただのミサイルとは考えにくいです。ナゲットに警戒しつつ接近したいところですが……」


 キュアオタクが走り出す。ケチャップのついたナゲットが地面に着弾し、爆発を起こした。


「……っ」


 土煙が巻き起こり、石礫が吹き飛んだ。直撃は避けたようで、構わず走る。ナゲットがキュアオタクを狙っているのに気付いたのか、キュアミリアートは大きく弧を描いて走った。が、黄色い方が飛んできた。


「ちょ……マスタードだらけは嫌なんですけれども⁉」


 ナゲットを横っ飛びでかわす。


「危な……ん?」


 ナゲットはキュアミリアートを通り過ぎたが、マスタードを散らしつつドリフト? っぽいのをして、再び追尾してきた。


「まさかサーチナゲット?」


 キュアミリアートは思わず叫んだ。


「さあ、キュアオタクに降り注ぐケチャップ爆弾の雨嵐、某狩猟ゲームの飛来せし気高き外道を想起させます」

「爆発は小規模ですが、数の暴力が効いていますね。一方、数は2つ3つですが、キュアミリアートを追う黄色いナゲットも危険です」

「執拗に女子を追いかけるその様子、まるで何を言っても耳を貸さないストーカーそのもの。全国から苦情が殺到しそうであります。ちなみにこの全国放送はSwitterスイッターと連携しており、右下のsweetスイートボタンを押していただくことで皆さまのsweetを反映させることができます」

「『*(ハッシュドタグ)キュアプリに力を』を付けていただくことで2人がキュアプリを応援してください」

「さあ全国から続々とsweetが寄せられています!」


 爆発。爆発。唸る轟音と荒ぶ風圧、視界を遮断する砂煙を背中に受けてキュアオタクは走る。


「……っ、キュアミリアートが見えない……」


 一瞬、気を取られた。気付けばナゲットの直撃を受けていた。


「うわ……‼」


 吹き飛ばされるが、不幸中の幸いか、前へ吹き飛んだ。体中に痛みが走っているが、可愛らしい衣装にもある程度耐久性が備わっているのか、動けないほどでもない。


「……? 待てよ……」


「キュアオタク、鮮血を彷彿とさせる赤色、ケチャップナゲットの直撃を食らいましたが、動いていますね。溢れる生命力!」

「その言葉はGから始まる某昆虫に使うフレーズですよ……」

「一方のキュアミリアートは……?」


 3つ追ってきたナゲットを誘導し、1つを地面に墜落させたが、残り2つは健在だ。しつこい。キュアミリアートもそろそろ疲れてきていた。


(どっちも誘導するのは骨が折れるなぁ……追尾性能はかなり高いし……。ん? ってことは……)


「太陽、ひまわり、とろけるバター、黄色いものはそんなイメージをもちますが、あのナゲットに関しては朗らかさ、柔らかさを一切合切感じさせません!」

「2人ともナゲットの処理に困っているようですね」


 おいしくないナゲットに関する会話にも聞こえるから不思議だ。


「この調子では疲労の蓄積、目測の誤差によって撃破されるのも時間の問題か……おっと? キュアオタク、何か魔法を使っている!」


「ウィンガーディアムレビオサー!」


 キュアオタクは後ろに向けて呪文を放つ。地面に転がっている土砂が浮かんだ。そこにナゲットが当たり、爆発する。


「これだ!」


 押し寄せてくる爆風に自分の体を乗せる。自分の体が浮き上がった。


「ウィンガーディアムレビオサー!」


 今度は前。浮かび上がる土砂に、次々とナゲットが当たる。爆音に、空気が震えた。


「大量に放たれる爆弾があだになったようです……」


 キュアオタクが発生させた爆発は飛来中のナゲットも誘爆し、連鎖爆発を起こしていた。それはジャンクフードベロンバァにまで到達し、衝撃を与える。


「ネコフルン、悔しがっていますね」


 空が赤く染まっている。硝煙の中に、小さく黄色い衣装が見えた。


「キュアオタク自身は風圧で相手に素早く接近しています!」

「眼鏡と赤い蝶ネクタイの、某小さくなった名探偵と同じ手法ですね」

「キュアミリアートも状況をくつがえせるか……⁉」


 キュアミリアートは後方から迫るナゲットを一旦避けて前に逃がした。当然のことながら、2つのナゲットは再びこちらを向く。


「よし……‼」


 度胸だけはある。キュアミリアートは立ち止まった。


「ここでキュアミリアート、立ち止まった⁉」

「先程から動きが鈍くなっていましたが、疲労が蓄積したのでしょうか」

「このままでは当たってしまいます!」


 不吉な黄色が迫ってきている。風が唸る。髪が浮く。


「……」


 黙ってナゲットを見据えた。もう目の前だ。


「……」


 それでも動かない。


「……」


 衝突、


 ドッカアアアァァァン……


「ああっと直撃だ! これはもう動けないでしょう!」

「2人がキュアプリから、1人がプリキュアになってしまいます」

「残念無念……? あれは……」


 煙の中から現れる、黒と白の衣装。


「なんとっ‼ キュアミリアート、生還した‼」

「……なるほど、自分の目の前で2つのナゲットをぶつけたようです。ナゲットの追尾性を利用した、大胆な策ですね。嫌いではないです」

「自ら死地に赴くその様、被虐のキュアプリと名付けたいくらいです! Switterでは『*キュアプリに力を』がトレンド入りしています! 2人の無事を祝う声、新たな快進撃を期待する声、ネコフルンの黒歴史などがsweetされています!」


 2人は合流した。そのままジャンクフードベロンバァへと突き進む。2人の勢いは誰にも止められないかと思われた。しかし――。


 ハンバーガーの上のバンズが、縦に裂けた。


「⁉」


 そこから紫色の光が溢れる。次の瞬間、紫が炸裂し、2人は吹き飛んだ。


「おわっ……何ということでしょう、まだこんな必殺技が残っていたとは、誰が予想したでしょうか! シンデレラっぽい響きの某巨大不明生物が思い出される!」

「2人に直撃しましたね。今度こそ酷くダメージを負っているでしょう」


 地面が直線状に抉れ、地盤がめくれ上がっていた。その上に2人は倒れている。再起不能であった。友を処刑の身代わりに待たせているのに歩いた挙句、川を渡っただけで「もはや芋虫ほどにも全身かなわぬ。やんぬるかな~」と言って倒れたメロスよりいくらマシだか。


 一瞬作者の意見が入ったが、とにかく2人は倒れていた。とても動ける状態ではない。


「ダメですね。『力尽きました』というやつです」

「この勝負、残念ながらネコフルンとジャンクフードベロンバァに軍配が上がったといったところでしょう」

「Switterではまだ応援コメントが流れていますが、それも虚しいというもの……」

「おいおい、その応援を腐らせておくのかよ?」

「‼」


 実況席の後ろに、勇者ポテトが立っていた。


「今まで寝てたけど、仮にも仲間のピンチ、放っておけないなぁ‼」

「……ポテトさんにしては珍しい趣旨の発言ですね」

「全国放送されていますから、株を上げたいのかと」


 ポテトは真顔で


「あ、バレた? まあとにかく、応援sweet、あの2人に届けてやるか」

「どうするんですか? 声は届かな……」

「良いから見てろ」


 ポテトは呪文を唱えた。


「――ウィズエブリワン」



× × ×



 倒れた2人。どうにか立ち上がろうとするが、全身の痛みがそれを許さない。


「くっ……」


 霞む視界に、巨大な敵がぼんやり見える。あれに立ち向かおうだなんて、無茶だったのだろうか?


「……」


 涙すら流れなかった。心が諦めの海に沈むのを、2人とも黙って受け入れるしかなかった。だから――。


『キュアプリ、頑張れ‼』


 その声も、幻聴かと思った。2人は顔をゆっくり上げた。声の源はどこにも見当たらなかった。やはり都合の良い幻想だったのか……と思った矢先、


『キュアプリに力を!』

『みんなの希望だ』

『負けるなキュアプリ‼』

『世界の平和を守って、キュアプリ!』

『キュアプリに力を!』

『キュアプリに力を‼』


 たくさんの声が聞こえてきた。誰のものともしれない応援。


「……」

「……!」


 キュアオタクとキュアミリアートは倒れたまま顔を見合わせた。声はどんどん増え、どんどん大きくなる。2人を叱咤し、励まし、信じる人々の声。


「そうだ……」

「そうだった……」


『あなたたちはキュアプリだ!』

『キュアプリが世界を救う‼』


「私達が……」


 手を取り、ゆっくりと、立ち上がる。涙が頬を伝った。


「世界を救うんだ……」


 声は今や空間を埋め尽くしている。温かい希望を覗かせる、声。


「こんなところで、諦められないんだ」

「守らなきゃいけない人々がいるんだ」


 世界を救うだなんて抽象的で曖昧模糊としたものを、今やっと分かった。人々のたくさんの声を耳にして、初めて分かった。


「だって私達は……」

「キュアプリだから……」


 顔を上げた。


「2人が、キュアプリだからーっ‼」


 叫んだ。地を蹴り、飛んだ。


「世界中の人と一緒に戦ってる。だからこそ、ウィズエブリワン『みんなといっしょに』なんだよ」


 ポテトが呟く。


「1人じゃないってことですね」

「はい。さあ、キュアプリが飛んだ。そしてなんと……羽が生えている!」


 2人の背中には、太陽の光を浴びて輝く、ガラス細工のような美しい羽が生えていた。


 2人は巨大な敵へ飛翔する。ジャンクフードベロンバァが再び紫色の光線を放つが、避けられた。虹色の軌跡を残し、キュアプリはアカンベーの真上へ回り込んだ。


「一気に倒すつもりですね」

「しかし、ベロンバァもそう易々とは倒されない!」


 光線がさらに数本放たれた。空が紫に輝く。大量の殺戮光線の間を縫って2人は飛ぶ。世界中が2人の雄姿を、固唾を飲んで見守っていた。


 キュアオタクはキュアミリアートに叫んだ。


「この調子じゃあいつまでたっても攻撃できませんよ!」

「分かった――レモーブフラッシュ×2‼」


 キュアミリアートの呪文。小規模の爆発が大量に起こってジャンクフードベロンバァを包み、最後に大爆発。ハンバーガーの装甲を吹き飛ばした。紫の光線もいくつか消える。


「今だ……行くよ!」

「はい!」


 2人は手を繫いだ。


「――剛星【スターダスト】」


 煌めく星々が、大気圏を破り、紫の空を裂いてベロンバァに降り注いだ。星の軌跡が空を塗り替える。そして2人も、一気に下降した。


「星が降り注ぐ、その中をご覧ください、2人が手を繫ぎ、青白く輝きながらジャンクフードベロンバァへと向かっています‼」

「計算不能なパワーです! ジャンクフードベロンバァの光線が何度か当たるが、弾き返しています‼」

「2人の姿は、糸○町とそこの人々の心にクレーターを残した、ティ○マト彗星、まさにそのままです‼ 落ちて、落ちてゆく――っ‼」


 光が炸裂した。天と地の境目までも白く染め上げ、次いで旋風が草原を駆け抜けた。あまりの衝撃に誰もが目を開けられなかった。


「どう、なったの、でしょうか……」

「あ……」


 ハンバーガーはそこに残っていた。


「なんと……まさか効かないとは……」

「いや、待ってください」


 ピシ、と音がし、次の瞬間、ジャンクフードベロンバァは一気に砕け散った。大量の瓦礫のように土砂崩れを起こす。


「☆粉砕☆玉砕☆大喝采☆お見事ですね……キュアプリ‼」


 2人は草原に立っていた。光が弾け、元の姿に戻る。


「ああ、疲れた……」


 チエは膝から崩れ落ちる。田中も空を仰いだ。


「そうですね……ん? 空から何か降ってき


 ゴツン!


 田中の頭に何か当たる。


「ひゃあー」


 田中は倒れた。チエが、田中の頭に当たった物体を拾い上げる。


「これは、ネコフルンがベロンバァを出す時に使ってた……まさかこれが赤い石⁉」

「おおっ揃いましたね!」


 2人で顔を見合わせ、笑った。


「そうはさせるか~っ‼」

「え?」


 2人の前にネコフルンが着陸した。


「ニャルッフフフ……それは返してもらうぜ」

「嫌ですよ」

「俺様は嫌じゃねぇんだよ! お前ら、もう戦う余裕はないはずだしな」


 悔しいが言う通りだった。ネコフルンが鉤爪を振りかざす。


「うおら……」

「ムンッ‼」


 しかし、ネコフルンが斬り裂かれる。


「ぐわあ~」


 ネコフルン を たおした !


 倒したのは魔王トムだった。


「トムさん!」

「ははは! 読者よ、しれっと俺のこと忘れてただろう! ははは! 肝心なところで活躍できないと思っていたであろう! ははは……あれ、あ、ちょ、おい、おい! おいてくんじゃない! てかもう行くのか⁉ 少し休まない? ねぇ……」


 実況と解説の2人はセットを片付けている。


「今回は新しい必殺技もたくさん出ましたね!」

「はい。実は作者が小説準備・会話掲示板で必殺技を募集しているんですよ」

「そうなんですか?」

「はい。そろそろ帝王城に乗り込みますし、必殺技のアイデアが欲しいのでしょう」

「そういえば勇者ポテトの大冒険、ゲーム化の話もありますよね」

「ええ、まだあまり進んでいないようですが、私は、まあ、楽しみにしていますよ。どうも4パートに分けるそうです。この小説は今パート3が終わったところです」

「早いですね! ではもうパート4、ラストってことですね」

「はい。どんな展開が待ち受けるのか、楽しみにしましょう。シロルさん、今日はありがとうございました」

「ありがとうございました」

 無謀にも『勇者ポテトの大冒険』のゲームを作ろうとしていた時期がありました。結局、田中が仲間になったあたりまでが限界でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ