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#11 ふたりはキュアプリ。

 草原を歩いていた勇者一行の前に突然現れたのは――


「ネコフルン⁉」

「ニャルッフフフ、ここは通さないぜ」


 頭はアメショ、胴体は成人男性、ネコフルンであった。なぜか知らないが、宙に浮いている。


 ポテトが笑う。


「ちょうど探していたところだ。言われた通り、ここは通らずに迂回するから、代わりに赤い石をくれ」

「赤い石? 何のことだ? ジョジョか?」


 どうも赤い石については心当たりが無いらしい。


「よく分からないことを言って誤魔化してもムダだ‼ 今日こそここで消えてもらおう……ニャルッフフフ」


 ネコフルンが懐から分厚い本を取り出してバッと開く。チエが首を傾げる。


「……何の本でしょうか」

「あっ、今月のコポコポコミックだ。俺も読んでるぞ」

「魔王さんが……以外ですね」


 チエは納得する。


「おいそこっ、うるさいぞ‼ さて……」


 ネコフルンはさらに絵の具のチューブを取り出し、握り潰した。中から漆黒の絵の具が溢れ出てくる。それを一気にコポコポコミックにベチャッと塗り付けた。田中が「嫌な予感がします!」と叫ぶ。


「世界よ! 最悪の結末、バッドエンドに染まれ‼ 白紙の未来を、黒く塗りつぶせッ‼」


 ネコフルンの言葉と共に黒く染まる空間!


「な……なんだこれ、体から力が抜けるぞ……」

「き、気力が……持たない……」


 倒れ伏す勇者、オタク、魔王。


「ははは! ざまあみやがれ! ……ん? 何でおめーだけ絶望してない⁉」


 チエだけが取り残されていた。


「え、えぇ⁉ ちょっと皆さん、起きてくださいよ‼ ……あ、いや、勇者様は狸寝入りしてる……」


 どちらにせよ今動けるのはチエだけだ。


「ふん……少し予想外だが、まあいい‼ 出でよ! ベロンバァ!」


 ネコフルンが何か球状のものを素早く投げた。それは狸寝入りしているポテトが持っていたポテト(マ〇クの、おなじみの赤いパッケージのやつ)に当たった。かと思えばそれはみるみるうちに巨大化し、怪物となった‼


「ベロンバァ‼」


 怪物の咆哮が真っ暗な草原に轟きわたる。轟音に草が揺れ、波紋を描いた。


「な、何あいつっ……⁉」

「踏み潰してやれ、ベロンバァ‼」


 怪物の赤いパッケージの巨体が迫ってくる。その足が持ち上がろうとする。


「ッ、レモーブ‼」


 爆発。爆発。足は一旦止まったが赤いパッケージに傷がついた様子はない。


「効かない……⁉」

「ベロンバァ‼」


 再び持ち上がる足。既に暗いチエの周囲を大きな影が覆った。


「……‼ レモーブ‼ レモーブ‼」

「ムダだね、お前の魔法なんか俺のベロンバァには効かない」


 ネコフルンが上空から半ば呆れて言う。


「くっ……」


 それでも、呪文を唱え続ける。何回も、効かない爆発を起こす。


「聞き分け悪ぃな……ベロンバァ、やっちまえ」


 足が、一気に、落ちてくる。もう駄目なの? 私……死……っ


 その瞬間、眩いばかりの金色の光が溢れ出した。


「な、何、今の……?」


 突然の金の光はベロンバァにも想定外だったのか、大きく後ずさりしている。光の根源は、意外な事にも魔王だった。しかし、魔王は絶望したままで、動ける様子ではない。


「何が起こったの……?」

「クル~!」

「⁉」


 魔王の懐から飛び出て来たのは……


「ま、マイキーマウス⁉」

「違うクル! キャンデ……あ、モンブランクル‼」

「なんか今、キャンディって言いかけたような……」

「そんなことないクル‼ モンブランでクル‼」


 現れたのはマイキーマウスもといモンブランであった。元々可愛かったネズミが、ゆるくなって妖精チックになっている。


「キャンデ、違った、モンブランはチミの諦めない姿に感動したクル‼ チミは伝説の戦士、キュアプリになる資格があるクル‼」

「はあ……そうですか(←分かってない)」


 モンブランが何かを飛ばしてくる。チエがキャッチしたそれは、スマホみたいなものと綺麗な黒い宝石だった。


「そのキュアプリフォンにキュアプリストーンをはめて、キュアプリ・スマイルチェンジって叫ぶクル‼」

「よ、よく分からないけど、やってみる‼」


 言った瞬間、チエの周囲に輝く空間が広がった。


 チエはキュアプリフォンにキュアプリストーンをはめる。軽やかな音がし、キュアプリフォンの画面が白く光った。チエは叫んだ。


「キュアプリ、スマイルチェーンジ‼」


 キュアプリフォンから輝くピンクの閃光が溢れ出し、チエの体を包む。黒いリボンがどこからともなく現れ、チエの手足に巻き付いて実体化し、そこに赤い飾りが着けられる。袖口は白くなった。胴体にも黒いリボンが巻き付く。光と共に装具に変化し、さらに上から赤いリボンが回り込む。胸に白い宝石が現れる。


 おかっぱの黒髪が青く光って伸び、黒のリボンでポニーテールに結ばれる。結んだところに赤の宝石が着き、白く輝く結晶で覆われた。


 チエの琥珀色の目が輝きを増す。


 変身を終えたチエは上空から降下して大理石の床に着地し、白いスポットライトを浴びて笑顔を見せた。


「幾億の希望と夢‼ キュアミリアート‼」


「な、何これ……」


 チエは自分の体を見て驚いている。モンブランはチエに言った。


「君はキュアプリになったクル‼ それでベロンバァとも戦えるクル‼」

「ニャルッフフフ、俺のジャンクフードベロンバァには勝てねぇよ‼ 行け‼」


 ネコフルンの激励に、赤いパッケージの中心の顔が笑った。近づいてくる。


「ひゃ、近づいてくる……」

「迎撃するクル‼」

「迎撃⁉」


 それはいくら何でも物騒だろうと思いつつ、チエもといキュアミリアートは地を蹴って跳んでいった。


 一方、戦いの場からやや離れた場所に置かれた2台のスチール製の机。マイク付きヘッドホンを頭に装着した2人の男がパイプ椅子に座っている。片方が落ち着いた口調で話し出した。


「キュアプリ史に残る決戦の舞台は、世界中の青空の断片を集めたかのような快晴の空の下、翡翠煌めく草原です。帝王討伐戦への道筋もいよいよ山場、帝王城解放の鍵となる青と赤の石は、既に青い石が集まっています。赤い石を賭けた戦いに旗を揚げたのは、帝王の優秀な手下、カリスマキャットのネコフルンと彼が召喚したジャンクフードベロンバァです。一方の勇者サイドは序盤で勇者、回復担当、物理攻撃担当を失って大きな痛手を被っていましたが、1人残されたちえみ選手の諦めない気持ちが天の女神を涙させ、モンブランの指示の下、希望と夢のキュアプリ、キュアミリアートへと変身しました。これから本当の戦いが幕を開けます。実況は私、シロルみのる、解説はハロルことさんです。ハロルさん、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 キュアミリアートがベロンバァへ跳んでいく。


「さあ、まずはキュアミリアート、一気に間合いを詰めようとする! その気迫たるや獲物を狙うチーターに勝るとも劣らない!」

「しかし、攻撃方法の判明していない敵に闇雲に突っ込んでいくのは得策とは言えませんね。初めから攻撃を受けてパニックになったキュアプリは今までにもたくさんいました」


 果たしてベロンバァはパッケージから腕を出し、ぶん殴ってきた。キュアミリアートは慌てて下に動いて避ける。そのままの勢いで相手に肉薄し、殴り返した。


「おっと、先手を打ったのはキュアミリアート、拳が赤いパッケージに衝突し、ベロンバァ大きく後退しました! キュアミリアート、ホッとしているようですね」

「何しろ彼女は魔女でしたから、本来遠距離系です。近接攻撃は初めてといっても過言ではないでしょうからね」

「おっとネコフルン監督、何か取り出しました。あれは……何かの板でしょうか」

「猫は苛立ちを覚えると爪を研ぐ習性があります。あれは爪とぎの板でしょう」

「ああ、確かに爪を研いでいるようだ……おっと、ここでベロンバァが動いた! 頭と思われる部分を下に向け……ポテトを発射した⁉」


 おなじみの細長いポテトが、テレレ、テレレという例の音楽と共に飛んでくる。キュアミリアートは突然の攻撃に対処しきれなかった。ポテトに被弾し、吹き飛ばされ、崖に衝突し、大量の土砂と共に地面に落ちた。


「ああっと……‼ キュアミリアート、ジャンクフードベロンバァの予想外の攻撃を躱し切れないっ」

「良くないですね。かなり激しく全身を打ったでしょうし、精神面でのダメージも決して軽くはないでしょう」


 土砂の崩落で生じた煙の中で、キュアミリアートは倒れ伏していた。


 次回、あのオタクが仮面のライダーに……⁉



× × ×



 絶望に包まれていた。無気力に覆われていた。田中は地に伏し、力を抜いて、目を閉じていた。真っ黒い粘り気のある、グリスのような液体に頭まで浸かっているようだった。それは恐ろしいほどに、心地よかった。


「……発射し……」


 唐突に、声が頭に響いた。何だよ、うるさいなぁ……。重い扉を一本の指で開くように、目を無理矢理こじ開ける。視界が黒く濁っているが、少し瞬きをすると薄暗いカーテンの向こうに何かが見えた。


(……チエ……?)


 ……何故かチエがコスプレを着ている。


(……? ん?)


 僅かに聞こえてくる音。テレレ、テレレ。


(……)


 突然吹っ飛ばされるチエ‼


(⁉ 何、何が起こった⁉)


「ああっと……‼ キュアミリアート、ジャンクフードベロンバァの予想外の攻撃を躱し切れないっ」


 何、実況? ……てか、チエ、やばいじゃん!


 手に力を込めて、上体を上げようとする。手が滑る。上半身を固い地面に打ち付け、肋骨が悲鳴を上げる。


「がっ……‼」


 再び、頭の中に絶望が滲んでくる。閉じそうになる瞼を必死に開け、また腕で体を支える。どうにか上体を起こしたものの、足が動かない。


「……っ、動け、動け‼」


 ギシギシ軋む骨に激痛を感じる。まるで下半身が鎖でがんじがらめにされているようだ。


「……」


 諦めが心に滑り込んでこようとするが、土砂にまみれたチエが目に入り、自分を叱咤する。ここで終わるのか、そんなヤワなオタクなのかっ⁉


「あああぁぁぁ‼ 畜生‼」


 いつの間にか口から悲鳴が迸っていた。自分の声を土台にして、その上に立つ。伸びてくる手のような鎖を振りほどき、暗い空間の壁に体当たりする。


 体中に走る火花のような痛み。それでも、チエを救わなければいけないという意思が、田中の魂を芯から揺さぶった。


 また体当たりする。体当たりする。体当たりして、体が震え、その反動のままに右手で壁を殴る。ピシ、と壁がひび割れる。僅かに漏れ出した光に希望を感じ、また体当たり。ひびが大きくなる。同時に体への負担も酷くなっている。ああ、もう……。歯を食いしばり、腕をとにかく振り回し、そして頭突きした。


 その瞬間、ピシ、ピシ、という小さな音が次々重なってパキぃ、パキッ、と響き、ザアアァ……という音と共に黒い壁が崩れ、白い光が、思わず閉じた瞼を貫いた。


 田中はキュアミリアートの前に立った。手を広げる。


「田中さん⁉ どうして……」


 ネコフルンも驚いている。


「あの空間を脱しただと……⁉ まあいい、やれ、ベロンバァ‼」

「ベロンバァ‼」


 ベロンバァが足を持ち上げる。キュアミリアートは動けない。田中もベロンバァに力では適わない。それでも――田中は迫って来るベロンバァの足を見上げた――チエを守らないといけない。


「それがどうしようもないオタクにできる唯一のことだっ‼」

「ここからはテンプレだクルぅ~」


 モンブランがさっさとベロンバァを遠ざけ、田中にキュアプリフォンとキュアプリストーンを渡す。


「ほれさっさと変身するクル」

「え……はぁ」


 変身しようとする田中の横の作者。


「変身シーン書くの面倒だし、ゆっくり書きたいから次回に回しますね」


 ……。田中が作者を見る。


「あの、ちょっと邪魔……」

「あ、はい」


 田中はキュアプリフォンにキュアプリストーンをはめる。軽やかな音がし、キュアプリフォンの画面が金色に光った。田中は叫んだ。


「キュアプリ、スマイルチェーンジ‼」


 キュアプリフォンから輝く黄色の閃光が溢れ出し、田中の体を包む。


 黄金の宝石が大量に渦巻いて出現し、田中の全身を包み込む。翠の翡翠の色をした光線がその宝石に幾重にも反射して宝石をまとめ上げた。腕と脚の宝石が柔らかい布になり、大粒の紫のアメジストがそれを飾り付ける。胴体に虹色の光が集束し、大きなリボンとなり、その端が後ろにまで伸びる。


 黄色い髪が輝き、虹色のリボンで結ばれてツインテールになる。


 田中の目が美しい碧に輝き、同時に手首に幾つものペンライトが付いた紐が巻き付く。ペットボトルの入った巾着袋が腰に着き、最期に純白のハチマキが額に巻かれた。


 変身を終えた田中は金色のステージの床の中から出てきて、紫のスポットライトを浴びてポーズを決めた。


「推しへの愛は永遠不滅‼ キュアオタク‼」


「ハイドレーション【水分補給】‼」


 キュアオタクのパワーでキュアミリアートが回復する。


「き、キュアオタク……⁉」


 驚くキュアミリアート。一方のネコフルンは髪? をかきむしっている。


「ふ、2人もキュアプリが……‼ 帝王様に怒られる……いや、ここで2人とも片付ければ関係ないか……ニャルッフフフ‼」


 2人のキュアプリは手を繫ぎ立ち上がった。


「希望と夢はっ」

「永遠不滅っ」


 光に照らし出された2人の伝説の戦士、キュアプリ。可憐さと強さのオーラが彼女らを包んでいた。


「2人がキュアプリ‼」

「帝王パストラの従僕たちよ‼」

「泣きべそかく前に帰りなさい‼」


「ところで、田中は仮面のライダーになるんじゃないの?」

「次回予告なんて気にしない方が良いってことですよ」



× × ×



「さあ、絶体絶命と思われたキュアミリアートでしたが、キュアオタクの誕生により2人がプリキュアを結成した!」

「これから起死回生、一発逆転を狙いたいですね」

「おっとここでジャンクフードベロンバァがまたもポテトミサイルを発射した! あの黄色が宙を裂くその様は、まさに███なあの兵器を彷彿とさせる!」(※再掲時注:シビアなネタなので伏せました)

「あまり狙いを定めていないようですが、数が凄いですね。あれだけのポテトを避け切れるかが最初の壁となるでしょう」


 キュアミリアートとキュアオタクは一瞬目を合わせ、互いに頷くとすぐに走り出した。次々と飛来するポテトだが、それを「プライドガード!」田中の盾で弾く。


「オタクの高いプライドをそのまま盾にしたようですね。弾かれたポテトはお空に高い高いです」

「なかなかクオリティ高い高いギャグですね~」


 ポテトを避けてベロンバァまで接近した2人は、同時に跳躍し、同時に拳を振るう。


 ドッ――ガァッ‼


「決まりました、同時パンチ! ジャンクフードベロンバァは蛙のようにひっくり返ってしまいました!」


 2人の戦士は地面に着地した。


「ネコフルン選手は何やら考え込んでいるようですね」

「奥の手があるのかもしれません――おっ?」


 ネコフルンが何かベロンバァに叫んだ。次の瞬間、ジャンクフードベロンバァはその体を一気に起こす。その風圧でキュアプリ2人も吹っ飛んだ。


「きゃあっ‼」

「……くっ、まだ何かする気でしょうか……」


 ジャンクフードベロンバァの赤いパッケージに、ヒビが入り始めた。その隙間から黒い光が漏れ出し、光が徐々に大きくなる。パッケージがパラパラ落ち、中の体が変形し始めた。


「おっとこれは何でしょうか⁉ まるでカブトムシが脱皮しているようだ!」

「パッケージの内側に本体が隠れていたようですね」

「ニートが本気を出すと恐ろしいと言うが、果たしてどうなるのでしょう!」


 ベロンバァの体が光に包まれ、実況席の2人とキュアプリの2人は目を閉じた……。その目を開けるとそこには、


「なんということでしょう‼ 驚きたこ焼きもんじゃ焼き、ポテトの姿をしていたベロンバァは巨大なハンバーガーになった‼」


 ハンバーガーは東京の例のドームと見紛う程の威容を誇っている。


「ジャンクフードベロンバァ最終形態」


 ネコフルンが勝ち誇ったように呟いた。

 「ベロンバァ」は、原文での名前があまりにもまんまだったので、再掲時に変更しています。他にも危ないところはチラホラありますね……。

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