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短編小説予定です。全3話予定になります。

ご了承ください。

(カクヨムでも投稿しております)

 人生、何が起こるかわからない。

 

 僕は昔から、男女の交際というものに、あまり興味が湧かなかった。

 友達の前では、皆に話を合わせる為に『彼女欲しい』と言ったことはあったかもしれない。

 でも、実際女子と話すより、同性と話していた方が楽しいし。

 一緒にいると気まずいし。

 なんか……いい匂いして緊張するし。


 だから、僕は誰が何と言おうと、きっと『結婚はしないんだろうな』と思っていた。

 

 なんなら、仲の良い男友達と、一生結婚しないで、魔法使いになる。同盟を作ったぐらいだ。ちなみに言い出しっぺは、先にネタバレしておくと、俺達を裏切って真っ先に結婚しやがったけども。

 裏切り者が!

 アイツは何時か痛い目を見てもらおう。

 

 …………っごほん。

 話を戻そう。

 

 そんな僕だけど、なんやかんやで彼女が出来た。

 え? 何がどうしてそうなったのかって?

 大丈夫。後で説明するよ。

 

 えーと。

 そう、なんやかんや彼女が出来たんだ。

 高校生最後の年になってから。

 それから、お付き合いを始めて、うーん、何年目だっけ?

 

 忘れちゃった……って言うと、きっと怒られちゃうから、決して言えないけど。

 うん。僕達は結婚した。

 

 結婚しない同盟を裏切って、ね。

 同盟メンバーからは第二の裏切り者と、罵られつつも、祝福してもらって。

 盛大な結婚式は開催できなかったけど。ちゃんと指輪を買って、互いに付け合って。

 

 誓いのキスをして。

 

 僕達は今日、入籍した。

 

 こうして思い返してみると、なんだが不思議な気分になる。

 親にも、友達にも、『お前は絶対結婚できない!』と言われ……。

 

 そんな僕が、世間的に見ても随分と早くに結婚をしてしまって。

 ねぇねぇ。今どんな気持ち?

 思わず人を煽ってしまうくらいには、気分が良く、気持ちがいい。

 

 今僕はとても幸せだ。

 

 さて、ここまで話をしてきたけど、これを聞いてくれている人は、これだけじゃ良く分からないよね?

 

 だから話そうと思うよ。

 僕が彼女と出会った日から。

 

 僕が彼女とお付き合いをして。

 

 僕が彼女と結婚するまでの日々を。

 

 これを読んで、皆も参考にしてほしい。

 僕みたいな人間でも、人並みに異性と付き合って、結婚が出来るんだぞってとこを。

 

 え? また調子に乗っているって?

 わかっているよ。でも今日くらいはいいだろう?

 

 今日はこれからずっと記憶に刻み込まれていく、幸せで、大切な、記念日になるんだから。

 指輪の内側にも刻み込んだ、大切な記念日だ。

 

 そんな日くらい、調子に乗ったとしても、神様きっと許してくれるよ。

 それじゃ、始めようか。

 そんなに長くなる予定じゃないから、しばしの間ご静粛にお願いするよ。

 

 ――――あれは、高校の入学式……。

 には出会ってないから、それからしばらくした後の事――。

 


 

 高校生活にも慣れ始めた、四月の終盤。

 初めの頃は説明会だの、なんちゃら測定などと、授業といえないような楽な時間を、ロングホームルームっていう枠組みで受けていた。

 けど、時間割が組まれて、気づいたら教師の異国言語のような小難しい授業が始まっていた。

 最初の数ページは理解できても、ペラペラと教科書を先にめくると、もうついていける気がしなくて絶望する、そんな今日この頃。

 

「おーい、新堂(しんどう)。昨日のアニメ見たか?」

「だー! あんまり大声でアニメの話をするなよ! ヲタクだと思われるだろ?」

「……いや、お前普通にヲタクだろ」

「僕は認めないよ。君ほどアニメも見ないし、ラノベも読まないからね」

「俺と比べている時点で、お察しなレベルだと、ヲタクのお前にはわからないか」

 僕――新堂真澄(しんどうますみ)の名前を、朝のホームルーム前から皆に聞こえるようなボリュームで呼んできて、教室の隅で目立たないようにラノベを読んでいたはずなのに、気づけば周りから注目されいて。

 原因を作ってくれたこの男は――要陽一(かなめよういち)

 高校入学早々、自席でブックカバーを用いて表紙を隠しながらラノベを読んでいたのに、こっそり後ろから内容を覗き込んで、僕をラノベを読む同志ヲタクと見抜いて話しかけてきた、生粋のヲタクでありながら、コミュ力が微妙に高い空気の読めない男だ。

 

「お前、今俺の悪口を心の中で思っていただろう」

「何を言っているんだ親友。そんな事を思う訳がないじゃないか」

「お前表情に出やすいんだよ! お前と人狼やったら、絶対負けないと思うわ」

 などと訳のわからない事を供述しており、以下略。

 人狼ってチャットでする物でしょ?

 表情とか関係ないじゃん。

 とか、内心思いつつ、僕は曖昧な笑顔で聞き流す。

 

「それよりアニメの話! ア! ニ! メ!」

「だーァッ! だから大声でアニメを連呼するな!」

 コイツに羞恥心はないのか!? まあないからこんな真似が出来るのだろうが。

 きっとバカなんだろう。まだテストらしいテストをやってないから分からないが、中間テストが始まったら、はっきりする事だ。

 きっと赤点連発で僕に泣きついてくるに違いない。

 よくそんなキャラが出てくるアニメとか漫画があるじゃん?

 そいつらと同じ部類の人間なんだろう。

 え? 僕はそこそこ勉強してますよ。

 赤点を取らない自信はある! 赤点は、ね。

 

 勉強ってなんであんなに面倒なんだろう。

「アニメ、ね。昨日はラノベ読んでたら全部見過ごしてたんだよね」

「は? お前アニメは生で見てなんぼだろ!? なにやっとるが」

「いやいや、予約しておいたし、なんなら後でネットで見るよ。アマプラとかアベマとか」

 最近は某動画投稿サイトとかでも週遅れとかで上がっていたりするし、見過ごした時は便利だよね。

「はぁ。信じらんね」

「君、ほんとアニメ好きだよね……ある意味尊敬するよ」

「おう。普通に尊敬してくれていいぞ」

「あ、はい」

 

 僕達の会話の体感八割くらいこんな感じでアニメとか漫画とか、ヲタクっぽい話が多い。

 そんな話をしているからか、クラスではもう完全に僕と要は完全にヲタクキャラとして見られている節がある。

 ほんと、要と一緒にされるのは勘弁である。

 ラノベだって月十冊くらいしか読まないし、アニメだって毎期四から五種類は見ずに終わる事も多い。

 漫画に至ってはジャンポやチャンデー、モゴジンなど有名な週刊誌で連載している漫画を買う程度だ。

 それに比べて要は、ラノベは僕の倍は読んでいるし、アニメも先の会話の様に毎日欠かさず生ですべての物に目を通しているようだ。

 漫画に至っては週刊月刊以外にも、同人誌にまで手を出しているようで、流石に十八禁の物は読んでないらしいが、某絵師さんが――などと良く言っている。

 彼に出会ってまだ一カ月も経っていないはずなんだけどなぁ……。大抵こんな話ばかりしているせいで、彼のヲタク情報ばかりが毎日更新され入ってくる。

 全く持って必要ない情報であるが、仕方あるまい。何せ四月初めの入学からここ、彼以外とまともに話した人がいないのだから。

 それに比べ……。

 

 

「おーい要。お前今日暇か? みんなでカラオケ行こうって話をしてるんだが」

「おいおい、お前らまだ朝のホームルーム前だろう。なーにもう終わった後の予定立ててるんだよ」

「ばっか、お前。糞ダルイ授業受けるのには、その後のご褒美を考えとかないとだろ。じゃなきゃ我慢できずに帰っちゃうから」

「それ、結局学校サボって、後で他の人と合流するパターンだろ」

「たしかに」

 茶染めした髪に、ピアスを付けた如何にもチャラそうなクラスメイトが、ケラケラ要と笑いながら会話をしている。

 

 そう。何故か要のヲタクキャラはクラスメイトから好感を持たれ受け入れられている。

 まぁ最もそれは要が勉強以外のスペックが高いからかもしれないが……。

 因みに、二人が会話をしている最中、僕は必死に空気になっています。

 霞を食べて生きる仙人の如き、無の境地。

 指一本でも動かしたら目立つ気がして、この間微動だにしてないからね。

 ってかチャラ男よ。要と一緒にいる僕には、ほんとに一言も無しですか。

 本当に透明人間にでもなれてるのかな? だとしたら凄いなびっくり人間誕生だ。

 

「じゃ、また放課後声かけるわ」

「おう。いけたら行くわ」

「それいかないやーつだから!」

 ちゃんと来いよ。とチャラ男は後ろ手を振りながら僕達の傍を離れていく。

 いやー、完璧な透明人間でしたね。さすが僕です。

 

「すまんな、新堂。お前あぁいうの苦手だろ? 出来るだけそっちに話がいかないようにしてたんだが……お前にとってはあまり気分のいいもんじゃないよな。あの輩は」

 申し訳なさそうに、ぺこりと頭を下げる要は……本当に人間として出来た奴だと思う今日この頃だ。

 コイツヲタクじゃなきゃ間違いなくモテそうなんだけどな。いや、もしかして現時点でもモテているのでは?

 

 

 放課後になった。

 授業風景? あぁ黙って小さくなって座ってるだけだよ。

 だって目立ったら先生に当てられちゃうじゃん。

 特に特筆すべき面白いこともなく――。

 強いて言えば目立っていた茶髪君が、我がクラスの担任、通称ゴリに説教されていたことくらいか……。

 耳ピアスがバレて、朝からお説教をくらう絵に描いたような、風景だった。

『今すぐここで取れ!』と怒るゴリは、まるで本当にゴリラみたいで面白いなと思っていたのは内緒だ。

 動画で見た海外の動物園に出てくるキレたゴリラのようで、思い出し笑いをするところだった。

 もっとも、傍から見ている分には面白かったけど、怒られてる当人はたまったもんじゃないだろうな。

 

 その後のチャラ男、落ち込んでたし。

 自業自得だけどね。普通学校にピアスとかつけてくる? そりゃそうなるよねって。

 

 その後ゴリがいなくなってから、すかさず慰めていた要は、流石だなと感心したが。

 あれは惚れちゃうわ。チャラ男若干顔が赤かったし。

 ……まぁ単純にクラスメイトの前で先生に公開説教されていたのが恥ずかしかっただけだろうけど。

 

 それ以外は特に変わった事も無く授業は終わりました。

 要は結局、チャラ男とカラオケに行くこと選んでいた。帰り際に一応、誘ってもらったけど。

「新堂、来たがらないと思うけど、どうする?」

 えぇ。その通りです。チャラ男怖いから行きたくないです。

 僕がお茶を濁すごとなくそのまま伝えると、要は苦笑いしながら了承して、帰っていった。

 なんで僕達みたいな人種の彼はチャラ男なんかと絡めるんだろうか。不思議だ。

 

 さて、そんな訳で一人教室に残った僕だけど、実はこの後予定があったりするのだ。

 どんな用事か? そりゃ部活さ。

 ほんとは部活動なんてやりたくなかったんだけど、どうやらこの学校は基本的にどこかの部活に所属しないといけないらしく、仕方なく入部届を出した。

 

 後から知った事だけど、そんな校則は形だけらしく、度々担任の先生から部活動への加入を進められるらしいのだが、結局うやむやになって入らなくても済むなんて話を先輩から聞いた時は、ふざけんなとおもいもしたが、そんなの後の祭り。

 結局僕は部活へ入部してしまた。

 と、いうわけで、僕はトボトボと部室へと向かう。

 僕の通うこの高校は、普通の公立高校ではあるのが、そこそこ設備は充実している。

 ほぼ全部活に、部室が用意させているのだ。

 僕の入部した『文芸部』は、なんと部員三人の超少人数だ。

 そんな弱小部活でも部室が用意されているのだから、よほど教室が余っているのだろう。

 六階建の校舎。その五階から上がすべて部活動関係の教室となっている。

 今も校舎五階へと上がって来ると、どこかの教室から漏れ出てくるギターやらなんやらドラムやらの激しい演奏と、ピアノやトランペットといった優雅な演奏が廊下で響きあい、糞の様なアンサンブルを奏でている。

 本当に各部室の防音をしっかりとしてほしい。

 僕は楽器を何一つまともに引けないから、決して偉そうな事は言えないが。

 それでもこの音色の喧嘩だけはやめてくれ。

 騒音から逃げるように離れ最上階の六階へと足を進める。

 五階と比べると幾分か静かになり、埃っぽさがどことなく漂う。

 

 五階は人数の多い部活動への部室になっている事が多く、その分人の出入りが激しい為か空気が漂うことなく回っているようだ。

 けど、どうも六階はいくら換気をしていても、どうにも空気が悪くていけない。

 

 そんな人気の無い六階の、さらに人気の無い隅の隅。

 薄暗い廊下で、不気味に火災報知器の赤いランプが光る中で、その教室はあった。

 

『文芸部』

 

 手書きで書かれたプレートが教室入口の頭上に掲げられており、その色褪せ具合から、ここ数年、誰も弄っていないのだろうなと察せられる。

 そんな歴史を感じさせる入口を前に、僕は一度深呼吸をする。

 

 先ほども言った通り、この文芸部は、僕を含め三人構成だ。

 しかも、うち二人は……女子。

 どちらも先輩な為、異性というだけで気を使うのに、さらに余計に気を使わなければならない。

 それでもまだ人数が少ない分、マシな方なのだと思うが。

 

 兎に角、そんな二人がおそらく既に待ち受けているであろう、部室に入るのだ。

 冷静に、慎重に、緊張しないように。

 念入りにもう一度深呼吸をして、僕はその引き戸に手をかける。

『ガラガラ』と立て付の悪いドアを開けると――。

評価、感想等頂けたら幸いです。

宜しくお願い致します。

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