第二話 ルール説明
「恐怖で人が死ぬ・・?何言ってるのかわかんないな・・・」
「詳しく話している時間はありません。まずは、あちらの丘の方を見てください。」
謎の声の主は、二人に少し離れた丘の上を見るよう促す。
二人は言われるままにそちらを見やった。
そこにいたのは、ホーンラビットだった。
【オルタナティブ・ゾーン】では、最も弱いモンスター、他のゲームで言うならスライムのような位置づけのモンスターだった。
初心者用ということもあってか、プレイヤーに対して好戦的ではなく、動きもゆっくりで、プレイヤーによっては、「可愛くて狩れない」という者もいるほどである。
しかし、丘の上にいるホーンラビットはどこか様子がおかしかった。
なにかこう・・・人を不安にさせるようなオーラというか、決して友好的ではない感じを受ける。
「あれは、【恐怖】が具現化したものです。」
謎の声の主はそう言った。
【恐怖】の具現化・・・?
未だに彼(女)らの言っていることが理解できない。
すると、丘の上にいるホーンラビットに近づく人間が見えた。
他のプレイヤーだろうか?
ホーンラビットは近づいてきた人影に気づくと・・・
襲い掛かった。
プレイヤーらしき人は、その動作を予期していたかのように、ひらりと攻撃をかわし、手に持っていたナイフをホーンラビットに突き刺した。
【オルタナティブ・ゾーン】ではよく見る狩りの光景だ。
2つの奇妙な点を除いては。
1つ。ホーンラビットは、他の生き物に襲い掛かるような獰猛なモンスターではないこと。
2つ。ナイフを刺されたホーンラビットが、白い光の粒子となって、消えたこと。
【オルタナティブ・ゾーン】では、『もう一つの現実を』というキャッチコピー通り、モンスターなどの死骸はその場に残るのだ。
だから、素材を取るためには、ちゃんと解体しなきゃいけない。
それは、当初オルゾンがあまりポピュラーにならなかった原因の一つでもある。
しかし、今二人が見ていたホーンラビットは間違いなく、跡形もなく消え去った。
どういうことだろうか?
「あれは、ホーンラビットの形をしていますが、ホーンラビットではありません。
【恐怖】がホーンラビットの形をして具現化したものです。」
「どういうことですか?」
少し落ち着いたジェシーが問う。
「ここは、言わばすべての生き物の精神世界。
【オルタナティブ・ゾーン】はそれを人間にわかりやすい形にして変換していたもの。
そして、モンスターは・・・【恐怖】の象徴。」
「【オルタナティブ・ゾーン】は精神世界を変換したもの?
なんでそんなことを?」
「【恐怖】を打ち払ってくれる者・・・
【勇者】を探すためです。」
「お願いです・・・勇者様。
全ての【恐怖】の根源たる、邪心トッドを・・・倒してください・・・」
声が消えた。
二人は目を見合わせた。
わからないことばかりだったが、それは互いに同じであり、聞いても仕方ないだろうと考え、二人とも口を開かなかった。
ふとジェシーが丘の方を見ると、先ほどホーンラビットにナイフを刺した男性がこちらを見ていた。
男性はジェシーと目が合うと、こちらに向かって走り出した。
「ど、どうしましょう?
だれかこちらに向かってくるようなのですが・・・」
コトミもそういわれて、丘の方を見る。
「あれって・・・」
「久しぶり!元気してたか?【コトミ】」