第一章性転換!? 第一話 ようこそ異世界へ
「ここはどこなんでしょう・・?」
「ここはどこだ・・?」
二人の声が重なる。
「きゃあ!?」
「うわあ!?」
またもや重なる二人の声。
その声の主の一人は鎧を着こんだ剣士。
もう一人は桜色のドレスをまとった少女だった。
「えっと、コトミさん・・ですよね?」
剣士は少女に話しかける。
「あ、はい・・そうですけど・・あなたは?」
「申し遅れました!私サムライのジェシーと申します!」
「サムライ?ああ、〈華撃団〉のジェシーさんか・・噂通り美男ですね。」
「コトミさんこそ噂にたがわぬかわいさですね!」
「はは、ありがとうございます。ところで・・私を眠らせたのはあなたですか?」
コトミはジェシーに疑いの目を向ける。
「とんでもありません!私はコトミさんが倒れているのを見かけて・・」
「本当ですか?PK狙いじゃないんですか?それともナンパ?」
「違います!」
「別に隠さなくてもいいですよ。よくあることですし。」
そういいながらコトミは手に持っていた杖を構える。
「本当に違います!私はコトミさんが倒れているのを見つけて声をかけたのですが、反応がなく・・そのあと低い声がしたと思ったら、光の柱に包まれて・・」
ジェシーはイメージと違うなと思いながらも必死に弁明する。
「低い声・・?光の柱・・?」
「はい。」
コトミは自分が気を失う前のことを思い出す。
「えっと・・確か、メールが来て、それで・・・そうだ!『移住』っていう文字に触れたら、声がして・・・」
「待っていたぞ、われらがアイドルよ。」
「誰だ!?」
「誰ですか!?」
二人の声が重なる。
二人はあたりを見回すが、なにも見当たらない。
「驚かせて済まない。私は異世界への案内人だ。君をこちらの世界に呼んだ者だ。」
「なんだ、何がどうなってるんだ・・・?声が直接頭に響いてくるような感じだ・・・」
「私は直接君たちには干渉できないのでな。こうして話すのも結構エネルギーを使うのだ。手短に済ませよう。」
「待ってください!なんなんですか!?あなたは!姿も見せず、わけのわからないことばかり・・・それにこれは立派な拉致ですよ!こんなことしてただで済むと思っているのですか!?」
ジェシーが謎の声の主に食って掛かる。
コトミも全く同感だったが、声の主はジェシーの疑問には答えず、話し始めた。
「私が君たちを呼んだ理由・・それは、端的に言えば、この世界を救ってほしいということだ。」
「だから何をわけのわからないことを言っているんですか!?質問に答えてください!」
「騒がしいな・・・一旦落ち着け。私は君たちを害するつもりはない。時間がないのだ・・・」
「だから何を・・!?」
「待て。奴の言うとおりだ。一旦落ち着け。冷静に話を聞いてから判断しても遅くない。それに・・何か変な感じがするんだ。まるで、今ここに現実に存在しているかのような・・・」
コトミはジェシーの口をふさぎ、謎の声の主に先を促す。
「物分かりがよくて助かる。君が感じている違和感・・それはこの世界が君たちが言うところの『異世界』だからだ。」
「異世界・・?」
「ああ。君たちがいた世界とは別の世界・・・『もう一つの現実』」
「!?」
『もう一つの現実を』
それは【オルタナティブ・ゾーン】のキャッチコピーだった。
しかし、何故?やはりこれは何かのイベントなのだろうか?
コトミがそこまで思考したとき、声の主は衝撃的な事実を口にした。
「そもそもおかしいとは思わなかったか?PCゲームでありながら、あのボリューム、再現度の高さ、そして何より、ゲームの中でアバターが意識を失ったはずなのに、アバターを操作している自分も気を失っていたことを。」
そうだ、言われてみれば、おかしい。ゲームの内容については、まあ、最先端の技術ってすごいんだなーぐらいにしか思っていなかった。しかし、ゲームの中での状態がそのまま現実の自分に投影されるなんて、おかしい。おかしすぎる。
感じていた違和感の正体を告げられたコトミは黙り込んでしまう。
「【オルタナティブ・ゾーン】は普通のゲームではなく、まぎれもない『もう一つの現実』なのだ。」
ジェシーは混乱していた。
そもそもこの状況が訳が分からないのに、その上【オルタナティブ・ゾーン】はゲームではない?もう何が何だかわからなかった。
「で?仮に、ここが異世界だったとして、今の話と何の関係があるんだ?」
コトミはとりあえず話を聞くことに決めた。
「ああ、先ほど言った通り【オルタナティブ・ゾーン】はゲームではない。君たち人間の欲望を可視化した、『もう一つの現実』だ。」
「その『もう一つの現実』ってどういう意味なんだ?」
「人間だれしも、「ああなりたい。」「生まれ変わったら・・」という欲望を抱いているものだ。妄想というやつだな。これらは本来当人たちの意識の領域にしか存在せず、他の者が知覚することはできないし、当人も五感でとらえることはできない。」
それはそうだ。妄想が形になるなんて、フィクションの中でしかありえない。
「しかし、人間の想像力は逞しい。特に、近年は他人とのかかわりが減り、思考する時間が増えたからか、人類の妄想はかつてないほどに膨れ上がった。」
「そして・・・爆発した。」
「!?」
頭に響いていた声が、突如低い声から女性の声に変った。
「お願いです。勇者様。【恐怖】を打ち払ってほしいのです・・・」
「【恐怖】は・・生物の最も強い感情・・・これがあふれてしまえば、この世界は・・壊れてしまう。そして、そうなれば・・・人、いえ思考する能力のある生き物は全て【恐怖】に吞まれ・・・死ぬ。」
「お願いです・・・どうか【恐怖】を打ち払って・・・そして、人を・・・命を・・・守って・・・・・」