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異世界は僕に牙を剥く ~異世界奴隷の迷宮探索~  作者: 結城紅
序章 この残酷な異世界で
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慣れとは恐ろしいもの

お久しぶりです。復活です。

一週間ほど腐ってました。

今後は序章完結に向けて、最低でも一日一話更新できるように努めます。

白鎧迷宮での激しい連戦から始まり、追手からの逃亡劇で幕を閉じた午前。

午後はアイリスと契約を続行し、今後の旅路の道連れとした。

そんな騒がしい一日も終わりを告げようとしている夜。

僕はナルダとの約束通り、黒鴉亭へと向かう。

傍らには商人の少女も控えている。


今の手持ちは約40万リル。ここから魔石と骨を換金した分のリルを受け取り、20万をナルダに、幾らかを二人の探索者に渡す。元々二人に金銭を支払うつもりはなかったため、最低限の支払い……それこそ数万程度で良いとして、ナルダに払う分もあるので多くて30万の支出は確定している。


あとは換金で得られた金額が最低でも100万の6割という皮算用で60万はある筈。

少なくとも、30万のプラスにはなる。

そのことを、道すがらアイリスに手短ではあるが話しておく。


「探索者になってから四日目で迷宮をひとつ踏破したんだ……」


「一応、英雄として召喚されたみたいだからね。多少の力はあって当然なのかもしれない」


「……それ聞いてないんだけど」


「そうだったっけ。疲れてたから抜けてたかも」


そう言って、これも手短に地方監査官モニカから告げられた言葉をアイリスに聞かせる。英雄として召喚されたこと。救済の果てに魔導王がいること。魔導王であれば僕の願いを叶えられること。そして、僕の召喚者が既知の存在であるかもしれないこと。


「念のため聞くけど、アイリスって魔法使える?」


英雄と召喚者は必ず巡り合う運命にあると魔女は語っていた。

そうであるならば、アイリスが召喚者と考えることもできる。これだけ近しい存在になったのも、僕を召喚した張本人ということであれば頷ける。


「魔法どころか戦闘技術はからっきしよ」


「そうか……」


彼女が僕の召喚者であるならば、心強かったし安心できたんだけどな。


「それにしても、あのモニカ様が宗一に予言をねぇ」


「よく当たるらしいね」


「噂だと、相当な気まぐれらしいわ。公爵家の令嬢だから金銭では靡かないし、占ってもらえる相手は限られるみたい。幸運だったわね」


「そう……だといいな」


アイリスは喜ばしいことのように語るが、僕はどうしても腑に落ちない。全てを見通され、心を覗かれている悍ましい感覚が脳裏に蘇る。

あれを幸運と呼べる気はしない。どちらかというと、死神による余命宣告といった表現の方が適切な気がする。

苦々しい言葉を零すと同時に、僕らの足が黒鴉亭へと繋がる裏路地へと差し掛かる。


「ここ結構危ないところよ?」


「知ってるよ。野盗とは二回遭遇した」


そして……。


「これが三回目だね」


建物の影から、ぬるりと這い出るように痩身痩躯の男が現れる。

僕はフードを被っているから、グラナを殺した男だと認知できていないのだろう。


「なあ、アイリス」


「な、なによ」


僕と違って、少し怯えながら彼女が応答する。


「僕ってそんなに弱そうに見える?」


恰好の獲物を見つけたとばかりの笑みを浮かべる野盗を尻目に、問いかけた。

僕の主観からすれば、全身黒の外套を纏い顔を隠している不審者である以上、同業者と思われてもおかしくはないと思うんだけど……。


「……強そうには見えないかも」


「そうか……」


落胆する僕に野盗が声を投げかける。


「女の前だからって威勢を張らなくてもいいんだぜ兄ちゃん?」


「威勢なんて張ってないよ」


僕は普段と変わらない柔らかいトーンのまま言葉を返す。


相手の男との力量差は明白だ。彼では僕には敵わない。


装備は皮鎧とナイフ。機動性と対人戦に重きを置いた格好。だが、獲物がナイフである以上距離を詰めなければならない。最適解は奇襲。堂々と現れてきている時点で、僕を殺す機会を一度逸している。


武器をちらつかせれば、相手が屈するとでも思っているのだろう。

僕は情けからフードを外す。


「この顔に見覚えは?」


「なんだ、ただの優男じゃねぇか」


僕のことを知らないとなれば、完全に素人だ。

野盗が生き残るには、戦ってはいけない相手を知り、弱者とだけ戦うことが必須。僕が殺した二人は、多少なりともそれを弁えていた。野盗ではないが、ナルダはこの点に関して最も長けている。


「今なら見逃してもいい」


アイリスの家で多少の休息を取ったものの、身体は依然として重い。

コンディションは万全とは言えない。

可能であれば、戦闘は避けたい。盗品を得たところで、彼の持ち物なんてたかが知れている。


「偉そうな口ききやがって。後悔するなよ?」


ナイフをこれみよがしにちらつかせながら、男が言った。

構えるどころか、見せびらかすだけとは。それじゃあ只の飾りだ。

僕は嘆息し、腕を振った。


「警告はした。後悔するならあの世でな」


言って、アイリスの手を引く。

僕の関心は既に野党から、今後のナルダたちとの談合へと移っている。

無警戒に歩み寄ってくる僕に苛立ったのか、男が言葉を発しようとして。


「あ……ぇっ!?」


ただ、血の泡を吹く。


全身隙だらけの彼には一投で十分だ。彼が啖呵を切った時点で、腰元のナイフを首筋目掛けて投擲した。


最速、最短の無駄のない動きだ。彼の力量では攻撃を目で捉えられなかったのだろう。

攻撃を受けて初めて、その事実を知る。

通りすがり様に、突き刺したナイフを抜いてとどめを刺す。


「分かってはいたけど、本当に強いわね」


アイリスが感嘆の声を漏らす。いつもの茶化した雰囲気はなく、心底感心したような物言いだ。


「いや、今のは相手が弱すぎただけだよ」


僕のことを知らないとなると、その辺の市民と力量は大差ない筈だ。事実、武器を手にしただけで優位に立っていたと勘違いしていたわけだし。

ああ、そうだ。


「どうする?」


「どうするって何を?」


振り返り、アイリスに尋ねる。

彼女はらしくもない言葉を返した。金のなるチャンスに気が付かないということは、野盗相手に多少は緊張していたのだろうか。


「死体は知り合いに片付けさせるけど。あいつの装備、剝いでいく?」


何気なく告げる僕に、彼女は呆れた様子を見せつつ一言。


「その言葉は本当に強い奴しか口にしないわよ」


「まあ、襲撃されるのは慣れてるからなぁ……」


「なんにせよ、あんたが敵じゃなくて本当に良かったわ」


こうして僕らはささやかな手土産をぶら下げて、談合へと臨んだ。


直近のまとめと、少しの伏線。

見捨てないで待っていてくださった方、ありがとうございます。

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