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異世界は僕に牙を剥く ~異世界奴隷の迷宮探索~  作者: 結城紅
序章 この残酷な異世界で
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落とした心を拾い直して

昨日と今日とで1話ずつ。


今回分量多めです。

あと、滅茶苦茶だったらすみません。

どうしても感傷的になってしまい、予定通りキャラクターを動かせませんでした。

「そうだよ、宗一」


ゆっくりと服を着直しながら、彼女が告げる。


「あたしは奴隷だったんだ」


……そうか。だから、同情じゃなくて共感。

昔の自分と、僕を重ねてた。


「まぁ、あんたは強いから。勝手に重ねられても迷惑かもしれないけど」


「そんなことはない。僕だって弱いさ。所詮、独りなんだから」


本当に強者と呼べる者であれば、追手も全て返り討ちにすればいい。大勢を敵に回してでも勝てる筈だ。


だが、現実は違う。貴族という組織相手に、個人の僕は逃げの一手を打つしかない。

取り立て屋から逃げ回っていた時期があるから分かる。いつ、どこから敵が出てきてもおかしくない緊迫状況が続くのは地獄だ。寝ても覚めても常に気を張っていなくちゃならない。

弱者だから、そういった状況に追い込まれるのだ。


「そう、独り。お父さんは私を1人から2人にしてくれた。家族にしてくれた。だから、あたしにもあの言葉の重みは分かるつもり。宗一もそうなんじゃない?」


加藤という日本人の男が、彼女を買い、奴隷ではなく首輪を外して家族にした。

そういうことなのだろう。

詳しいことは分からない。ただ、尊敬に値する人物であることは理解できる。


「……どうしようもなく貧乏なとき。助けてくれた人がいた。母さんと、幼い僕二人に手を差し伸べてくれた人がいたんだ。誰も余裕がない中で、善意を持った人から」


「だから、あんたは腕輪が盗まれた時、即座に取り返してくれたのね。一度ひび割れた人間関係は、もう元には戻らないから」


「……ああ」


「だから。だからあんたなのよ」


立て続けに、訴えるように彼女が続ける。


「一緒に旅をするなら、あたしは根っこが同じ人間がいい。勿論、宗一の実力を見込んでのことでもあるけど。それ以上に、あんたと旅がしたい」


「例え危険だったとしても?」


僕の問いに、彼女が頷く。


「それに、これはあたしが稼ぐためでもある。あたしは、宗一なら借金の2千万なんて余裕で返せると思ってる。賭けたいの、あんたに」


「稼ぐだけなら、ここでもできるだろ? それに、ここの方がまだ安全だ」


「確かに。ここは治安が悪いけど、慣れたもんだし宗一の言う通り安全かもね」


でもね、と彼女が続ける。


「もっと稼ぎたいの。ここじゃ限界がある。今のあたしはチマチマと小銭を稼いでいるだけ。もっと、大金を手にしたい」


詰め寄ってくる彼女の迫力に、僕は思わず後退する。


気が付いたら、背は壁についていた。

彼女は僕を逃すまいと、僕を挟んで両腕を壁に突いた。

猫のようだと例えた瞳は、今は猛獣そのもの。端正に整った顔が、殺気すら感じるほどの威圧をもって僕を見上げている。


「あたしはこの世から奴隷を、孤児を根絶したい。そのためには、国を相手に意見を言える豪商にならないといけないし、孤児院を建てたり人を雇ったりするのにも金がかかる」


以前は可愛らしいと評した瞳が、ヤクザも真っ青なレベルで僕を睨みつけていた。


「だから、あたしは稼ぐ! 今よりも、もっと! あたしはあたしの我儘を貫き通す!」


身勝手な言い分だ。僕との契約で稼ぎたい。一緒に旅をするなら僕が良い。危険は理解している。だが、僕の感情はガン無視だ。

もし、僕が原因で彼女を死なせることがあったとしたら。

僕は、立ち直れるのだろうか……?


「宗一……」


僕を呼ぶ声。

吐息が触れる距離で、彼女が僕に問いかける。


「あんたは何のために稼いでいるの?」


「何の、ため……?」


そんなこと決まってる。

僕の、たったひとつの願いのためだ。

奴隷から解放され、魔女の言葉通り救済の果てに待つ魔導王に会う。

それまで生きて、生きるために稼いで。

全ては、元の世界に戻るため。

母の下に、帰るため。


「たった一人の、肉親の下に帰るためだ」


僕はそのためだけに代償を支払い続けて力を得た、人を殺した、裏切った、自分を偽った、多くを敵に回した。


業を背負い、穢れに塗れてきた。期待される英雄の器なんてなく、泥の中を惨めに這いずり回っている。


どうしても、諦められないから。少しでも可能性があるのであれば、手を伸ばしたかったから。


「そのために、禁忌を破った。友人となり得る人間の期待に背を向けた。僕に良くしてくれた恩人を切り捨てた。殺人鬼と化した」


本来なら奴隷として惨めな末路を辿る筈の僕に、道を示してくれたオリヴィエ。僕と友人のように接してくれた彼女。

僕は、自分の都合のためだけに彼女を裏切った。


「母さんの下に帰るためなら、僕は何だってする」


歯軋りして、俯いた。アイリスの視線から目を逸らした。

堂々と夢を語る彼女が眩しくて。

自分とは、別人のように感じられてしまって。

僕は、信頼の大切さを理解していてそれを損ねたから。


「だったら――」


彼女が、小さな手で僕の顔を掴み正面を向かせる。

強制的に目が合う。

僕の顔を掴む彼女の手は、硬かった。僕の知る女の子の手じゃない。

だが、この手を僕は知っている。

母の手。泥の中を這ってきた人間の手だ。


「だったらエゴを貫きなさいよ。あたしを利用してみろよ!」


血走った目で、彼女が叫ぶ。


「あたしだって綺麗な人間じゃない! 結果的に人を裏切ったことだってある! でも、あたしとあんたは違うだろ!? 重みを理解したうえで裏切ったんだ! 軽々と人との絆を切り捨てる奴じゃない!」


「僕は……」


オリヴィエの笑顔が脳裏を過る。

僕の迷いを察したのか、彼女は僕を離すと静かに言った。


「じゃあ、金になるならあたしを裏切る?」


その言葉に、反射的に言葉が口をついて出た。


「馬鹿にするな! 金程度でお前を切り捨てたりはしない!」


「……そうだよ。そうだよね」


彼女の口車に乗せられたことに気が付き、我に返る。


金より大切なものなんてないと頭では考えていた。

世の中は悪意に満ちていて、金との繋がりで僕は安心感を得ていた。金の前で人は正直だからだ。でも、人の善意や温かみも知っていた。だから、心の隅では金に勝るものがあってほしいと願っていた。

でも、幼い頃から悪意に晒されてきた僕は、金でしかものを図れなくて……。

上辺だけの付き合いだけが、上手になった。

心から友人と呼べる人間なんていないんだ。


「あたしとあんたは同じなんだよ。馬鹿みたいなデカい夢掲げて、金でばかり物事を考えて……」


「アイリス……」


「寂しいよね」


……そうか、元奴隷っていうことは。

彼女もまた、幼い頃から悪意に晒されて生きてきて。それを父に助けられて。

でも、その父親が死んでしまった。


「ああ……」


僕は彼女の言葉を肯定する。

僕も、自分の母親が死んだら心から信じられる人間なんていなくなる。


「やっぱり、寂しかったんだね」


「あの時からかったのは、僕の気持ちを確かめたかったからか?」


「うん、自分と似ている人間を知りたかった。宗一のことをもっと理解したかった。あんたは、どこか父さんに似ているから」


「ハハ、なんだよ。結局面影を追ったままじゃないか」


父の面影が残るこの街を出る。いつまでも過去に縋らない、そういった言葉を吐いた割には弱いところがあるんだな。

彼女が引き攣った笑みを浮かべた。


「まあ、ね。でもさ」


「うん?」


彼女の目元が、優しく垂れる。口元だけじゃない、本物の笑み。


「いつか追い越すよ。面影の、その先にあたしは行く。だから……」


彼女が、深々と頭を下げる。

日本人特有のお辞儀。


「あたしの夢に手を貸して。あたしもあんたの夢に手を貸すから」


父から教わったのか。聡い彼女のことだ、その行動が意味することを理解している筈。

彼女が姿勢を正して、言葉を継ぐ。



「あたしを宗一の相棒(パートナー)にして」



それって……。


「心から信じ合える存在……」


「うん。本当の友人よ。いや、それ以上の関係かな」


「それ以上……?」


「あっ、今エッチな想像したでしょ? 宗一が望むなら恋人でも構わないわよ?」


「いや、それはない」


男女の関係じゃなくて。

初めて、母と同じくらい信じても良いと思える人だと思えた。

これが友達か。いや、ただの遊び仲間なんかじゃない。


「それで、どう?」


問いかける彼女の顔には、一抹の不安が窺えた。


彼女は僕にエゴを通せと、自分を利用しろと言った。彼女も僕を利用する。

互いに利用し合う関係。利害の一致。


でも、金だけの繋がりじゃない。現世にはいない、同種の人間。

信頼を結んで、信じて利用しろということ。

彼女の言うことは至極もっともだ。


信じても、いいのかもしれない。


僕はゆっくりと手を差し出す。


「僕らは運命共同体だ」


「……!」


彼女が相好を崩した。不安は晴れ、満面の笑みが咲く。


「こちらこそ、よろしく頼むよ、相棒(アイリス)


「うん! うん!!」


彼女は僕の手を掴み、激しく振り回すのだった。


……手が痛い。何だかしまらないな。


今後の話を含めた自分語りです。読後感を乱されたくない人は閉じて下さい。



主人公の相棒は、最初は男にしようと思っていました。

男の友情が好きなのと、男女比が偏らないようにしたかったので。


ですが、彼に必要なのは自分を引っ張ってくれる心の支えになれる人間。包容力が必要だと思い、女性に決めました。男性でも包容力のある人はいますけど、宗一君とは違うように見えて、違ったものを持っていて、でも根っこは同じ。こういうキャラクターならば、性別も違った方がよりそのように見せられるんじゃないかなと思ったんです。


軽口を叩きまくるのは性別関係なく同じだったんですけど、女性にしたことで冗談の幅が広がりましたね。男性が女性にからかわれる構図は見ていて和みますし、なんだかほんわかします。

結果として、宗一君より好きなキャラになりました。


一番好きなキャラクターは次章に出てくる商人の男なんですけど、それはまた今後運が良ければ。

次章を書くかどうかは、序章の結果次第なので。

終わりまで書きたいんですけどね。

ただ、序章最後まで書くことは確定してますし、これから二転三転としていきますのでもう暫くお付き合いください。


また、もし次章を書けるようであれば、章毎のあらすじと用語解説を置こうと思います。

沢山小説読んでたり、期間が空くと忘れちゃいますよね。かといって、最初から読むのも手間だと思うので。


何はともあれ、今後ともよろしくお願いいたします。

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