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異世界は僕に牙を剥く ~異世界奴隷の迷宮探索~  作者: 結城紅
序章 この残酷な異世界で
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成長、純然たる力

二話分です。

分割してもキリが悪いので、いっぺんに上げます。

「悪い。この階層の敵枯らした」


三人の視線が敵視するものから畏怖へと変わっていく中。


「流石だな、旦那ァ」


こいつだけ顔色を変えない。それどころか……。


「それで、このうち幾つ頂けるんです?」


死体清掃人は僕の意図するところを瞬時に見抜いたのだった。

これだけの魔石や骨が僕の手に余ることを察知し、運搬を任せようとしていたことを理解した。

こいつは頭の回転が早い。説明が省けて助ける。


「魔石の半分をお前たちにやる。大体40個はある。それをお前たち四人で分け合えばいい」


「悪い提案じゃねぇ。一人頭10個、労せずして手に入れられる。俺は賛成だ」


ナルダは即座に賛成してくれたが、他の三人は何かを考えているようだった。


「なぁ。それ全部お前ひとりでやったのか?」


三人の中でもひときわ大柄な男が僕に問いかけてきた。腰元にはメイスがぶら下がっている。膂力に自信があるのだろう。あれを自由自在に振り回せるのであれば、スケルトニア相手にはかなり有利だ。


「全て私が片付けた。何か問題でも?」


「……そうか。疑いやしねーよ。だけどよぉ」


三人が、一斉に構える。


「相当お疲れなんじゃねーのか、マレビトさんよ?」


「……」


僕は黙ってフードを外す。

バレているのであれば、隠す意味もない。


「やはり、グラナを殺した奴だったか……」


「私怨でも?」


「あいつには美味い汁吸わせてもらったからなぁ」


力量は、少なくともグラナ程度はあると考えていいだろう。


この状況は、一昨日の焼き直しだ。


一対三の対人戦。あのときは万全の状態で、魔眼を使ってやっとだった。

今は、あのときよりも状態は悪い。何せ、少し間が空いたとはいえ14連戦の後なんだ。


「おいお前ら。旦那に手を出すのはやめておけって」


「どうしたナルダ? 臆したか?」


死体清掃人は呆れた眼で仲間を見つめている。その表情は徐々に弛緩していき、諦観へと変わって言った。


「まぁ、言ってもきかねぇよな。だが、一応チームを組んでる以上忠告はさせてもらうぜ?」


三人から距離を置き、ナルダが告げる。


「グラナたちを殺したとき、旦那は手負いだったんだからな。旦那!」


死体清掃人がこちらに視線を寄越す。


「面倒かけさせちまってわりぃ! 仕事の代金は貰わねぇよ!」


「お前は不参加でいいのか?」


僕が意地の悪い笑みで返すと、苦笑した。

こいつはもう、僕が勝つことを確信してるんだな。


「悪い冗談はよしてくれよ旦那。俺は入り口まで退避させてもらうぜ」


言って、大分距離を離した。言葉の通り、戦闘に参加する意思はないようだ。

僕は三人に振り返り、問いかける。


「なぁ、お前らの中で一番殺しがうまい奴って誰だ?」


一瞬ではあるが、二人の視線が巨漢の背後にいる線の細い男へと向く。

対人戦はあいつが最も強いってことか。


「じゃあ、そいつ以外は生かしてやるから。一人殺した時点で降参してくれよ。足は残しておかなきゃならないしな」


荷物の量が多い以上、最低でも荷物持ち(キャリー)は三人欲しい。

僕の荷物はもう一杯だからなぁ。


「虚勢をかますのはやめろよマレビト」


巨漢が口元に卑しい笑みを浮かべる。完全に、自分たちが優勢だと勘違いしている。

まぁ、一応言うだけ言ったし、もういいか。降参するとはとても思えないけど。


「『疾風(セレラティオ)』」


必要最低限の力で、迷宮の床を蹴る。

詠唱は、会話の途中で終えている。無駄話していたのはそのためだ。

魔法がなくても大丈夫だとは思うが、圧倒的な差を見せつければ降参してくれるかもしれないしな。

僕とグラナだけであれ全部は持ち帰れない。


「おらよ」


外套を剥ぎ、三人に投げつける。塞がれる視界。ほんの僅かな間だが、それで十分だ。


三人の前方へ薄い壁をつくると同時に、横へと跳躍。空を滑るような浮遊感。力まずに、最小の動きをしているおかげで身体が軽い。

その感覚も、一瞬。次の瞬間には、僕の足が迷宮の壁を踏みしめていた。三人の横合いに出現するも、奴らは目くらましに夢中になっていて気が付かない。


三人の位置関係を目の端で捉え、再び跳躍。壁を蹴り、低い天井に手をつき、軽く押し出す感覚で身体ごと突き放す。


――三角飛びだ。床、壁、天井と伝って奴らの背後へと回った。


数秒にも満たない、刹那の動き。


オールドマギの師匠が記憶の中で見せた技だ。僕は魔法を使い、なんとか模倣することができた。


この感覚を、忘れないようにしないとな。


着地ざまに、一歩踏み込む。二日前の僕とは比べ物にならない、鋭い踏み込み。

そしてこれは、攻撃の入りでもある。


「『疾風セレラティオ』」


魔法はもう十分だ。

僕の呟きに、殺しがうまいとされていた男がこちらを振り返る。

その首には、僕のナイフが刺さっている。


「いつの……間に」


「恨むなら、馬鹿な判断した仲間を恨んでくれ」


ナイフを引き抜くと同時に、首筋からどす黒い赤色が噴出する。

痙攣しながらくずおれる男を残った二人へと蹴り飛ばした。


「続けるか?」


仲間の無残な死体を前に、二人は別々の表情を見せた。

一人は恐怖。もう一人は怒り。

後者はメイスを携えた巨漢だった。


「お、お前……!」


「や、やめろ馬鹿!」


仲間の制止の声も聞かずに、男が重武器を振り上げながら突貫してくる。

図体がデカい割には動きが早い。その速度で武器を振り回せるんなら増長しても仕方がないとは思う。


だが、上には上がいることを理解しておいた方がいい。


僕が、今のままではオールドマギの師匠相手に十秒もたないように。オールドマギ相手ならば瞬殺されるように。

自分より強い相手を知ることで、客観的に自分を見ることができる。

なまじ半端な強さを手にしているあまり、彼はそれが理解できないのだろう。

半端なのは僕も同じだが、その点に於いては違う。


「オラァ!」


重い振り下ろしを半身下げて回避。

続く横薙ぎを僅かに後退して躱す。


まるでナイフを振り回すようにメイスを扱っている。大した膂力だ。戦の神の加護でも受けているのだろうか。


だが、どんなに速く重い一撃だろうと当たらなければ意味はない。


僕は連続する攻撃を、紙一重で躱し続ける。


ソードスケルトニアで眼を慣らしておいて正解だった。一昨日までの僕だったら、この回避行動を再現するのに魔眼が必要だっただろう。


「はぁ……はぁ……」


「どうした、もう息切れか?」


速いことは確かだが、ソードスケルトニアよりだいぶ遅い。


正直な話、百回攻撃されても全て回避する自信すらある。


だが、こいつが強いのも確かだ。殺そうと思えば殺せるが、無力化を狙えるほどの隙がない。

重さと速さを両立しているだけのことはある。


僕は彼の背後に控える仲間を一瞥する。

眼前の巨漢よりもひとまわりは小さいメイスをぶら下げた彼が参戦する気配はない。

それどころか。


「おい、もうやめろ! 殺されてもおかしくないんだぜ!?」


正しい判断だ。僕も自分より強い奴が出てきて、見逃してくれるチャンスがあるならそれに縋る。


「……素直にそいつの言うことをきいた方が良い。百回やってもお前の攻撃は当たらないよ」


「ん、だと……!?」


口が滑ったな。彼のプライドを刺激してしまったか。

正直、こういう交渉事は苦手だ。脅す以外何もできない。

今だったら諭す必要があったんだろう。

アイリスなら、できるのかな……。あいつの交渉力は大したもんだし。


「隙を見せたな!」


ここぞとばかりに男が再度突貫してくる。

メイスは地を這うように引きずられている。狙いは振り上げか。

そして、男は気が付いていないだろうが姿勢が前のめりになっている。

先の攻防で蓄積した疲労の所為だ。


……ああ、なるほど。疲れに慣れていないと姿勢が崩れることもあるのか。これは勉強になった。


だが、隙を見せたのはわざとだ。


「ふっ、と!」


前方へ強く蹴り立つ。魔法が切れた今、同じ速度を出す感覚としてはこれが正しい。

よしよし、良い実戦練習になってる。


「あっ!?」


疲弊しきった彼は僕の動きに反応しきれない。

互いが交錯する瞬間。僕は男の後ろ頭を掴み、右膝を振り上げる。掴んだ頭を石に打ち付ける感覚。


「あがっ!」


――ヒット。膝蹴りが男の鼻っ柱をへし折った。


よろつきながら後退する男。空いている片手が痛みのあまり、顔にあてられる。

視界は半分もないだろう。完全な隙だ。

僕は身を捩り、回転と全身を使って男の脇腹へ蹴撃を入れる。


「っはぁ……」


男が気を失い、膝から崩れていく。頭が床にぶつかりそうになるも、残った仲間が辛うじて防いだ。

その光景を一瞥して、息を吐く。

僕も大分疲れた。だが、もう戦えないというほどでもない。

息を整えていると、背後からナルダが声をかけてきた。


「動きが見えなかったぜ旦那。それで、どうする?」


「どうするって、何を?」


「旦那の戦利品の取り分だよ。旦那を殺そうとしてきたこいつらにくれてやる義理はないだろ?」


ああ、それもそうか。

取り敢えずは、武装を解除させないとな。


「ナルダ。あいつらから装備を取り上げてくれ」


「どうせだし、目ぼしそうなものは取り上げておきますぜ旦那」


残った連中から武器を取り上げ、同時に値の張りそうなものもぶんどっていく。

傍から見ると完全な追い剥ぎだな。

……僕もああ見えていたのか。


「ああ。そいつからはいいよ」


ナルダが意識のある男から武器以外を取り上げようとしているのを見て、反射的に声を上げた。

ナルダが信じられないものを見るような目でこちらを見てくる。

まあ、気持ちは分からなくもないけどさ。


「どうしたんだよ旦那。らしくもねぇな」


「そいつは分かってる奴だ。最後には私の忠告を聞きいれた」


「……ああ、そういうことか旦那」


「私は暴力に酔いしれてるわけじゃない。話の分かる奴には相応の態度を取らないと……」


悪意には悪意で返すさ。

ただ、途中で悪意を失った奴。しかも利用価値があるのならば話は別だ。

帰り道で背後からの奇襲を避けるためにも、ここは恩を売っておいた方がいい。

ナルダはこのことを理解したのだろう。


それに……。


「ただの殺人鬼と勘違いされるだろう。グラナ(あいつ)のように」


僕とあいつを一緒にするな。


ズルしなくても戦えるようになってきましたね。

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