↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は僕に牙を剥く ~異世界奴隷の迷宮探索~  作者: 結城紅
序章 この残酷な異世界で
58/107

山分け 新しい短剣

「旦那は裏切っちゃあいけない相手だ」


嘘は、ついていなかった。

心拍は一定のリズムを刻んだままだ。

僕は即座に魔眼を解除する。右眼の疼痛が、機能の停止と共にひいていく。


……完全に嘘が分かるわけではない。その筋のプロならば、嘘をつくことに躊躇いはないだろう。心拍数も変わらないかもしれない。

だが、組合のルールに抵触するという危険を犯している以上、石橋は幾らでも叩いて渡るべきだ。


「……おい、旦那!」


「……どうした?」


少し、呆けていたようだ。男が私の身体を激しく揺すっている。


「旦那、眼! もっと安静にしておくべきだったんじゃねぇのか?」


右眼に触れると、生暖かい感触が手を包んだ。ぬくもりに満ちた、赤色。


「使いすぎた、か……」


元々使用制限時間は30秒。昨日の決闘では10秒の制約が設けられた。

そこにきて、今日は迷宮内で10秒以上行使して限界を迎えた。さらに、オールドマギが魔眼を解放して僕の身体を動かした。


未来予知もなく、何も観測していなかった。恐らく、身体の所有権を交代するだけの機能なのだろう。それを……少なくとも数時間は使っていた筈だ。

オールドマギが以前僕に語った魔眼の代償が命であるならば、僕はとうに死んでいる。


と、いうことは……。

未来予知と、彼との交代は代償が異なるのか……?

いずれにせよ、それはオールドマギに聞いてみないと分からない。


確かなのは、僕が魔眼を使いすぎたということ。最低でも20数秒は使った。

今後は戦闘以外に使うことを控えるべきかもしれないな。

当然、今日これ以上の行使も控えるべきだ。


「すまない。魔法を使いすぎたいたいだ。気にしないでくれ」


「気にするなって……。そんなこと聞いたことねぇぞ旦那」


袖で血を拭う。視界は正常だ。痛みも、緩やかに引いている。

失明は避けられたようだ。

迂闊だったな、少し時間を置いたから多少は無理を通せるかと思っていた。

オールドマギの言葉を借りるなら、魔法同様まだ身体に馴染んでいないのだろう。


「気にするな。互いに踏み込まれたくない領分はある筈だ。違うか?」


「いや、ちげぇねぇ」


話の分かる奴だ。


「それじゃあ、分配といこうか。7:3で良かったんだよな?」


「ああ。旦那が7で、俺が3だ。あとは、さっきの仕事の代金だな」


「幾らだ?」


「旦那、手持ちがあるのか?」


ああ、そうか。こいつは僕が治療費を組合と折半したことを知らないのか。

ここでのブツで取引を持ち掛けようとしていたのか。

いや、単純な疑問か。

床一面に並べられた盗品の中、形を崩している皮袋を一瞥する。

アレの中身はリル、つまりは金だ。代金はあれから支払えばいい。


「……どうやって組合から金を引き出した?」


そういうことか。

僕が治療費を支払えないであろうことを理解していて、それでも手持ちが残っている。

組合から、何かしら妥協案を引き出したと考えているのだろう。

だが、それは僕の意図したところではない。

素寒貧なのには変わりないしな。


「お友達代だよ」

薄く、笑う。自嘲と言っても良い。

僕ではなく、彼とはいえ、完全に化け物扱いだったからな。


「なるほど。参考にならないことが分かったよ、旦那」


彼も理解したようだった。


「それで、幾らだ?」


「金貨1枚だ」


日本円にして一万円か。

命の価値が低い世界とはいえ、死体の隠蔽にしては安上がりだな。

一般市民の日給を貰うわけだから、安くはないのかもしれないが……。

元居た世界の基準で考えれば、破格の安さだ。


「分かった」


懐から取り出した金貨を弾く。

これで、僕の手持ちは残り9万リルだ。

宙に舞う金貨を素早くつかみ取ると、男が切り出した。


「じゃあ、配分しようか。旦那から選んでいいぜ」


「全部換金するんじゃないのか?」


その方が、後々揉めずに済むだろう。綺麗に分けられるし。

……これは口にしない方が良かったかもしれない。完全な素人意見だ。


「一度に換金すると、流石に怪しまれる。少しずつ、時間をかけて換金する必要があるんだが……旦那」


「なんだ?」


「旦那、この街に長居する気ねぇだろ?」


……よく分かったな。

僕の表情を見て、納得した様子を見せる。


「やっぱりな。この街でやっていくんなら、商人を脅しはしねぇよ。あの手の欲深い奴は盗品も買い取ってくれる場合もあるからな」


これは、しくじったかもしれないな。

安全と金を天秤にかけて、僕は無意識に安全を取ったわけだ。

まあ、何も買い取り手はあのおっさんだけではないだろう。


「そういうわけで、俺は金より物の方がいいと思ったわけだが。旦那はどうだ?」


「私は構わない」


「よしきた。それじゃあ、旦那から選んでくれ」


僕から、か。

配分が7:3だから先に選ばせろ、と言ってくるかと思っていたが……。

遠慮しているのか。それとも、僕の選別眼を試しているのか?


「……この短剣を貰おう」


僕を奴隷として売り払った男が持っていた短剣の中でも、一番上等な奴だ。

他のナイフは状況証拠として置いてきたのだろう。

僕の金貨1枚で購入したナイフより、遥かに丈夫そうに見える。軽すぎず、重すぎず。刃先の長さは同じくらいだが、僅かに太い。


「旦那はそれを選ぶと思ってたよ」


男が薄く笑みを浮かべる。

僕としては、武器を取っておけば選別眼を疑われることもないだろう、という無難さで決めただけなんだけど……。

どうやら、正解だったようだ。


「グラナは俺の得意先……探索者殺しだったからな。人を殺す術も心得ていた。勿論、相応の獲物もな」


「グラナ?」


「俺の元雇用主。旦那が殺した連中の頭目さ」


「ああ、あいつか……」


そういえば、このナイフは一度使ったな。

以前立ち寄った武具屋の内装を思い出す。

これに似たナイフは、確か金貨10枚は下らなかったような。


「あいつには過ぎたものだ」


これなら、多少の剣撃を受け止めることもできるだろう。

刃こぼれとメンテナンスのことを考えると、受け流す方が合理的ではあるが。それでも、いざという時受け身を取れるのは大きい。

この刃先が黒いナイフ……黒短剣とでも言おうか。これは僕が使うとしよう。

三本もナイフを抱えることになったが……投擲することを考えると丁度いい。

服の内側に細工をしておけば、もっと所持数を増やせるだろう。


「そういえば、あんたは?」


この男の名を聞いていなかったな。

今後、死体を隠蔽することがあれば彼を利用することになるだろう。

コネクションは作っておくべきだ。


「ナルダ。ここではそう通ってる。旦那は?」


「組合には如月と登録した」


「互いに偽名ってわけだな、旦那」


含み笑いを零すナルダ。

まあ、僕のは本名なんだけどな。マレビトの名前だし、偽物っぽいとかそういうの見当つくわけないか。田中とか、中村、とかだと本当かと疑いたくもなるけど、そういう常識がない以上疑いようがない。


こうして僕は、裏世界の住人との繋がりを得た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。