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異世界は僕に牙を剥く ~異世界奴隷の迷宮探索~  作者: 結城紅
序章 この残酷な異世界で
53/107

英雄

「そのまま、質問に答えろ」


親指で、いつでも小石を弾ける態勢を保ちながらオールドマギが言う。


「死にたくはないだろう?」


男は、拳銃でも突きつけられたような表情をしていた。

いや、実際に拳銃を突きつけられるのと変わりはないだろう。

空を切り裂く音と共に放たれる一撃は銃撃と何ら遜色はないように思えた。


「まず、ひとつめだ」


息も絶え絶えに、オールドマギが言う。


「お前は、何者だ」


男が僕の手元を一瞥する。親指の照準はブレることなく男に向けられていた。


「俺は旦那に雇われた死体清掃人だよ」


肉塊と化した頭目に視線が向く。


「……迷宮内の、死体を片付けるハイエナか」


道理で、死の匂いがするわけだ。


「ああ、そうだ。建前上は探索者だが、死体の回収を専門にやってる。迷宮の攻略の障害物になるからな。組合に届ければ迷宮攻略に間接的に貢献したとして相応の報酬がもらえる」


自分が殺したと疑惑をかけられるのではないか、とも思ったが……。死体を組合にまで持ち帰るわけだから、魔物に遭遇するリスクを背負いながら自首のような真似をするわけがないか。


「ふたつめ、だ。何故、ここにいる?」


「あんたが殺した旦那の言いつけさ。マレビトを殺すかもしれないから、その際は死体を秘密裏に回収してほしいって。前金も貰った」


あいつ、元から僕を殺す算段も立てていたのか……。


「そう、か。では、私から提案だ」


霞んでいく視界の中で、死体清掃人から目を背けずに告げる。


「死人に仕えるのはやめろ」


親指に、力が入る。


「私が、お前を雇う」


「……あんたが?」


「ああ……」


オールドマギが肯定する。


「組合に報告、しろ。迷宮内で、殺し合いがあったと。私が、被害者であることを」


「……報酬は?」


「金貨10枚」


「結構持ってるんだな、あんた。なら、ここであんたを――」


鋭い音が響くと同時に、死体清掃人の構えていたナイフが撃ち落される。

指弾、指で小物を弾く絶技。こんな技が使えるオールドマギからすれば、短剣でスケルトニアを倒すくらいは基礎の内に入るのかもしれない。


「次は当てる……殺す、と。そう言った筈だ」


殺意と共に、男を睨む。

「手負いのあんた相手でも、俺じゃあ勝てねぇわけか」


男が自嘲するかのように笑う。

事実、オールドマギが手加減しなければ彼の眉間を撃ち抜くだけでことは終わる。


「選択しろ」


再び、構える。


「ここで死ぬか。それとも……」


照準を男から逸らさずに、告げる。


「生きるかだ」


その言葉に、死体清掃人が顔を引き攣らしながら笑う。


「……選択する余地なんてねぇだろそれ」


視線が親指に行く。


「断ったら、撃つんだろ?」


「……お前次第、だ」


暫しの睨み合い。先に折れたのは、やはり男の方だった。


「分かった。あんたに雇われてやるよ」


「……荷物は置いていけ。お前が帰ってくる保障はない」


「念入りなことで」


男が背嚢を放り、迷宮の闇の中へと消えていく。

それを見届けると同時に、オールドマギが懐の鞄から薬類を取り出した。

あいつがこのまま戻らなかったらどうするのだろう。


「致命傷は、ない。応急処置の後、時間が経てば動けるようにはなる筈だ」


独特の呼吸で言葉を返してくる。


「ただ、幾つか骨が折れている。身体を動かすのは得策ではない」


塗り薬を、蹴られた箇所に塗っていく。

薬草をすり潰した薬、だった筈だ。即物的な治療は期待できないが、ないよりかは遥かにマシだ。


「それよりも……。契約者に、謝罪しなければならない」


視界に四人分の死体が映る。惨たらしい光景と共に、名状し難い感触が蘇る。

即ち、人を殺した際の感覚。

殺人鬼としての、自覚。


「契約者を守るためとはいえ、すまなかった……」


謝らなくてもいい。

何度も言うように、僕が弱かったのが悪いんだ。

力量の伴わない理想を掲げるほど、僕が愚かだったのだ。


「君は、弱くなんてない」


オールドマギが零した。


「君の倫理観こそ、正しい」


そんなことはない。この世界に於いてそれは弱みでしかない。

英雄として呼ばれた以上……真の英雄ならば人殺しなんてしない筈だ。

僕は英雄になれなかった、ただそれだけで。

弱みを補えるだけの力がなかった。


「英雄なんて、そんな高潔なものじゃない」


オールドマギが、僕の言葉を否定する。

その言葉は、どこか哀愁に満ちていた。


「一人殺せばただの悪党だが……」


たどたどしい手つきで、薬類を仕舞う。


「多くを殺せば、英雄だ」


伏し目がちに語る。


「結局のところ、英雄なぞただの人殺しなんだよ」


彼の言葉はまるで……。

かつて、英雄だったかのような口振りで……。


「人殺しなんてしない方が良い」


だが、この手は既に人を殺めてしまった。

残された道はただひとつ。


「それでも英雄になると言うのなら」


元英雄が、告げる。


「私は喜んで君を支えよう」


……英雄になることだ。


力をつけ、救済の果てに待つ魔導王に会うためにも。

英雄として、救済を行う。


僕は、例え僕が思う本物の英雄になれなくても。紛い物だったとしても。


この異世界で、英雄になる。


四人を殺した以上、もう後戻りはできない。

より多くの屍を築く。

それが唯一の道だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こうやって徐々に成長していってる感が好きだな。
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