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異世界は僕に牙を剥く ~異世界奴隷の迷宮探索~  作者: 結城紅
序章 この残酷な異世界で
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ナイフバトル

痛みに、目を覚ます。

見れば、指に微かな切り傷が浮かんでいた。


『契約者よ、目は醒めたか』


「あ、ああ……。ありがとう、助かった」


頭が少し、ぐらつく。


『親和性が高いのも考え物だな』


心地良い夢を見ているようで、危うく帰って来られなくなるところだった。

オールドマギが機転を利かせて、紙片の角で僕に痛みという信号を送ってくれなければどうなっていたことか。


だが、その甲斐あってか僕は短剣術を理解していた。

身体も、まるで昨日練習したかのように記憶に馴染んでいるのが分かる。


腰元の鞘から短剣を抜き、軽く振る。次いで、身体の調子を確かめた。

記憶とあまり差異は感じられない。

これならいけるという、確信がある。


「オールドマギ、次は短剣で仕留める」


『避けては通れない道だ。早い方が良いだろう』


「そうだ。あと……」


脳裏に焼き付いている美声を思い出す。


「お前、意外とねちっこい奴なんだな」


『……』


魔導書は何も答えない。

図星か。


『契約者よ、目先のことに集中するべきだ』


オールドマギが苦し紛れの言葉を吐く。

彼の言葉が呼び水だったかのように、前方からスケルトニアがゆっくりと姿を現した。

薄明りの中、ぬばたまのような闇を湛えた瞳が僕を捕らえている。

その片手には、無骨な剣が握られている。

迷宮の奥に出現する、スケルトニアの亜種か。


「オールドマギ、また後で。『エンド』」


スケルトニアの視線を受け止めつつ、魔導書を手元から消す。

好都合なことに、敵は一体。習得した技術を確かめるには絶好の機会。


短剣の根元を強く握り、左手を空けたまま少しずつにじり寄る。

スケルトニアもまた、僕を恐れることなく一歩ずつ近寄ってくる。


縮まる距離。接敵までの距離感、剣の間合いの予測。

視線と死線の交差。時間の流れが次第に緩く、遅くなっていき――。


魔物の踏み込みと同時に、急速に現実へと引き戻される。


振り上げられる剣、少し反れた上半身。一気に距離を詰めてくる。

長物を持ち、有利なのは向こうだ。加えて、こちらが手数を要するのに対し、相手は一撃与えるだけで勝ち。


先手を打たれてはならない。


魔物が腕を振り上げた刹那、僕は迷宮の地面を勢いよく蹴り立つ。

短剣と僕の筋力では剣を受け止めることはできない。重量によって加速された振り下ろしを回避できる確証もない。


――故に、振らせない。


短剣を逆手に持ち替え、一息にスケルトニアの懐まで肉薄する。

通常の人間であれば、剣を使えない距離だ。だが、敵は骨型の魔物。自傷覚悟で剣を突き刺してくる可能性がある。さらに、空いている片手による攻撃の脅威も残っている。


「――フッ!」


接敵と同時に、剣を握る肘裏の関節に肘鉄を決める。スケルトニアの重心が崩れる。

その隙を見逃さず、肘鉄を決めた腕で魔物の腕を掴み――。


「両腕を貰う!」


ナイフを鎖骨に突っ込む。柄に引っ掛け、全力で引き抜く。


「――!」


耳障りな叫びが響く。耳朶を揺らす大音声に構わず、僕は魔物の鎖骨を破壊した。

スケルトニアが剣を取りこぼす。双椀が力なく垂れた。

魔物と言えど、骨格は人と同じだ。ならば、対人戦術も有効。

鎖骨は、両椀に繋がる重要な骨格だ。そこが機能不全を起こせば、例え両腕が無傷であろうと動かすことはかなわない。


「今、楽にしてやる」


尚も痛みに叫び続ける魔物の背後を取り、側頭部を両腕で掴み――。


――首の骨を折った。


魔物は断末魔を上げることもなく、崩れ落ちた。


「……肉があれば、もう少し楽なんだけどな」


灰と化していく骨を尻目に呟く。

魔物に血が通っていれば、刺突や斬撃が有効なのだが、スケルトニアは全身骨だ。

短剣を活かすには、柄による打撃しかなかった。


「『コール』」


勝利の余韻に浸ることもなく、魔導書を呼び出した。


「危なげなく倒せたよ」


『お見事』


称賛の言葉が浮かぶ。

喜ぶべきところなのだろうが、刷り込まれた記憶がそれを許さない。


――勝って当たり前、という初陣らしからぬ感慨しかないのだ。


「お前のおかげだよ」


言葉の通りだ。追想による経験が、戦闘に於ける一瞬の判断と行動を現実にするだけの技量を僕に齎したのだから。

だが、魔導書は尚も称賛の声を続けた。


『理解するのと、実行に移すのとではわけが違う。

 記憶と身体が異なる以上、調整も必要だろう。

 それを意識して、成功させたのだから立派なものだ』


まるで先生のような口調だ。

僕は少し相好を崩す。


「ありがとうございます、先生(・・)


語句を強調して、茶化す。

少し、気恥ずかしかったのもあったが……。

どうせ冗談は解さない。独り善がりの言葉だ。

そう思っていたのだが……。


『懐かしい響きだ。

 悪くない。

 これからも励むように』


僕は思わず毒気を抜かれる。

こいつ、ユーモアとかあったのか……?

なんというか、親和性とやらが向上する度に人間味を増しているような……。

と、いうか。前にも誰かがこいつに師事していたのか!?


「契約者とか、そういうの関係なく弟子とかいたんだ?」


『ああ。教練の甲斐もあって、立派に責務を果たした。

 彼の名前は、今の世の中に残っているだろうか』


ぼかすことなく、どこか憂いを帯びた言葉が返ってきた。

てっきり、また『現段階では開示できない情報だ』と言われるものかと思っていた。

案外、知っても問題のないものなのかもしれない。


『君が成長したら、是非とも探してみてもらいたいものだ』


いつになくフランクに喋ってきて不気味だ。

例えるなら、少し距離を置いていた相手が共通の趣味を見つけた途端物凄く近寄ってくるような。そんな感じ。

下手するとはしゃいでいるようにすら見えるぞ。


……ひょっとすると、今ならいけるんじゃないか?


「せんせー、質問です」


『なんだね?』


「せんせーのお名前はなんですか?」


『それは現段階では開示できない情報だ』


駄目だった。

私事ですが、原作を担当した同人誌が雑誌にて掲載される運びとなりました。

詳しくはこちらをご覧下さい。

https://twitter.com/tomsoya0828/status/1446037850063925249?s=21

宜しくお願い致します。

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