探索者組合
長くなってしまったので分割します。
また、今日が最後の毎日投稿になります。
毎日投稿さん、対戦ありがとうございました。
まあ、どうせ明日も出すと思うのであまり関係ないですけど……。
大通りから少し進んだ先。
競い合うように立ち並ぶ建物の中にひときわ大きいものがある。
二階建ての木造建築。何て書いてあるのかは分からないが、大きな看板を掲げている。
他と比較しても立派なつくりをしており、差は歴然だ。
少し躊躇するが、意を決して扉を開ける。
開ける視界。左右にはカウンターが設置されており、受付嬢らしき人物らが男たちとやり取りをしている。
中央にはテーブルと丸椅子が幾つか置かれており、木簡のようなものを持った人たちが談笑している。片手には木製のジョッキを掲げており、既に出来上がっているようだった。
「23番の方―。買取の準備が出来ましたので4番窓口までお越しくださーい」
「お、わりい。呼ばれたから行くわ」
丸椅子に座っていた男が立ち上がり、右手のカウンターに向かう。
察するに、木簡は整理券のようなものなのだろう。
連綿と連なるテーブルの奥にはバーテンダーのような人物がカウンターを構えていた。その背後には厨房が僅かに覗ける。組合であると同時に酒類も提供する店というわけか。
僕は、つい反射的に例の探索者を探してしまう。こちらにやって来た初日に僕を奴隷商に売り飛ばした男だ。
できれば鉢合わせたくない相手だ。僕のことを奴隷と知っており、首元を隠した意味がなくなる。幸いなことに、彼の姿は見受けられなかった。
僕は手すきのカウンターへと向かう。
「すみません。探索者の登録をお願いしたいんですけど、今って何人待ちですか?」
「登録ですね。現在お待ち頂いているのは買取の方のみですので、直ぐにご登録頂けますよ。登録料に銀貨1枚頂きますが、よろしいでしょうか?」
受付嬢からは丁寧な答えが返ってくる。荒くれものを相手にする組織の一員とは思えないほど、口調や所作がきっちりとしている。探索者たちとのやり取りを見ていても暴力沙汰に発展しているケースはなかったし、秩序だっているようだった。意外も意外だ。
「……どうかされましたか?」
「あ、いえちょっと驚いてしまって」
受付嬢が怪訝そうな面持ちで僕を覗き込んでくる。僕は慌てて銀貨を出し、弁明した。
「あ、お客さんマレビトですね?」
「え、ええ……」
東洋人ということもあってか、すぐに露見する。僕は即座に肯定するも、内心冷や汗ものだ。奴隷である証左の首輪こそ隠しているものの、それがバレたのではないかと思ってしまう。
「マレビトのみなさんは、探索者組合が想像より雰囲気が穏やかなのに驚かれますね」
「そうですね……。もっと荒れてるかと思ってました。酒場を除けば僕がいた世界の役所とあまり大差ないというか……」
てっきり、もっと世紀末っぽい空気を覚悟していたので拍子抜けした。探索者は経歴を問わず誰でもなれるとのことだったので、荒くれものが多く揉め事が絶えないとばかり……。
「私達組合員は本部から研修を受けているのに加えて、バックヤードには腕利きの人たちが控えてます。それに、ここでの登録を破棄されたら他に稼ぐアテがない人も大勢います」
きちんと教育を受けているということか。それに、万が一暴力沙汰に発展しても締め出されるうえ、探索者の資格を剥奪されるかもしれないとなると……。一銭にもならないうえ、デメリットしかない。ここ以外に行き場のない人からすれば、絶対に問題は起こさないと誓うだろう。
「登録時にはこちらの誓約書を交わしているのもありますね」
受付嬢が2枚の用紙を取り出す。
「これは……?」
「死亡誓約書と、探索者組合誓約書ですね」
文字が読めないので、読み上げてもらう。
内容としては、迷宮内で死んでも探索者組合は責任を一切持たない。組合内にて問題を起こした場合、当人の登録を抹消及び慰謝料の請求を行うこと。また、年末に組合費を払う旨が記載されているようだった。
事前にこういった風に説明して貰えていれば、猶更馬鹿なことをしでかす輩はいなくなるだろうな……。
「お名前代筆致しましょうか?」
「あ、宜しくお願いします」
「何て書きましょう?」
名前を聞かれるのはではなく、何て書きましょうときたか。
「え、もしかして何でも良いんですか?」
「はい。戸籍がない方もいらっしゃいますし。あ、でもお下劣な名前はやめて下さいね。関所やお名前を呼ばれた際に恥をかくのは探索者さんの方ですからね」
確か、探索者や商人組合に登録している人は関所での通行税を免除された筈だ。そこで通行手形を出す際、手形に変な名前が書かれていると笑われるのはこちらということなのだろう。
というか、品性のない名前で登録しようとする奴がいるのか……。どこの世界でも同じこと考える奴はいるんだな……。
「如月宗一でお願いします」
「どちらが姓ですか?」
「あ、如月が姓になります」
受付嬢がこちらを見たまま手元の用紙に何かを書き込む。聖語だろうか。
海外では姓名が逆になるんだっけか。こっちでも似たようなものなのだろうか。
「得意な獲物や特技等ありますか? 他の方とチームを組む際スムーズにいきますよ」
「チームですか?」
「はい。あちらに募集板がありますでしょう? 荷物持ち雇用、斧使い求ム、とかそういうのが貼ってありますね。銅貨3枚ほど頂ければ如月さんも掲示できますよ」
「なるほど」
個人ではなく、グループを組むことで効率性を上げるのか。配分とかで揉めそうだし、一人の方が利益を総取りできるから僕は遠慮しておこう。
組んでくれる人いるかも分からないし。
「じゃあ、魔法でお願いします」
オールドマギを呼び、受付嬢のお姉さんに見せる。
「あ、魔術師の方ですか。珍しいですね」
驚きに受付嬢の端正な柳眉が吊り上がる。やっぱり、魔術師ってレアな存在なんだな。
「それでしたら、魔術師で登録致しますね。チームの募集をかければ引く手あまただと思いますよ」
「あ、ではそれで。チームは遠慮しておきます。他のお兄さんたち怖そうだし……」
探索者組合の目が届かないところで何されるか分からないし、初心者なのを良いことに利用される未来しか見えないんだよな……。
とはいえ、良いことを聞けた。探索者として慣れてきた頃には検討しても良いかもしれない。
お姉さんが、そうですよねーと笑いながら筆を走らせる。
「かしこまりました。少々お待ちくださいね。こちら整理券になります。26番です」
「あ、はい」
マジでお役所仕事じゃないか。
整理券をもらって受付から外れる。背後では先程の受付嬢がバックヤードに何か叫んでいるのが聞こえた。
「すみませーん! 新人登録者の彫刻お願いしまーす!」
誰もいない、端のテーブルに腰かける。ここで暴力沙汰は起きないと分かっていても、強面の人たちと同席するのは避けたい。
視線だけ動かし、他のテーブルを一瞥する。みんな何かしら注文してるな。食べ物の提供は行っていないのか、お酒ばかり見受けられる。僕と同年代に見える、可愛らしい子がテーブルの間を忙しなく駆けていた。フロア担当の店員かな。僕も命がけの探索者じゃなくてああいう風に働きたかった……。
普通に死亡誓約書とか出てきたもんなぁ。元居た世界だとバンジージャンプするときくらいしか見ないでしょ。死という単語を聞きなれた所為で微塵も動揺しなかったけど、異常だよなぁ。
というか、どうしよう。僕も何か頼んだ方がいいのかな。オールドマギに喋りかけたいけど絶対にヤバい奴に見える。どうしようか。
落ち着きなくあたりを見回していると、先程の受付嬢のお姉さんがこちらに手を振っているのが見えた。
「26番の方―! 如月さーん!」
「あ、はい!」
変な名前にしてたらこういう時に恥をかくのね。
僕は早足で窓口へと向かう。
組合員は高給取りです。
有休もあるので競争率はかなり高いです。
バックヤードには事務方や職人たちが控えています。
マレビトが組織してるのでもろに影響が出ていますね。




