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異世界は僕に牙を剥く ~異世界奴隷の迷宮探索~  作者: 結城紅
序章 この残酷な異世界で
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物資調達

……何かが激しく捲れる音がする。

僕は手探りで音源を見つけ、それを叩く。それは叩かれても尚、抗議するように音を立て続けていた。


「……あ、そっか」


寝ぼけ眼を擦り、昨夜のやり取りを思い出す。

そう言えば、オールドマギに朝起こしてくれって言ったんだっけ。


冗談のつもりだったんだけどな……。


でも、疲れが溜まっていたからか、深く眠っていたので助かった。寝過ごして昼になってしまったら目も当てられない。この世界の店は営業時間が短い。故に、早朝から昼にかけての時間は貴重なのだ。

ましてや、今の僕は追われることが予想される身。支度の時間は殊更貴重といえる。


『契約者よ、朝だ』


オールドマギに文字が浮かんでいる。


「ありがとう。助かったよ」


今後は魔導書以外にもアラームとして活用することを決意する。


「また今夜も頼むね」


『……』


沈黙の意だろうか。

バラバラと、ものすごい勢いでページが捲れ始める。

これは嫌がっているのだろうか。


「僕、まだ君が勝手に眼を渡してきたこと忘れてないからね」


試しに嫌味を言ってみると、オールドマギが静かになる。

……こいつにも罪悪感とかあるんだな。


「『エンド』」


魔導書を消し、一息ついて立ち上がる。


「よし、行くか」


ポケットの中にある皮袋を握りしめ、僕は部屋を後にした。


――――


幸いにも他の宿泊客と鉢合わせることもなく、僕は宿屋を出ることができた。

向かうのは大通りの市場だ。


今日の予定としては、装備を含めた服と鞄、当面の食料の調達。余裕があれば探索者組合に顔を出したい。


まずは荷物を収納できる鞄から、次いで目立たない服装だ。現代人の格好だと目立ちすぎる。奴隷の象徴である首輪も隠す必要があるだろう。迅速に着替えなければならない。


裏通りを過ぎ、大通りに入る。流石に陽の出ている時間帯に野盗はいない。

大通りは昨夜の静けさから一転、喧騒に満ちていた。露天商たちの呼び込みや屋台のような簡易的な店を構えた店主たちが客と交渉する声が輪唱のように響き渡っている。ここまでの喧騒は現代ではイベントにでも行かないと見れそうにない。ここでは当たり前の光景なのだろうが、活気に溢れた景色に圧倒される。

とはいえ、及び腰になるわけにもいかない。僕は人並みを縫うように歩き店を見て回る。


「皮の鞄か……」


遠巻きに雑貨屋を眺める。全体的に古いものが多い。他の人が使ったお古だろう。

値札があるわけでもないので、声をかけないと値段は分からない。


「すみません。これ幾らですか?」


「……奴隷か。冷やかしなら帰りな」


まあ、金を持っていないように見えるのは仕方がない。


「主人から使いを頼まれているんです。金ならあります」


言って、懐から銀貨を取り出す。金貨を見せると昨夜のように怪しまれると思い、咄嗟の判断だった。


「金があるなら話は別だ。相手が誰であろうと売ってやるよ」


僕の判断が功を奏したのか、売ってもらえることになった。

とはいえ、今のようなやり取りを何度も繰り返すわけにはいかない。金を持っていても売ってくれるとは限らないし、捕まる可能性もある。

服と、それを入れるための鞄は早急に用意する必要しないと。例え多少高くついたとしても、だ。


「銀貨1枚だ。足りるよな?」


う、足元見られてるなぁ……。下手に金貨出さなくて良かった。

先程見せた銀貨をそのまま渡し、斜め掛けの皮鞄を手に入れる。


見立て通り、丁度腰元に鞄がぶら下がる感じ。容量もあり、丈夫そうだ。

背嚢ならばもっと容量もあるのだろうが、視線のいかないところに物をしまうのが不安で購入には至らなかった。斜め掛けの鞄ならば、常に手を置いておけるので盗みに遭わないのではないかという考えだ。


「次は服、と……」


服飾関係の店を回ってみる。客とのやり取りを聞き値段を耳にするも、どこも高い。簡易的に上下一式揃えようとすると金貨が数枚なくなることは必至の価格。派手なものほど高い傾向にあるようだった。


服もお古でいいかな……。


僕は再び喧騒に足を向けた。


――――


そろそろお昼時だろうか。僕は早朝から続いていた買い物を終え、一息ついていた。


結局、服は古着を買った。皮のブーツと布ズボンを始めとした地味な格好で、首元には首輪を隠すためスカーフを巻いている。

これらで占めて金貨1枚ちょっと。やっぱり服は高い。けど、新しいものを買うよりは遥かに安い。


着替えてからは買い物もスムーズにいった。奴隷とみなされないだけで、こんなにも楽なのかと思ったほどだ。急ぐ必要もなかったので、値段を重視し、ときには交渉して費用を安く抑えることができた。


服以外に高かったのは装備類だ。武器は片手剣だと金貨10枚も必要で、需要の高さを思い知った。まあ、そもそも持てなかったので買っても意味はなかったんだけど。


防具も鎧は片手剣を超える価格で、とてもじゃないが手の届くものではない。僕はそこそこバイトで鍛えられている方だと自負していだが、この世界の基準ではひ弱な部類に入るようだった。どれもこれも重くて話にならない。

結局、ナイフと革の胸当てだけ買って店を後にした。それぞれ金貨1枚。

他は飲み水とそれを入れる皮袋、干し肉と黒パン等の携帯食料を購入した。

これらで総額約金貨4枚。僕の全財産は早くも残り半分に差し掛かっていた。


「まあ、でも思ったよりは早く終わったな……」


途中値下げを要求しすぎてドン引きされることもあったが、準備は恙無く終わった。

僕は昼食に買ったラム肉と生野菜を齧り、余った時間について思慮する。

余談だが、昼食は大通りから少し外れた広場の屋台で購入した。ここ最近はパンばかりだったので肉を。ビタミンは欠かせないので野菜、といった具合。銅貨で支払える範囲だったので嬉しい。

久しぶりに腹が満たされ、少しの間幸福の余韻に浸る。


「早いとこ稼がないとな……」


立ち上がり、汚れを払う。

稼ぐ、となると向かう場所はひとつしかない。

もとより行くと決めていた場所だ。


「探索者組合、行ってみるか」


場所は既に聞いてある。

あまり遅くなると、昨夜のように盗賊に出くわすかもしれない。

そう考えると、買い物が早めに終わったのは僥倖だった。

僕は腰元の鞄とナイフを揺らしながら、広場を後にした。


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