似た者同士
「当初、マルクスタ家はここら一帯の土地を開拓した辺境伯だったの。迷宮を発見して、未然に魔物が溢れだす災害を防いだ功績が讃えられて侯爵の位をもらったほどだったのよ」
滑り出しは順調。
だが、と苦虫を嚙み潰したような表情で二の句を継ぐ。
「栄華を誇っていたものの、それは永遠に続くものじゃなかったの」
盛者必衰の定めというものだろうか。彼女は滔々と、過去の栄光とそこから始まる転落について語った。
聞いていて胸が辛くなる話だ。
「――とまあ、そういうわけなのよ」
彼女は長い語りを終えると、コップを取り出し桶から水をすくって飲んだ。
用意の良いことだ。自らが口をつけた個所を丁寧にふき取ると、嘆息をついた。
お嬢様の話を要約するとこうだ。
ここはマルクスタ領の中で、アールメウムと呼ばれる街であり、元は金鉱山を擁していたらしい。かつては、迷宮ではなく金鉱山によって栄え、炭鉱夫の街とさえ呼ばれていたとか。経済的にも潤っていたし、当時は侯爵を名乗り、貴族としての威厳も保てていた。
けれど、その金鉱山の金が数代前に尽きてしまった。栄華を誇った鉱山も今では廃鉱。住民の数はそれを皮切りに減少、税収や外貨の獲得量は減り、自前の兵士も多くを解雇せざるを得なくなってしまった。経済的な困窮だ。
そして、間の悪いことに国家間の戦争が勃発。マルクスタも徴兵を求められたが、領を守るのに手一杯でまともな兵を送り出せなかった。それを不敬、不忠と受け取られ、伯爵へと降格。
元の侯爵へと返り咲くため、そして経済的な困窮に対処する為、形振り構っていられず迷宮を売りに探索者を誘致することにする。
しかし、これは諸刃の剣だった。ならず者と言っても差し支えのない探索者を誘致したことにより治安は悪化。住民からの信頼を失うことになった。極めつけには、探索者を目当てに奴隷商人までをも引き入れることになってしまった。彼らは戦奴を確保、売買しにやって来ている。非合法なやり方で奴隷を確保したりもする。
領主としては黙過できないが、その代わり彼らは莫大な利益と賄賂を領内に齎した。経済的問題は解決したが、治安の悪さ、そして貴族としての体面は最悪の状態。これ以上奴隷売買を黙認し続けるようなら、再度の爵位降格もありえるかもしれない、との話だった。そして、伯爵より下の貴族は土地を持てない。運営能力の欠如と見なされ土地を没収される。
要は、貴族としての威厳と引き換えに経済難を逃れた。しかし、その手法が問題で肩書と土地を失いかけていると。
それどころか、下手すると職まで失いかねないような話だ。
「これをどうにかするアイディア……知恵が欲しいと?」
「無理難題を言っているのは分かっているわ。解決の糸口になるような、切っ掛けでも良いの」
ここから巻き返す、というのは難しい話だ。
治安と金が天秤に載せられた状態。両方を取る、というのは限りなく不可能に近いのではないだろうか。
第一、僕は経済や政治の専門家でも何でもない。何の変哲もない学生に過ぎないのだ。
妙案など直ぐに思い浮かぶわけなど無く。
「ごめん、直ぐには思い浮かばない。情報が足りないっていうのもあるけど、僕は特別経済や政策に理解があるわけではないから……」
「今すぐに、とは言わないわ。思いついたらでいい。私も次来るときは領地に関する資料を持ってくるわ」
「わかった」
気まずい沈黙。
「えーと、他に用件でも……」
「何で……」
遮るような呟き。
「え?」
「何で、手を貸してくれたの?」
君が言うのか。
だが、当の本人はいたって真面目だ。
疑念に満ちた切れ長の双眸が僕の瞳を覗き込んでいる。
「だって、僕は君の奴隷だし。奴隷は主人の言うことを聞いて当然でしょ」
「嘘。そう思うのなら前みたいな慇懃な喋り方するでしょ」
正直に話すのも気恥ずかしいので、軽く誤魔化そうとするも通用しない。
「言葉遣い、正した方が良い?」
「……別に、このままでいい」
逡巡の後に、照れ隠しするように不貞腐れた態度をとるオリヴィエ。
彼女が本心を語った以上、僕も語るのが筋というものかもしれない。
「……似てると思ったんだ」
「?」
「僕も片親でね。辛い思いをした。赤貧だったし、世間からの目も冷たかった」
「……」
疑念が滲んでいた表情が、ゆっくりと辛そうなものへと変わっていく。
「母を恨んだことはないよ。寧ろ、幼く無力な自分を呪った。助けになりたかった」
「だから、一緒……?」
「不愉快だったら申し訳ない。僕は、そう思ったってだけ」
同情の念はない。
共感をしているのか、或いは理解を示してくれているのか。眉尻が重く垂れている。
「……ごめんなさい。私、貴方に酷いことして……」
似ているからこそ、辛さも分かるのだろう。自身が父親と引き離されたことを想像したのか、今にも泣きそうだ。
そんな顔をされると、僕まで泣きたくなる。
まだ、完全に望みを捨てきれているわけではないのだ。
「君の所為ではないでしょ。現実に立ち返る、というのはどうしても必要な過程だったと思う」
言い聞かせるように、僕は呟いた。




