フミカのコンプレックス
久しぶりに晴れた日曜日だった。昨日までの梅雨空が嘘のように青空が広がっている。それでもまだ道は乾いておらず、あちらこちらに水溜りができていた。
今日は、学校で隣村とのサッカーの試合がある。
フミカもタケル達を応援しようと、朝からレモネードを作る。フミカの作るレモネードはみんなに好評で、サッカーをするときによく作っていた。
出かける前に鏡の前で髪の毛を整える。そしてお気に入りの帽子を何度も角度を確認しながらかぶる。
「行って来まーす。」
フミカは学校へと急いだ。
学校へ向かう途中、ミドリを誘うために林田家に寄った。
「おはよう、フミカちゃん。ミドリに何か用かい?」
呼び鈴を押すと、ユウジが出てきた。
「おはようございます。タケルくん達が学校でサッカーするので、一緒に応援しようって約束してたんです。ミドリちゃんいますか?」
「そうなんだ。今呼ぶから、ちょっと待っててね。」
ユウジはフミカに笑いかけると、家の奥に行った。
「ミドリ、フミカちゃんが迎えにきたよ。」
「はーい。」
家の奥からミドリが出てきた。
「お待たせ。さあ行こうか。」
「あまり遅くならないように、気をつけて行ってらっしゃい。」
ミドリの母、キミコも出てきた。キミコは社交的なユウジと違って、物静かな目立たない人だった。ミドリの大胆な性格は、多分ユウジに似ているのだろうとフミカは思っていた。
「フミカは、何持って来たの?」
「レモネードを作ってきたの。」
ミドリの問いにフミカは答える。
「やったー!フミカのレモネード美味しいもんねぇ。でも重いでしょう?半分持とうか?」
「ふふっ。ありがとう。じゃあこっちお願い。」
フミカは、2つある水筒の軽い方をミドリに渡した。
「ミドリちゃんは何を持ってきたの?」
「私?私は、フルーツキャンディーにした。」
「あーっ!あれ美味しいよねぇ。私も大好き!」
フルーツキャンディーは出張所のスーパーで売っているお菓子で、中にフルーツ味のソフトキャンディーが何種類か入っている。村の子供達に大人気のお菓子で、どのフレーバーがお気に入りかとよく話題に登ることがある。
2人はたわいの無い話をしながら学校へ向かった。
学校に着くと、もうサッカーの試合が始まっていた。隣村の子供達との練習試合で、月に1回ぐらいお互いを行き来していた。
今日は珍しく、トオルも参加している。
「もう始まってるね。」
ミドリが言う。
「みんな暑そう。汗だくだよ。」
フミカが答える。
担任の松下先生が審判をしている。サエコも見学しているのが見えた。怪我や熱中症を心配しているのだろう。
「おはよう。」
サエコがフミカたちに気がつき、声をかけてきた。
「おはようございます。サーちゃん先生は救護班ですか?」
ミドリがサエコに聞いた。
「熱中症の心配があるから。湿度がそんなにだから大丈夫だと思うけど・・・念の為にね。」
サエコがそう言って微笑んだ。
試合は、引き分けでハーフタイムに入った。
「レモネードうめぇぇ!!!」
タケルが叫ぶ。
「ホント?嬉しい!」
フミカは早起きした甲斐があって、嬉しかった。
「フミカ、良かったね。タケルが美味しいってよ」
ミドリが、フミカを揶揄う。フミカは顔を真っ赤にして照れる。鈍感なタケルはなぜフミカが照れているのか、よく分かってないようだ。
「サーちゃん先生も、どうぞ」
フミカは、サエコへレモネードを勧めた。
「ありがとう・・・本当に美味しい!フミカ上手ねぇ。隠し味に塩を入れてる?」
「はい、ほんの少しだけど、味が閉まるし熱中症対策にいいって聞いたし。」
「フミカ、ちゃんと調べてるのね。確かにこれは熱中症対策に最適だわ。しかもすごく美味しい。フミカは研究熱心なのね。素晴らしいわ。」
大人に褒められると、努力が報われたような気がする。サエコに絶賛されて、フミカは本当に嬉しかった。
フミカは、密かに2つのコンプレックスを持っていた。
フレア以降に拍車がかかった少子化により、小学校と中学校が併合され基礎学校となりその期間を義務区養育としていた。
基礎学習はタブレットを使い個々に進めていき、担任がその進捗状況を見てアドバイスをする方式をとった。学習の進み具合に個人差が出るが、15歳の卒業までに50%以上を修了させることを目標とした。
卒業後は進学となるがそこでも基礎学習の続きをする。基礎学習の全体の70%を修了すると、それぞれ専門課程を選択できるようになる。
フミカの基礎学習も進み具合は30%を超えたあたりである。フミカは大変な努力家で、全国平均よりはかなりいい方ではあるが、いくら努力しても他の3人に遠く及ばない。
トオルは11歳にしてすでに基礎学習の60%以上修了している。ミドリとタケルも50%を超えていて、3人とも基礎学校を卒業まで基礎学習を完全に修了させることが出来るだろう。
それは全体の1%にも満たないことではあるのだが、フミカが比較できるのはその1%未満の上位の生徒だけなのが不幸であった。
いくら努力しても、絶対3人に追い付くことはできない。両親や担任の松下は成績を誉めてくれるが、自分は落ちこぼれているのではないかと、フミカは悩んでいた。
レモネードで喉が潤った後、みんなでフルーツキャンディーを食べた。
「私、やっぱりオレンジが一番好き!!」
ミドリが、口をモゴモゴさせながら嬉しそうに宣言する。
この飴を舐める時、なぜか子供たちは自分の好きな味を宣言する。その日の気分でも変わるから、毎回同じ味がお気に入りというわけでもないし、二つ目を食べた後いきなりお気に入りが変更される事もあるのだが、とにかくみんな好きな味を宣言する。
「私は桃が好きかな。」
「桃もいいよねぇ」
「やっぱり、レモンが一番だろう?」
2人の中に、タケルが入る。
「タケルはレモンが好きだよね。フミカの作ったレモネードもすごく美味しそうに飲んでたし。」
「フミカのレモネードは最高だよな。あんなの作れるってフミカは天才だよ。」
「そう言ってもらえると、嬉しい。」
ミドリがニヤニヤこっちを見てくるので、フミカは顔を真っ赤にして照れた。
「トオル。ぶどう味好きでしょ?集めてあげる。」
ミドリがトオルに言う。
「えっ!そんなこと言ったことあったっけ?」
トオルがミドリに聞く。
フミカもそんなこと知らなかった。ミドリはいつ知ったんだろう?
「そんなのトオルの顔を見てりゃあ、すぐわかるだろう?」
タケルがミドリの代わりに答えた。
「あんなにいつも嬉しそうにぶどう味食べてたら、誰だってわかるよねぇ。ねぇフミカ?」
「うん・・・・。」
答えては見たものの、フミカには分からない。フミカには、トオルがいつも無表情で感情があるようには見えない。でも、タケルとミドリにはトオルの気持ちがよくわかるようなのだ。
こんな時、自分が異邦人になったような疎外感に襲われる。これがフミカのもう一つのコンプレックスであった。
トオルが、マイペースに見えて実はすごく周りを見て、気を配っていることはよくわかる。祭りの時に神社に行った時も、誰よりもメグミのことを気にかけてくれた。トオルが大事な友達であることには間違いない。
「それなのに・・・。」
フミカは、、トオルに対して少しだけ苦手意識を持っていた。その事に対して罪悪感もあった。
フミカは、誰にも言えない孤独感を、日記に書いていた。
誰にも見られないように、タブレットには保存せずに、小さなチップに入れて自分の部屋に隠した。
自分だけの秘密だった。
試合は結局、引き分けのまま終わった。
試合が終わると、サエコはさっさと診療所へ帰ってしまった。
隣村の子供達も、しばらくタケル達と遊んだ後っバスに乗って帰って行った。
みんなが帰った後でも、フミカ達はなんだかんだと夕方近くまで遊んで家へと帰って行った。




