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紫陽花の花言葉

作者: 童の簪

友人と企画したやおい短編です。

田中正義氏(https://mypage.syosetu.com/532575/)との合作になります。

彼が落ちなし山なし意味もなしな会話文を書き、私がその会話文を元に地の文を書いたらどうなるのか。

要は(自称)得意分野を分業してお話にしたらどんなのができるかのお試し執筆です。


 絡みつくような湿気と弱々しい雨の元、二人の男女が道を歩く。


「ねぇ、今の状況、誰かに見られたらどう思われるかしら?」


 傘布を濡らす雨音を聞きながら、傘を持たない女は言う。


「カップルに見えるかってことか?」


 女のすぐ横、傘を持った男が返す。

 男の持つ暗色に守られた女は上品な笑みを描いて彼を見上げる。


「あら、あなたはそんな風に思っていたの?」

「誰かに見られたら、という仮定だろ。男女が二人で相合い傘して他にあるか。で、何が言いたいんだよ」


 若干のからかいを混ぜた女に男は無骨な言葉を投げかける。


「別に。こんな美少女を侍らせて、いいご身分ね」


 光栄でしょ? とでも言いたげな彼女は雨天の中でハラリと笑う。

 男は隣を盗み見る。

 傘布が守りきれず、ほんのりと水滴の付いた彼女は彼に青い紫陽花を連想させた。


「お前は了承の上だったと記憶しているが」


 男は傘を持っており、女は弱みを握っていた。

 女は傘を忘れており、男は抵抗を諦めた。


「それはそうだけれど、私は友達に見られたらと思うと恥ずかしいわ。あなたはそうでもなさそうね」


 言外に、女心を分かってないと言う女。

 心外だと男は女を見る。


「横に置いて恥ずかしい見た目の幼馴染だとは思っていないからな」

「分かってるじゃない。私は男の趣味を疑われたらと思うと、気が気じゃないわ」


 歪曲に、とはいえ褒めたというのに、女は無情にも言葉に刃を乗せる。

 紫陽花の花言葉は冷酷だった。


「それは申し訳ないが、整形の予定はない」

「外見の話じゃないし、そもそも別に悪くないし、マスクで見えないじゃない」


 新型ウイルスの流行るこの季節、外でもマスクは欠かせない。

 特に受験を控える彼らにとって、感染症による二週間の療養は致命傷、とまでは行かないまでも手痛い空白期間だ。


「確かに顔は隠れてるな。しかしそうすると、顔は誇れる幼馴染を侍らせているというステータスが薄れてしまった」


 やれやれと大袈裟に首を振る。

 すると女は小馬鹿にする風に目を歪めた。


「マスク美人って言葉、もしかして知らない?」

「ただの美人からマスク美人になると、格下げな気がしないか?」


 ただの美人よりマスク美人の方が多数派な気がする。と男は主張する。


「褒められてるのか貶されてるのか分からないわね」

「そもそも俺の方は見た目じゃなくて内面を貶されてた話にならないか?」


 今更ながら男は気づく。


「そうよ。気がつくのかつかないのか、昔からそういうところ」

「お前の話の飛び癖も昔からだろ。結局主訴はなんだ」


 女の回りくどさにそろそろ苛立ちを覚えた男は本題の提示を求めると、彼女は彼の左側を指さす。


「肩」

「肩?」


 傘からはみ出して雨に濡れる自身の左側を見て、男は首を捻る。


「私を濡らさないようにするのは当たり前だけれど、あなたが濡れたら私が気を遣わせてるみたいじゃない」

「……」


 そりゃお前が濡れれば殴られるからだ、と言葉にする前に女は続ける。


「私がその程度の低次元な配慮も出来ない男を捕まえてると思わせるつもり?」

「捕まえられてるのか?」


 俺が? お前に? と男の目線が問う。


「たらればの話よ。恥ずかしいから、もっと寄ってくれる?」

「逆だろ、普通は」

「どうせ今更何とも思わないでしょ」


 彼らは家が隣同士の幼なじみ。

 今更相合い傘程度で頬を染め合う恥ずかしい関係でもない。

 だが、男は言う。


「何とも思ってなければ、そもそも距離も空けてないんじゃないか?」

「……もしかして私、嫌われてる?」

「普段の自分の言動を考え直してみるといい」

「…………どれかしら?」

「……」


 男は無言で返す。


「何か言ってよ」

「言葉もないな」


 無言と同義だった。


「もしかして昨日えっちなお楽しみのところに電話したの気にしてる?」

「あれは咄嗟に動画をミュート出来なかった俺も悪かった」


 ちなみに通話内容が三十秒で終わったのは文句を言いたいがそれは飲み込んだ。


「じゃあお昼にあなたのミルクティー全部飲んじゃったこと?」

「甘すぎたからそれはいい」


 むしろストローを共有したことに関しては何も感じていないのか、と男は思う。


「どれよ!」

「心当たり多すぎるだろう」

「だってあなた、何も言わないじゃない。……だから、いいのかな、って思ってた……んだけど」


 ブツブツと不機嫌になる女。

 男は先程のお返しとばかりに目を細めて言う。


「その勘違い、正してやろうか」

「……心の準備をさせて」

「させない。そもそも嫌ってる相手と、相合い傘するか?」

「……」

「寄り道すれば5分で寄れるコンビニで100円の傘を買う選択肢、あったろう」

「……確かに」


 瞬間、青色の紫陽花が桃色へと染め上がって行った。


「おい、熱でもあるのか。顔赤いぞ」

「マスクしてるでしょ!……っ!」

「寄れって言ったのお前だろう」


 今になって、男は体を傘に入れる。


「だって、今の流れだと!」

「煽っといてそれは情けないんじゃないか?」

「う……ぅ……。み、密」

「風通しはいい、三密回避だ。危ないのは濃厚接触」

「人、人いるから!」


 見事な桃色に染まった紫陽花は余裕無さげに詰めてくる男を押さえつける。


「確かに往来だからな。ところで、寄ったら少し傘に余裕が出来たんだが」

「なら寄るな!」


 丁度、女の家が見えた所で彼女は雨空の下に身を晒して走り去って行った。

 水溜まりを跳ね上げて行く後ろ姿を見て男はふと思いだす。


 ピンク色の紫陽花が持つ花言葉は『元気な女性』


 男は広くなった傘の元、雨音を聞きながら帰路に着く。

ちなみに提出されたのは本当に「」内の会話文だけです。

喫茶店の席を私と田中氏の2人で5時間近く占拠して完成した文を読んだ彼の感想は「思ったのと大分違う」との事でした。でしょうね。

後日、彼が「思った」やおい短編が上がるそうなのでそちらも合わせてよろしくお願い致します。

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