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第漆話 最初で最後

「お前何をしたかわかってるか……?」


 目の前に座る男がうなだれながら儂を指さす。

 我が敬愛すべき父君である。


「わかっておる。」


 儂は腕を組みながら鷹揚と頷く。

 何をして何でこうなったかは理解したつもりでいる。もっとうまいやり方があったよなぁと反省する部分は多々あれど、後悔する部分は一つもないので、これからを考えて儂は前に進むつもりである。


「はぁ…… いつか何かしらやらかすとは思っていたが……」


 倒れるギリギリの所まで椅子を傾けて、グラグラ揺れている。全身の力を完全に抜いた状態で平衡を保てるとは、流石我が父君であるという他ない。しかも、吐くため息は実態を持っているが如く父君の口の上で白く揺蕩っている。魔術の一つなのか?よくわからないが流石の一言が止まらない。


「こんなことするとはな!!!!」


 急に立ち上がり、叫ぶ。静から動への急転換。予兆を感じさせぬその所作に感嘆する。

 もはやそれは一流の忍びのそれと同等ではないのであろうか?

 しかして、父君の激情は理解できる。というか、理解せざるをえない。

 では、何故こうなるに至ったか。


 あのエルフ兄妹との邂逅から今に至る我が顛末を語ろう。

 まぁ、儂が理解できた範囲ではあるが。



 エルフ兄妹を救った後、儂は奉行に捕えられた。

 ここで抵抗すれば簡単に逃げられたんじゃろうが、それをすればよくない方向に物事が進むということは目に見えてわかったので、大人しくしていた。

 アムリオは大泣きして、「何が起こったかわからない」みたいなことを言いながら難を逃れておったから、賢いなぁと思った。

 まぁ、それは儂を見捨てたゆえの行動ではなく、何とかなるしむしろここで私が連れていかれる方がめんどくさいと判断しての行動じゃと思うので、何とも思わんがエルフの兄が凄い顔でアムリオを睨んでおったから後で説明せんといかんな。

 その後、儂は奉行にもうそれはそれはめちゃくちゃに『ご丁寧な対応』をされた。

 エルフに関しては、あの手鎖をされていたが、儂とは違い出来れば関わりたくないみたいなそういう感じで扱われていたので一安心ではあった。


 そして、儂は奉行所に連れいかれた、その一室にて『ご丁寧な対応』をされながら、目的や所属を問われ続けた。

 所属に関しては学生証から簡単にわかるはずなんだが、なかなか信じてもらえなかった。

「お前があの人の息子なわけがないだろう!」とか、「もっとマシなところで偽造しろ!」とか、めちゃくちゃもめちゃくちゃなことを言われた。

 そして、数刻が経ったころ父君がやってきて、儂の所属に関する疑いは晴れた。

 奉行共が父君に土下座に近い勢いで謝罪している様は痛快じゃったが、ややこしい事態にしたのは儂なので、彼奴等の心労を思うと肩に手を置いて、頑張れよと一声かけざるを得なかった。

 唇を噛んで顔を真っ赤にしておったから、きっと儂に感動したんじゃろうな。また支持者を生み出してしまった……。罪な「かりすま」である……。


 そうして、父君と一対一で話す機会を設けられて知ったのじゃが、儂がしたことはこの国で一番の重罪らしい。


「異人」に対する幇助。


『魔族』の可能性を持つ異人を救う行為は、この世界で最も禁忌なことであるらしい。

 故に儂は死罪となる。

 はずなのじゃが、今回は我が父君とアムリオの父君が尽力に尽力を重ねた上に、奇跡と奇跡が起きた結果、儂は『国外追放』という結果に落ち着いた。

 なんなら王とも謁見した。

 王は父君を一目どころじゃないぐらい特別扱いしているようじゃった。

「救世の英雄」じゃとか、「勇者の相棒」じゃとかなんか凄そうな肩書がめちゃくちゃ出てきた。流石は儂の父君である。驚きはない。当然のことである。

 ついでに助けたエルフの双子も一緒に連れて行っていいらしい。

 儂としては願ったり叶ったりであるが、『異人と行動を共にする者がどういう結末を迎えるか身を以って知れ!!』とか、王の横にいるなんかよくわからん、めっちゃつば飛ばしながら叫ぶご老体にニヤニヤしながら言われた。


 そして、今に至る。

 言うならば今は父君と共にする、最後の晩餐である。

 が、しかし結局ところいつもと同じ会話になる。

 他愛もない雑談で消化される時間。


 これは最後にふさわしいと思わんか?


 儂らはいつもより少し長い時間いつもどおりを満喫した。




 儂は荷物を纏める。

 明朝には出なければならないので、晩餐の後すぐに用意しなければならない。

 こうやって部屋を見渡してみると懐かしいような気がしてくるが、新鮮な光景だなぁという感想も同時に出てきてしまう。

 前世の記憶が混在している状況はいまだに慣れない。

 懐かしくて新鮮な光景に、なんとも落ち着かない。


「クラマ。 これやるよ。」


 そんな違和感に悩んでいるといつの間にか扉に立っていた父君から声をかけられ、何かを投げ渡される。


「我が家に伝わる唯一の家宝みたいなヤツだ。」


 受け取ったそれは見た目よりもずっと重たく、不思議な赤い色の鉄で出来た扇だった。


「そいつは竜が吐き出す灼熱を振り払い、神の雷霆をも受け止めることができる。」


「そして、嘗ての勇者が振りかざした聖剣と切り結ぶことが出来た数少ない神具が一つ。」


 神話に出てくるほどの凄いものらしい。


「と、言い伝えられているが眉唾だ。」


「なんじゃそりゃ……。」


 一言で台無しにされた。


「まぁ、実際異様に魔力伝達力が高いから神鉄(オリハルコン)じゃないかって噂はあるけど、それを確かめる方法がないから、『なんかよくわからない凄そうな金属で出来た鉄扇』に落ち着いてる。」


「そんなふわふわした状態を落ち着いてるといっていいのか?」


 焔のような血潮のような紅く輝く不思議な色合いの金属。

 しかし、この金属は大昔に見たことある気がする……

 なんじゃったかなぁ……


「死にかけたら売って金にでもしろ。 最後の親バカだ。」


 そんなことを言われたら売れるわけがない。

 しかして、持て余して宝の持ち腐れとするには非常に惜しいので、一度アムリオに見てもらおう。そして、どうするか決めよう。

 これが父君と交わした最後の会話である。



 そして、明朝。

 父君とは晩餐時に別れは済ました故に、誰も起こさないように家を出た。


 すると、家の前で大荷物を携えたアムリオが立っていた。

 その横には昨日助けたエルフの兄妹。

 特徴的な尖った耳を隠すために頭が隠れるローブを被っている。

 透き通るような白い肌と日に浴びて輝く銀髪という点ではこの二人は同じだが、それ以外は全く違う。いかにも活発そうな短髪で瞳が翠の方が兄のエシュリオ。

 そして、いかにも気が弱そうに俯いて、前髪で黄色の片瞳が隠れている方がエレネスだ。

 こう見ると、姉妹に見えなくもないな……。


「私も国外追放になっちゃいました。」


 挨拶の前にとんでもないことを言われた。


「儂のせいでか!?」


「嘘です。 ただ、クラマさんに着いて行きたくて無理矢理出てきちゃいました。」


 無表情の中にしてやったりな影が見える。もうこいつの表情はわかったぞ。


「それって、儂が無理矢理連れ出したとかならないか……?」


「なるかもしれないですね」


「なんてことを……」


 もう二度と国に帰ることが出来なくなってしまった……

 まぁ、着いてこようがこまいが、もとより帰ることが出来ないので結局のところ構わないのだが。


「それよりも家族はいいのか?」


「大丈夫です。 好きなようにするのが人生だからと言っていただきましたので。」


 それに顔がいいから、別に高等教育出てなくても、金持ちと結婚とか何とかして、普通にいい人生送れるからね。心配してないよって言われたらしい。

 それでいいのか?


「俺たちも兄貴についていっていいの?」


 エシュリオが縋るように儂に問いかける。

 その後ろのエレネスが怯えた表情を浮かべる。

 何もしていないこの二人がこんな表情をしないといけないなんて、この世界は間違っているとしか言いようがない。

 それよりも……


「兄貴ってのは辞めてくれ……」


 言われたことのない呼び名に違和感が凄い。


「じゃあ、兄さん?」


「よくないが、煩わしいのでそれで良し!!」


 こういう輩はどこかで妥協点を作ってやらんと話が巡りに巡り続けることを知っている。

 儂は武だけでなく、知にも長けておるのじゃ!

 エレネスも小さく「おにいさん……。」って呟いていたが聞こえないこととする。


「さて!」


 気を取り直す。

 出発の前に確認しなければならないことがある。


「皆の者! 今から儂は世界中を旅しようと思う!」


 この前の一件で思った。

 儂は世界から目を逸らしていたと。

 故に、知らないようにしていた歪みを含めてこの世界を知りたい。


「この国には帰らんし、普通に予定もなく、安全の保障は全くできない。」


 全員を見渡す。


「それでも、共に行くか?」


 そして、問いかける。


「行きますよ。 クラマさんに着いていくのがいいって直感がしますので。」


 アムリオは答える。


「俺は兄さんに救われた。 だから、着いていきたい。」


「わ、わたしも……おにいさんに……着いていきたいです……。」


 二人は答える。


 ならば、決まりだ!

 ここから儂は世界を変えて見せよう!


「異人も人間も笑って過ごせる『らぶあんどぴーす』な世界を作るのに、にお主らも付き合ってもらうからな!」


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