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第伍話 行け、怒りにかられて

 儂らは家を出発し、学園へ向かう。

 こうして一緒に毎日登校しておるらしい。


「そうなんですよ。 だから、恋人に間違われちゃうんですよね……ぽっ」


 顔を両手で隠しながらクネクネ体を揺らす。

 しかし、指の隙間から見える表情は完全に無表情だ


「あれ?嬉しくないですか? 私かなり顔いいですよ?」


 クラマさんも顔いいから美男美女で素敵ですね!と小躍りしているが、複雑な気持ちにしかなれない。


「それよりも、この世界はなんともはいからじゃなぁ……」


 まぁ、本当にアムリオの顔がいいのは認める。

 認めるがそれは口に出したら負けな気がするので、心の中で押しとどめて話を逸らす。


「あら、18年も生きておいて今更ですね。」


「記憶としてはあるが、実際に見ると違うもんじゃからな。」


 18年間毎日見てきた景色のはずなのだが、なんだか目新しく感じてしまう。

 見慣れているようで見慣れていないような形容しがたき不思議な感覚。

 生まれてからずっとここで暮らしてきた儂にとっては、レンガ造りの家や、石畳の道は日常の景色。

 人生のほとんどを山で暮らしていた儂にとっては、西洋づくりの家々は見慣れない非日常。

 しかし、18年と幾百年だとどう足掻いても、幾百年の方が勝ってしまうらしい。

 非日常感の方が勝る。


「幸いか前世と今世はあまり本質が変わっておらんから、より不思議な感じじゃ……」


「そうなんですよ。 クラマさんって前世の記憶が戻る前から、クラマさんって感じの性格なんですよ。」


 不満げな声色でこちらを見つめてくる。


「まぁ、やはり生まれ変わりじゃからかの?」


「いや、そんなレベルじゃないです。 物心ついたときから一人称儂とかありえなくないですか?」


 普通僕とかじゃないですか?ていうか、僕って言ってるクラマさんを見たかったです。しかもずっと偉そうだし、顔がいいからそれでも許されるというか人気出ちゃうし、そもそも見た目で言えば黒髪で生まれるとか隔世遺伝にもほどがないですか?運命神ですけど、びっくりしますよ。とかなんとか急に儂に対するどうしようもない不満を延々と語り始めた。これ聞いてどうすればいいの?


「だから、最初は記憶が消えてないってびっくりしました。」


 言いたいことは一通り言い終わったのか、ズイっと顔をこちらに近づけてくる。

 ほのかにその表情に不満げなにおいが感じられる。全くもって無表情ではないようじゃな。

 というより……


「お主って基本無表情じゃが、儂の部屋に入ってきた時は、普通に表情豊かではなかったか?」


 後ろに後ずさって距離を取りながらもずっと気になっていたことを問うてみた。


「ああ、あれはそうしないと気持ち悪がられるんですよね。 だから、正直今が素の自分です。」


 いやはや本当に18年ぶりですよー!と、くるくると踊りながら喜びを表情除く全身で表現している。

 いや……よく見ると、先よりも目元が少し細いような……

 やっぱり、表情があるにはある。でもそれが著しく表れないだけ。その代わりに仕草や動きに出るから、存外素直な奴なんだと気づいた。

そして、信用しきれずにいた自分を少し恥じた。


「なんか、色々とすまんかったの……」


「ん? 人間になったことですか? 自分で選んだことなので構いませんよ。」


 そのことも含めての謝罪ではあるが、まぁ気づかないのであれば多くは語らないことにした。

 普通に恥ずかしいので。


 そうして、しばらく歩くと広場のような空間に出た。

 噴水を中心にして円状に広がった広場。

 外周に沿うように様々な露天が立ち並ぶ。

 青果店や陶器店、串焼きなどの飲食店、輪投げやくじ引きなどの娯楽等、前世でも見覚えがるようなものから、見たこともない何かを取り扱う店まで本当に様々だ。

 青果店1つとっても、林檎や桃や蜜柑、大根や茄子に南瓜など、前の世界で馴染みのあるものから、本当に全く見たこともないものまで様々な物が並んでいる。


 例えばこの蠢く人面根とか……


 顔を近づけると微かにうめき声が聞こえるような聞こえないような……

 前の世界では確実にありえないものだ。


「マンドラゴラにご興味が?」


 この珍妙な人面根はマンドラゴラというらしい。


「クラマさんの世界でも、東アジアの霊峰とか行けば生息していますからね。」


 ノスタルジー感じちゃいましたか?とか抜かしよるが、こんなもので望郷に浸りたくはないし、それよりもこれが前の世界にも存在していたことに驚きを隠せない。


「ちなみにこれは何に使うんじゃ……?」


「薬にします。 漢方薬と思っていただいて間違いはないかと。」


 しかし、このマンドラゴラと儂の世界に生息しているらしいマンドラゴラは少し別物らしい。

 本質は同じだが、こいつは「瘴気」と呼ばれる非常に濃い魔力にあてられたせいで、「魔族」というものに変質している。

 人間は瘴気を体内で魔力に変換する機能があるらしく、魔族化したマンドラゴラは魔力の回復に重宝されるのだとか。

 基本的に魔族化してしまうと理性を失って凶暴になってしまうとのことで、このマンドラゴラも例に漏れず、引き抜く際に鼓膜を破り脳を傷つける程の大声を出すらしい。

 なんとも妖怪変化に似たところがあるなぁと、結局望郷を感じてしまったことに絶望した。


 気を取り直そうと周りを見渡せば、そこに広がるは人と人と人と人。

 こんなにも活気あふれる人の営みに参加できることに涙が出そうになった。


 夢もまた夢。

 恋焦がれた人間との関わりが今ここに!!


 その中、とりわけ人が集まっている場所がある。


「あそこはなんじゃ?」


 熱い歓声が聞こえる。

 あそこに混ざりたい!儂も人間と一緒に騒ぎたい!楽しみたい!!

 駆け足で儂はそこに向かおうとするが、


「あそこはおすすめ出来ません。」


 アムリオが渋い顔で引き留める。儂の腕を掴んでまで。


「なぜじゃ?」


 18年の経験が叫ぶ。脳内で警鐘が響く。

 アムリオが儂に触れてまで止めるときは余程のこと。

 直近の記憶でも、今日はこの道で登校しない方がいい気がする……。(この時は感情豊かを演じていた。)と腕を掴んで無理やり遠回りさせられた。

 後で騒ぎになったのじゃが、いつもの道で地盤が崩落したらしい。しかも、儂らがいつも登校する時間帯に。


「あなたの嫌いなものがあります。」


 確実に嫌なことを思い出しますよ?

 前世の記憶の戻ったあなたなら確実に。

 と、釘を刺してくる。

 こういう言い方をするならば、そういうことなのであろう。


「不快であれば催しを台無しににするまでよ。」


 杞憂であればそれでよし。

 不快であればもう二度とそんなことが出来ないようにしてやるまで。

 久方ぶりに暴れられるかもしれないと思うと自然と口角が上がる。


 そして、人の群れに飛び込み間を掻き分ける。

 嫌な顔をされたり、文句を言われたりするが、知ったことではない。


「さぁ! 皆さん! ここに見えますは世にも忌まわしき「異人種」でございます!!」


 この先で、男が何かを披露しているようだ。


「双子のエルフ! あの世界を恐慌に陥れた魔王も、元はこのエルフです!」


 男が乱雑に何かに掴みかかる。

 子供の悲鳴と怒号が耳をつんざく。


「さぁ、皆様! 石の用意は出来ましたか!? この騒がしいゴミを処分しましょう!!」


 ようやく、全ての人間を超えた先にたどり着く。

 そこには舞台があった

 舞台の上には、全身に鎧を纏った屈強な男が二人と、陽気に盛り上げる男が一人。


 そして、杭に縛られた2人の少年少女。


「おい…… なぜ人間同士でこんなことする……?」


 あの2人はどう見積もっても齢13、14程度。

 それをあんな大人が寄ってたかって手錠で身動きが取れなくした上に杭に縛り上げ、それを民衆が熱狂の中観覧する。


 異常だ……


 しかも、あの手錠からは嫌な気配がする。


「彼らは人間ではありません。」


 いつの間にか儂の横に立っていたアムリオが悲痛な面持ちで言葉を紡ぐ。


「あれは広義で異人種、狭義ではエルフと呼ばれる存在です。」


 そうか……。浮かれて失念しておったが、ここは「人間至上主義」の世界。

 それ以外の人間に近い種族、「異人種」が排斥されている世界。

 生まれ変わった儂もこの風潮が死ぬほど大嫌いで、目を逸らして生きてきた。


 情けない……


 本当に情けない!

 儂は本当に儂なのか!?

 本質が同じとは言ったがこれを見過ごすような者と儂が同じとは片腹おかしい。極めて屈辱。

 これを見過ごして18年も生きて来た?


 そんな程度なら、死ね。


 気に入らぬものは全てぶち壊す。

 それは自分のことであっても同じこと。

 今この瞬間から、クラマール・アムルグルは死んだ。

 儂は日本三大妖怪の一角にして、八天狗が一人。

 鞍馬山僧正坊。俗称は鞍馬天狗。


 もう二度と目を逸らさない。

 さぁ、世界を平和にする為に、乱世を起こそうぞ。

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