第参話 新世界より
「んん……」
目が覚める……
見たことのない景色が広がる……
ふかふかした布の上で眠っておったらしい……。知識だけはある。所謂「ベッド」と呼ばれる西洋家具……。しかして、何故そんなところで寝ておるのじゃ……?
再度、周りを見渡す。
本当に心から見たことのない世界すぎて、逆に夢ではないとわかってしまう。
とりあえず、西洋家具に包まれているということと、ものを知らぬ儂でもそれがそこそこ上等な品物であることは察することができた。
「どこじゃ……?」
体を起こす。愚鈍に淀んだ脳内。様々な情報圧に混濁する中で記憶を遡ろうとする。
あの時……儂は死んで、白き無窮で運命神とやらに出会って、輪廻に戻してやると言われてそれ
から……急に……
「ぐぅぅおお……ッ!!」
知らない記憶が流れ込む……!
儂は……
名はクラマール。性はアムルグル。
齢は18で、アスカベーラ王国の貴族の一人息子。貴族とは名ばかりの没落した貴族ではあるが……
アスカベーラ王国は人間だけが住むことを許された王国で、人間至上主義が跋扈する現代においては世界最大の国と言っても過言ではない。
そこのアスカベーラ王立高等騎士学園に所属。
貴族や騎士として、教養や作法を学ぶことができ、希望者は様々な武術や魔術を履修することができる。
ほぼ全生徒がどちらかを履修しており、儂も例に漏れず両方を履修している。
魔力量・魔法耐制に関しては人外の域だが、魔術行使に対しての適性が皆無。剣術に関しても元よりの身体能力も相まって光るものは感じられるが、何かつっかえるというかスランプ気味になってしまっている。
腕っぷしが強く、家柄がヒエラルキーとなる騎士学園において暴力だけで頂点に君臨している。
弱い者いじめや、差別といったそういう理不尽なことが嫌いなため、見かけるたびにそれを暴力で解決する。正に理不尽を解決する理不尽。
性格的にもやたらと自信家で傲岸不遜。身分も考えず周囲にそんな態度を取り続けているため、周りから憎悪を集めそうではあるが、兄貴肌的な性格がそれを緩和させて平穏を築けている、儂の心を折ろうなどと考える奴はそもそもいない。理由は不可能であるから。
そして、3年生であるために今年学園を卒業する。卒業後は家督を継がなくてはならないが、普通に拒んでおり、国を出て世界を旅してまわりたいと考えている……。
諸々の自分のこと、そしてそれを取り巻く情報・記憶が一気に流れ込んでくる……
そして、二つの記憶と人格が一つに統合されていくのを感じる……
しかして、そんな簡単に統合されるのか……?人格が消滅されることになるのではないのか……?というより西洋文字が多すぎる……
ぐぬぬ……混ざる混ざる……記憶が混ざっていく……
しかし……
「なんの問題もないの……」
まさか、生まれ変わった儂と生前の儂の性格がここまで一緒だとは……
普通に性格が悪くて嫌われ者ではないか……
記憶の統合は一応一通りは完了したのだが、何故かこの新世界にて見知った顔がひとつある気がするのじゃが……
コンコンッ!
と、思考の海に潜ろうとした時、不意に扉を叩く音がする。
「クラマくん! 起きてる!?」
聞こえてくるは女子の声。声から察するに齢は儂と変わらぬであろうが、なんでか前世でも聞き覚えがる気がする……。
「開けるからね!?」
無言を肯定と捉えた女子は扉を開こうと廻し手に指をかけた。
妙な引っ掛かりに気を取られ、心の準備のできておらん儂は声をあげて止めようとするも時すでに遅し。
「クラマくん! 遅刻しちゃうよ!?」
無慈悲にも開かれた扉に先に立つは、不機嫌な顔をした金髪の西洋人。
しかし……この顔は……。
「お主は……」
前の儂にとっては一番最後に見た顔にして、今の儂にとってはほとんど毎日見ているといっても過言ではない顔。
「運命神!?」
見紛うこともない運命神!?なぜこんなところに!?
「あれ? もしかして前世の記憶、覚醒してしまいました?」
さっきまでの不機嫌な表情が一変、一気ににあの時と同じ無表情へと変わる。