第弐話 おお、運命の女神よ
目が覚める……
白い白い果てしなく白い空間……
ここは一体……?
思案する。今までの顛末を思い起こす
儂は死んだのか……
非常に強かった……
きっと先代よりも凄まじい才覚があったのだろう……
儂を殺す為に敵を取るために血が滲むような努力をしたのだろう……
彼奴のような強者がいれば、人間共の太平は半世紀は守られるであろうな……
しかし、心が痛む……
彼奴の人生を歪めてしまったことが……
六道から外れた我が身は輪廻に混じることもなく、この空間に漂うのであろうな……
善良な人間を殺したのだ。当然の報いといえば当然……
この無窮の白き牢獄を満喫するべく、目を閉じて自然に身を任せようと……
「ようこそお越しくださいました。」
「なんじゃ!?」
したら、急に声をかけられた!?
眼を開くと先ほどの浮遊感は消え去り、儂は椅子に座っていた。
なんとも座り心地の悪い、安物の折りたたみのぱいぷ椅子?だったか?に座っており、真向かいには真白い衣服を纏った金髪の西洋人みたいな女が座っている。
「お主は何者じゃ?」
「私は運命神。」
「ほぉ…… 神格が死した儂になんの用じゃ……?」
確かにこの霊力は紛うことなく神格だ。
しかして、なぜ西洋の神格が儂の前に……?しかもこの無窮の空間に……?
「突然なんですけど、あなたを人間として輪廻転生の円環に戻すことになりました。」
は?輪廻転生?人間として?わけがわからない……
「儂は天狗道に堕ちた身…… 六道輪廻からは外れているはずじゃが……?」
「本来であればそうなんですけどね……」
「あなたは精神性が平和というか、魔物らしくないというか、なんというんですかねぇ……」
わざとらしく難しそうな表情を浮かべながら、人差し指を宙でクルクルとまわしている。そして、あっという顔を浮かべながら、手のひらに握りこぶしをぽんっと置く。
「『Love&Peace』って感じなんですよ!」
「『らぶあんどぴーす』……?」
なんじゃその面妖な言葉は……
儂ら妖怪変化はそういう西洋言葉は理解できん。
「そうです! 『ラブアンドピース』!」
無表情のまま、声だけは弾ませながら、指でじゃんけんのちょきを作って見せる。
こやつ……全ての挙動が噓くさいのぉ……
「ちなみに愛と平和って意味です。」
意味は愛と平和……。なるほど……。
それは本当に……。
「素敵な言葉じゃな!」
『らぶあんどぴーす』……!
愛と平和!いい言葉じゃ!!
胸を打つ!心に響く!儂が望むのは、妖怪変化も人間もすべてが共に歩める『らぶあんどぴーす!』!
「やれ運命神! 儂を輪廻に戻すといったな!」
「ええ。 言いました。」
無表情で淡々と答えよるが、最早そんな言葉は気にならん!
儂は人間に生まれ変われる!そしたら、『らぶあんどぴーす』を実現できるやもしれん。
その衝動が胸を熱くする!心を動かす!魂を揺さぶる!
「して、その対価はなんじゃ?」
そう世の中に無償なんてあるはずはない。
しかも、こんなにも美味しい話……。地獄を見る以上の対価が待ち受けているに違いないからの……
「対価……ですか……?」
心底困った顔をうかべながら、うんうんうなり始める。
「無いんですけど、強いてあげるなら、生まれ変わった世界を『Love&Peace』にしてきてください。」
ん……?それは対価というのか……?
「では、早速ですが行ってきてください。」
儂が言葉を発するより早く、視界が白に包まれ女神の姿が掻き消えていく。
そして、消える直前に「わかってるとは思いますが、生まれ変わったら前世の記憶もここでも記憶も残りませんので。」と、一番大事なことを抜かしおった。