ゲーム世界から帰ってきた俺は平凡な学生になるはずだった
「やっと終わった・・・・・・」
「オツカレサマデシタ」
「お疲れ、この世界でこんなにがんばって魔王を倒したけどもうお前と会えないのも寂しいな」
「ダイジョウブ、ユウシャサマハゼッタイサガシダス」
「お前ならそうだろうな、それじゃあお別れだ」
「はぁ、やっと終わった」
たったいまゲームの世界から帰ってきた俺は高野久乃、なにを言ってるか分からないと思うが本当にゲームの世界から帰ってきたんだ。
いまの日時は8月29日か、俺があっちに行ってから一日も経ってないし時間もゲームを始めたばっかりなのはすごいな。
「明日学校もあるから早く寝ようかな」
もう0時を過ぎていてなかなかいい時間なことだから寝よう、こっちの世界に帰ってきた実感はあんまりないけどこればっかりは仕方ない。
それにしてもいっしょに冒険してくれたあのゴリラはめちゃくちゃ強かったな。
そんな余計なことを考えながら俺はゆっくりと目を閉じて一晩を明かすことにした。
「久乃おはよう」
「おう、おはよう」
学校に登校していつもつるんでる連中と簡単な挨拶を交わす。
無愛想に思われるかもしれない返事しかできないが小学校からの付き合いなら分かってくれるだろう。
それとこの女みたいな名前はどうしても呼ばれるのは苦手だ。
「もう、ネクタイ曲がってるよ?」
「悪いな、いまだにネクタイとか結ぶのには慣れないんだ」
制服なんて上手く着れるはずがない、なにせ向こうの世界で過ごしている時間がめちゃくちゃ長かったからな。
トイレに行き身だしなみを少し整えてから教室に入ることにしよう。
いつも通りの教室を見回してから俺の席にゆっくりと腰を下ろす。
学校まで大した距離がなかったのにやっぱりこっちの世界で動いてなかったせいで少し感覚が鈍っているな。
そろそろホームルームも始まるからここで少し瞼でも閉じておくことにしよう。
「遅れてすいませんでした!」
そういって教室に入ってきたのは聞きなれない女子生徒の声だった。
一体だれだろうか、俺もここに二年間は通っているはずだがこんな声聞いたことがないな。
「あれ、あなたはなぜ私の席に座っているのですか?」
そういってから足音が自分に向かってきていることに気が付いて俺は顔を上げた。
「お前だれ?」
全く見たことない容姿に失礼なことを言ってしまったか。
傷つけてしまったとしたら非常に申し訳ないことをしたな。
「あなたは、勇者!?」
なんて意味の分からないことを言ってくるんだ、いま流行りの電波系ってやつか?
そんなことを考えながら周りを見回してみると俺にクラス中の視線が集中していた。
「ゲームの世界の勇者ですよね、その顔にその身のこなし方に眠り方まで全部いっしょです」
やめろよ、そんな意味の分からない妄想に俺を巻き込まないでくれ。
「あなた、だれですか?」
ネクタイを直してくれていたのにお前までどうしたんだよ、小学校からいっしょの付き合いだったはずじゃないか。
「違います、この子たちと幼馴染なのは私です」
そんなはずない、だって記憶だって全部俺の中にちゃんと残ってるんだ。
いっしょに遊んだり、家に泊まったり散歩をしてる風景だって全部全部残ってるのに。
「それも全部私の記憶なんですよ、君の記憶なんて一個も存在しません」
「あなたはゲームの世界の勇者をやっていた人間なんです、私たちの世界にいるべき存在じゃないんですよ」
なんでそんなことを言うんだ、ちゃんと全部記憶が残ってるんだ。
これが嘘の記憶のはずがない、だって偽物だったらこんなに鮮明に残っているはずないじゃないか。
俺のなかの自問自答は空しくクラスの視線全てが怪しげに俺を見つめている。
「そんなの嘘だ、嘘だ!!」
俺は階段を駆け上がった、あんな視線をずっと浴び続けていたら俺の気がおかしくなってしまうと思ったからだ。
全てから目をそらして階段を駆け上がりきったら屋上に出る扉の前にたどり着いていた。
俺はその扉を開けると外の気持ちいい空気を肺いっぱいになるまで吸い込んだ。
「ここなら少しぐらい落ち着けるな」
そう独り言をつぶやきながらフェンスに寄りかかると「ガタンっ!!」というけたたましい音がなった。
気が付いたころにはもう遅い、俺の身体は宙を漂っていた。
「なっ!?」
人間身体が宙を舞ってしまえば為す術なんて存在しない、大人しく死を受け入れる以上のことなどできるはずがなかった。
それを察してしまった俺はゆっくりと瞼を閉じて俺自身の死の音をゆっくりと感じることにした。
「これで本当によかったんですか?」
「これでいいはずなんです、この子はこのストーリーのゲームが大好きでしたから」
「こんな幸せな死に方はないと思うので」
「それならいいのですが・・・・・・」
「最後にはこんな仮想空間で人生を終わらせていただいてありがとうございました、お医者さん」
「これも私たち【幸せ遂行委員会】の役目ですから」