スレイヤー野口
どんなに明るい世界でも、一滴の闇くらいは存在する。そして、そこが俺の居場所であり仕事場でもある……。
―――タァーン……
幾多の厳重な警備をくぐり抜け、後ろから緩やかに標的を撃ち殺す。
「―――任務完了だ」
「了解。直ちに帰投せよ」
仕事は速やかに、そして鮮やかに。
それが俺の暗殺者としてのポリシーだ。
「最後の仕上げ……っと」
俺は死んだ標的の遺体の上に一枚の名刺を置いた。
『スレイヤー野口が殺しました』
―――ここは国の重要機関内にこっそり設置された、暗殺部隊養成所。
「で? どうして名刺なんか置いてきたのかな……?」
今、私の目の前に怒りマークが顔全体に広がっている女性がいる。私の上司(行き遅れ)だ。どういう訳か、私は今説教とやらを受けている。極めて遺憾だ。
「だって……誰にも気付いて貰えないのは、寂しくないですか?」
「良いんだよ!! 暗殺なんだから気付かれたらダメなの!!」
「友達も欲しいし……」
「だからって、顔写真まで載せるアホが居るか!? それにどうしてコードネームに本名を入れるんだ! 名前を隠す意味がないだろう!!」
どうやら今日はかなりご機嫌斜めの様だ。いつにも増して小言が長い。そんなんだから婚期が―――
「は!?」
「いえ……」
おっと。どういう訳がこの御仁、人の考えている事が読めている様で…………。
「お前の存在が公になれば我々も国も危ういんだぞ!! 次は無いからな!!」
私は現場に置いてきた筈の名刺を投げつけられ、部屋を追い出された。
解せん……。
日課の一人オセロの最中、次なる標的の報せを受けた私は、速やかにカードキーでロックを解除し、シャワーを浴びていたターゲットの背中を斬り付けた!
――ザシュ! ――ザシュ!
沈黙したターゲットを残し、私は速やかに現場を離れた―――
―――『スレイヤー野口』と傷跡を着けて……。