みにくいアヒルの子 (もうひとつの昔話20)
あたたかな湖のほとり。
水草におおわれた巣で、母さんアヒルは卵をあたためていました。
やがて卵はかえり、一羽、二羽と、赤ちゃんアヒルになっていったのですが……最後のひとつが、いつまでたっても卵のまま。
――これって、わたしの卵じゃないのかしら?
母さんアヒルが疑念をいだき始めたころ、ようやく卵がかよわれ、赤ちゃんが顔を出しました。
「あら、なんてみにくいんでしょう」
その子は大きくて、うすぎたない灰色。
ぶかっこうな歩き方は、ほかの子供たちとは大ちがいです。
――やっぱり、わたしの子じゃなかったんだわ。
母さんアヒルはその子を見捨て、先に巣だった子らの待つ湖に行ってしまいました。
季節はめぐり、ふたたび春となります。
みにくいアヒルの子は仲間と出会い、自分が本当は白鳥だということを知りました。
今では毎日が幸せです。
けれどひとつだけ、常に頭から離れないことがありました。
自分の出生のナゾです。
そのことを仲間にたずねてみました。
しかし、だれもわからないと言います。
それからも……。
白鳥の自分がアヒルの巣で誕生したという、この出生のナゾはとけないままでした。
――どうしてあたしは、アヒルの巣なんかで生まれたんだろう?
白鳥はいつも、そのことばかりを考えていました。
数年後。
おとなになった白鳥は卵を産みました。
お母さんになったのです。
毎日、毎日。
白鳥は卵を抱いてあたため、赤ちゃんが生まれるのを待ちました。
やがて卵はかえり、一羽、二羽と、赤ちゃん白鳥になっていったのですが……最後のひとつが、いつまでたっても卵のまま。
湖では、先に巣だった子らがおなかをすかせて待っています。
白鳥はついにあきらめました。
――これはアヒルさんの卵にちがいないわ。だったら返してあげなきゃあ。
アヒルの卵がまちがって、自分の巣にまぎれこんだのだと思いました。
白鳥は卵をかかえ、さっそくアヒルの巣に向かいました。
そこでは、アヒルが卵をあたためていました。
白鳥はそっと近づき、巣の中に持ってきた卵を返してあげました。
翌日。
――捨てられてはいないかしら?
白鳥は返した卵のことが気になり、ふたたびアヒルの巣に行ってみました。
母さんアヒルは巣に座り、いっしょうけんめい卵をあたためています。
――やっぱりアヒルさんの卵だったんだわ。
白鳥は安心して帰っていきました。
三日後。
アヒルの巣で、一羽のみにくいアヒルの子が生まれました。