表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Aサクラ型ウイルス感染性インフルエンザ

作者: 佐倉。

○月×日

今日は朝からうだるような暑さだった。

コールセンターのクレーム対応という、ストレスは溜まるが、

コスパの高いバイトに俺は週に4日のペースで通っていた。


大学を卒業し、なあなあで入った会社はやっぱり自分には不向きだった。

だから俺は会社をやめてパートやアルバイトで日々食いつないでいる。

贅沢はできなくても、生活出来るだけで十分だ。


しかし、コールセンターのアルバイトは、時給1500円という高額な給料が支給されるため、

精神的ストレスがいくら溜まっても、やめられなかった。

そのコールセンター会社までは徒歩10分だった。

自転車で行けば3分なのだが、大きな会社のため、只のバイト員である俺のチャリの停める場所なんてない。

うだるような暑さの中、制服を着て会社へ向かった。

制服だということもあってか、朝だというのに全身から汗が吹き出した。


クーラーの効いた会社のビルに入ると、受付嬢が声をかけてきた。

荻原勇人おぎわら ゆうとさんですね。少々お待ちください。」

いつものバイトなので、特に時間がかかることもなかった。

受付を済ませると、自分の持ち場に着く。目の前にある電話を見てスタンバイ。

会社内の冷房のおかげで汗も冷え、そのうち制服を着ていても快適に過ごせるようになる。

ふと、少し頭痛がしたが、きっと外が暑かったせいだろう。

「トゥルルルル・・・」

早速電話がかかってきた。長い長い1日の始まりだった。


○月△日

 昨日はあの後、いつもどおり電話の対応に追われていた。

帰ってからは疲れて何もする気力がなく、家に帰るといつの間にか寝ていたらしい。

今日は朝から頭痛がしていた。

俺は冷房のスイッチを入れ、設定温度を少し高めに設定してから少し眠ることにした。


○月□日

起きてみたら朝だった。昨日から続く頭痛は治るどころかひどくなっている。

どうやら寝不足ではないらしい。

バイトがある日だったのだが、休みを取って寝ようと考えた。

たいていの病気は寝て治すのが俺のポリシーだ。

病院に行くお金なんてないし、保険にも入っていない。

体がだるかったので、とりあえず枕元にあった体温計で熱を計ってみたら39度あった。


○月※日

起きてみると、体にあざができていた。

右手の手のひらのあざは、桜の花びらの模様にみえなくもない。

俺の頭の中をよぎったのは、ある病名だ。

最近はやり出した感染病だから気をつけるように、とCMだったか特番だったかでやっていた気がする。

それもあってか、今やその病気の特徴や名前は馬鹿でも分かる。

――Aサクラ型感染ウイルス性インフルエンザ――


俺は絶望感に襲われた。

Aサクラ型感染ウイルス性インフルエンザは、今年になって出てきた新種のインフルエンザである。

それゆえ、感染の原因がよく分かっていない上に治す方法もハッキリしていないという。

従来のインフルエンザでは有効だとされていたタミフルの効果もあいまいであるという。

最新の、前代未聞の病気。

そう、Aサクラ型感染ウイルス性インフルエンザにかかった人間は死ぬことしかできない。

俺は、殊更病院に行っても意味が無いと思い、眠りについた。

いや、正しくは、眠ることしかできなかった。


○月Д日

久しぶりに夢を見た。

バイト先には長期休暇をもらったのだが、俺は夢のことが気になって仕方ない。


『抽象的すぎるわよ。』

白い衣服をまとった、白くて長い髪をした女が言った。

「そんなの、知らないよ。」

女の近くにあるソファーに座っている少年が言った。

『日向!もっと具象化しないと死んじゃうのよ!』

「でもさ、できないんだよ。」

『いいわ、貸しなさい。私がやってみる。』

白衣の女は"日向"から箱のようなものを開け、呪文を唱え始める。

あたりが真っ白な光に包まれた。


・・・そこから先は覚えていない。

よく分からない夢だが、女が言った『死んじゃう』というのは誰のことだろうか。

それとも誰でもないのだろうか。

俺のサクラ型インフルエンザと関係があるかもしれない。

なぜか自然とそんな思想につながる。

考えすぎかもしれない。

俺が夢なんて見たのは5年ぶりだと言っても過言ではないし、それ以前から夢なんてみなかったかもしれない。

夢の続きがみたくても見れないのがすごく悔しいのだが、

気にしてても解決なんてするわけはなく、俺は体温を計ってみると、

37,6度に下がっていた。


○月#日

なぜか朝からすがすがしい気分だった。

まさか、と思って熱をはかってみると、熱は36,5度であり、朝にしては多少高いが、

それでも平熱であった。


今まで治った例がないというのに、なぜ突然治ったのかが分からない。

じんましんは多少形を残しているものの、ほとんど消滅していた。

しかし、油断は禁物。

普通のインフルエンザでさえ、熱がさがってから2日は安静にしなければならない。

2日。

そこで俺はふと、日付が気になり、携帯を探す。

携帯の、充電は切れていた。

携帯を充電器に差し込むと、日付を確認してみる。

Д日からなんと、日付が10日も進んでいる。


・・・まさか。

俺が10日も眠りっぱなしだったなんて。

俺は何度も携帯を見た。

昨日、熱をはかったはずだ。そして、その熱は37,6度だったはずだ。

それなのに。

俺はショックで床に座り込んだ。

それと同時に、奇妙な夢の事を思い出していた。

あの女は、なんだったのか。そして、日向とは誰か。

そんなの考えたって分かるわけがないのだ。


俺はバイト先に連絡した。そこで、俺は衝撃の事実を知ってしまった。

俺は、バイトをクビになっていたのである。


○月%日


長期休暇にも上限はある。

バイト先の上司からの連絡にも応答しない、なんて事をしてしまっていたらしい俺は、

いつの間にかバイトがなくなっていた。

『ひきこもり』とか『ニート』なんて言葉が頭をよぎる。

悪い方向にしか物事を考えられないのはおそらく病み上がりだということもあるのだろう。


10日間も眠り続けていた為、俺の体力は最低限動ける程度しか残っていない。

"自分"は元気なのに身体が動かない。ついてこないのだ。

幸い、バイトの今月の給料が振り込まれていたため、1ヶ月程度過ごせる財源はあった。

俺は、新しいバイト先を探すため、週刊誌を買いにコンビニに行く事にした。


新しくバイトを始めれば、また生活が出来るのだ。


――――――――――――

☆月#日


俺がA桜型感染ウイルス性インフルエンザにかかってから早くも1年が過ぎようとしていた。

バイトをしつつ、就職先も探す日々を繰り返すうち、ようやく正規社員となった。

今は、レストランの経営事務担当だが悪くない仕事だ。


最近になって医療技術がほんの少し進み、政府はA桜型感染ウイルス性インフルエンザの概要を発表した。


『A桜型インフルエンザ』

正式名称:A桜型感染ウイルス性インフルエンザ

毒性  :従来のインフルエンザの中で最も強い毒性を持つ。

特徴  :頭痛、高熱、あざ、手のひら

潜伏期間:3~4日 その間、頭痛が伴う例が多い。

発症例 :夏に多い。冷房により、内外の気温差が激しくなる事から発症しやすくなる事が判明。

その他 :薬は開発中の為、治った例は極めて稀である。

     予防の為、内外の気温差をできるだけ小さくする事を推奨する。

     また、マスク着用等も、予防には効果的である。


そして、俺は思う。

俺があの時見た夢は、偶然ではなく、

俺のA桜型インフルエンザが治ったのはあの夢の効果なのではないかと。

しかし、真実は誰にもわからない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ