いろんな問答があって記҈҉꙰҈꙲号꙱҈꙰꙲҈҈井クュ逡・記҈҉꙰҈꙲号꙱҈꙰꙲҈҈怖くなって謝ってしまいました。。
「急に、いかがなされた?」
「横浜を見ました。『ヨっちゃん』の記憶です」
ヨっちゃんとカフェラッテ女は、リフト操作卓のそばにホースを見つけて体を洗っている。ヨっちゃんは上方階段を一メートルほど登ったところに坐り、ブラウスを脱いでカフェラッテ女に手当てされているようだった。
「外界人の無差別徴用は、横浜で我々が想定していたより大規模におこなわれています。市街地の道路をヤマダが歩き、あからさまにRPOを使い捨てていました。横浜港の沖や、警察署めいたものを攻撃しているようです」
民間人を誘き寄せるどころか、自衛隊がスッ飛んできそうなことをしておるわい。
「偽装と誘引を主目的とした攻撃と思われます。みなとみらいにいたヨっちゃんが見た限りでは、徴用者を三万から五万人と予定し、一五時間以内に撤収する小規模作戦ではありません。東京湾岸をより広範囲に長時間、制圧支配する大規模作戦が実行されています」
「あえて自衛隊を誘引して、この段階で叩くと?」
「そうです。自衛隊を初期段階でゾンビ化することは、完全勝利の要件の一つです」
「うむ……、何時間前の記憶でござろうか?」
「一時間か二時間前のことでしょう……自衛隊に偽装した兵士に避難誘導されて、乗客は地下横浜駅のガス麻酔室へ入っています」
二時間前の横須賀線沿いで、そんな大騒ぎがおきていたか?
拙者は腕時計を再確認した。
[09/02 01:25]
線路はもっと真っ暗な罠。
無難だったかもね・・・
「……保守派の大多数は古い種族です。ヒトの過剰な増殖に、冷酷に対処してきました。改革派は科学技術を極限まで進歩させるという大きな目的を掲げて、現行の外界文明を保護してきたのです」
「……この、騒ぎに乗じて、保守派が現代文明を滅ぼすと? ゾンビで?」
「ゾンビと全面核戦争によってです」
「それは、奈落への対処と同時進行になるはず」
「はい。しかしこれは保守派にとって好機ですから」
「総てはチャンスだで、か」
元老院、甚だ陥ればすなわち懼れず、やむをえざればすなわち闘う。保守派と改革派で拘してはいないらしいが。
「孫子、ディー クンスト デス クリーゲス」
いかにも。日本軍の中佐が言ってた。
しかし日本人は一億、アメリカ人は三億、全地球となれば先進地域だけで一〇億人。鉄道の運営すら人手不足な常世が、そう思いどおりに人間同士の世界大戦をおこせるだろうか?
木吉のオジ様も結果は物量にボロ負けだしね。
「今やっていることは局地戦にすぎません。東京焼却の段階で欺瞞情報が広まっていると、第三次世界大戦の引金となる可能性は高いと思われます」
「ロシア軍がついに狂ったとでも噂を流し、本当に日本首都圏が核爆撃されれば、世界大戦になる可能性は高いということでござるか……」
ヨっちゃんによると、横浜でもMKウルトラ電波が放送されていた。つまりテレパシー女と同じ超能力を有する者が、横浜で思考誘導念波を放っていた。人間を一夜にして数万規模でホイホイできるテレパシー一族が、常世には棲んでいるのだ。
彼らがMKウルトラ電波で、アメリカ第七艦隊にハバロフスクを撃たせるといったことすら可能であれば、諸国を全面核戦争不可避の未来へ確実に誘導できると考えねばなるまい。
「大規模作戦の場合、東京攻撃は何時間後に?」
「わかりません。……多数の破孔が急激に活性化していることから、徴用人数が五万では不足するという意見はありました。彼らが要求した六〇万を調達した時点で、焼却作業にかかるとは思います」
「六〇万とはまた難儀な……、そこで御一族のテレパシーにござるか?」
「アバディーンはわたしの一族ではありません」
「アバディーン?」
「元老院保守派に与した一族の名です」
ガッチャガッチャとバッグを鳴らして近づくテレパシー女と拙者を見ていた二人が、一メートルの距離でギョッと顔を強張らせた。
「ウ、ウシ?」
「失礼ですね」
テレパシー女の首から後ろは、確かにウシくりそつ。カフェラッテ女とヨっちゃんの驚愕は是非もなきかな。
さりとて頭がヒトたれば、それはウシにあらず。テレパシー女の種族にとって、ウシ呼ばわりはスゴイ・シツレイなのやもしれぬ。
「ウシになんで?」
アイエッ!? と言いそうなカフェラッテ女に、拙者は教えてやった。
「ウシにあらず。クダンなり」
件は、ゲームなどで知られる牛頭人身のミノタウロスとは逆に『人頭牛身』、そして『予言をなす』と伝わる日本の妖怪だ。知能はヒトを上まわるとされ、母ウシから生まれたその日に会話ができるらしい。田舎の牛舎暮らしがしんどいのか、すぐに死んだり失踪したりするともいう。
間近に実在するテレパシー女は子ウシの大きさではなく、若い成体に見える。体重は推測で四〇〇~五〇〇キログラム。首はウシの形とヒトの肌が融合し、根元に襟巻のような鬣がある。
霧の中に、腰巾着は存在していなかった。それはテレパシー女の後半身だった。
「クダン?」
「人頭牛身。すなわちウシの体にヒトの頭、予知能力をそなうと言い伝えられる未確認生物。さらに予知能力のみならず強力な」
「わたしはこの二人にテレパシー通信をつないでいません」
テレパシー女が音声ではなく思念で言葉を挟んだ。
「横浜で騙されたばかりですから、しばらくは黙っておくほうがお互い好都合です」
なるほど、これは拙者としたことが。
「強力な、運搬能力もござそうろう」
「ござ? ……運んでくれるの?」
テレパシー女はカフェラッテ女に話しかけられ、しかたなさそうに首肯した。
「この子、言葉がわかるんだ」
「失礼ですね」
ヨっちゃんは五.五六×四五ミリ弾で腹を撃ち抜かれたにしては意識明瞭で、自力で動くこともできた。洗われた傷口からの出血も異様に、あるいは血色相応に少ない。吐血は胃を弾丸に裂かれたせいだと思うが、それも止まっている。拙者が抱き上げてテレパシー女の腰に跨らせたときに「賢い電話を貸してほしい」とも喋った。
「家族に、伝えないと……」
「ここは圏外ゆえ、まずは外へ出る」
「他の、人は?」
「もう死んで、は、おらぬが……救いはないね」
「救いはないんですか……?」
「次の列車が来ます。急ぎましょう」
テレパシー女は二つのバッグとヨっちゃんを背負って、苦もなく階段を登り始めた。網膜投影機らしいレンズの代わりに小さな鏡がついた眼鏡と、装備品を収めた胴衣の他に、家具の四つ足につけるようなゴムサンダルを蹄に履いている。
よろめくカフェラッテ女は拙者が担いだ。近づく電車の音が、聞こえ始めている。
プラットフォーム階のアーチ型をなす天井は、見たところ高さ二〇~三〇メートル。そこから外郭扉階の床面まで、階段の長さで測って、さらに三〇メートル。外郭扉階とプラットフォーム階のあいだは厚さ三〇メートルの岩盤だ。これらの核シェルターとしても機能するであろう駅を、常世は一〇〇も二〇〇も保有しているに違いない。
奈落破孔が活性化したピンチに、その管理団体・常世は人間をゾンビにしてぶつける外道作戦で対処しようとしている。改革派は日本首都圏を犠牲にするだけですませるつもりだが、保守派はこの機に乗じて現代文明を滅ぼそうとしている。
テレパシー放送でチラ見した奈落は、コズミックホラー感を漂わせる異世界やゲームダンジョンじみたところだった。あれが地上へ大量に溢れ出せば、やはり現代文明は終了する。
常世は下界人にとって必要悪。関東人以外は、改革派を消極的に支持する選択が無難というわけだ。
制動音が長く響き、列車が停まった。エクストリーム客と兵士が降りた、横浜終着側の線路だった。
階段のなかばでカフェラッテ女を下ろして振りかえった拙者は、プラットフォームへ歩き出る別種の超自然生物を目撃した。
「ふおお、あれは……?」
「あ、あいつ! あいつらが! ミサイルで!」
「ヤマダです」






