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世界最悪の魔物が、野蛮な一神教徒や細菌兵器を撒き散らすコミー弾圧政府ですんでいる、この平和で退屈なゴイムの現実的日常を守る秘密結社の基地へ迷いこんでしまったら件 第3話



「ゾンビ……」


 人間の意志や知能を薄弱化するという意味だろうか。

 横浜市街地でしめやかに強制徴用をおこなうことは、テレパシー能力者が他にも大勢いるならば、可能そうではある。数百メートルの距離からテレパシーで誘引をしかける能力は、拙者も体験した。

 まず、これで横浜の秘密駅へ貧弱一般人を誘き寄せる。次に、どんな能力なり薬物なりを使うのかはわからないが、集まった貧弱一般人をゾンビ化する。めでたくゾンビになったら電車で奈落破孔へ送る。

 群馬の山奥へ向かう電車に乗っていたとき、何度か対向車の光を見た。横浜行きの列車一本に、武装した兵士を数百人、戻りは一〇〇〇以上の民間人を乗せられる。


 何千人か何万人かの失踪が発露する問題は、夜明けまでに(今が徴用の真っ最中ならば五時間以内に)ミサイルを秘密駅の近くへ撃ちこみ、誘拐を目撃したかもしれない居残った者を、建物と掻き混ぜてしまえばごまかせる。失踪者は瓦礫の下でネギトロになった。「死体が少なすぎる」と指摘があるにしても、死体が一つ残らず蒸発したシャンクスビルよりは充分にましな説得力がある。陰謀などパラノイアの戯れ言。

 あとは北朝鮮がテポドンでも撃ちこんだと言い張って、ついでに報復攻撃をやっておけば、世間の少なくとも権威信者は騙されてくれる。

 これはチラ裏スレの妄想ではない。アメリカ国防総省が成功させた、実績ある方法だ。

 ゾンビ化が、ゾンビ味スープパウダーを鼻にでも入れて嚙みついて三分待てばできあがり、なZ級的お手軽さではないのなら、先に別の駅へ、民間用の無線電話が通じない山奥の地下へ送ってしまえばよい。自衛隊員やアメリカ兵のような恰好をした集団が指示すれば、貧弱一般人の多くは従う。

 作っていた檻は、これらの無差別徴用者を一時収容するためのものなのか。 保守派め、おぬしらも外道よのうww 


「して、後ろの兵士は保守派でござるか?」

「いえ、違います。彼らは仲間の……わたしと同じアメリカ軍ですが、不幸にも命令権を元老院改革派に奪われました」

「命令権を……? 元老院に」


 そんなことができるだろうか? 現代正規軍は指揮系統にうるさい。ここの元老院にアメリカ合衆国上院議員がいたとしても、現場を混乱させるような口出しは拒絶されるのではなかろうか。


「横浜市内で無差別徴用が既に始まっている場合、改革派とヤマダ軍もそれには協力するでしょう。大量かつ即座に兵力を追加するには、それしかありません。そして二〇時間以内に、東京首都圏全域を核爆弾で焼却します」

「横須賀のトマホークに核搭載型は……ぜ、全域?」

「これからの戦況を腐敗堕落した保守派が支配したなら、首都圏焼却はおこなわずゾンビを放置すると思われます」

「そうも大袈裟なことを、なぜゆえ?」

「あなたは誤解しています」


 テレパシー女が努めて冷静な口調で告げた。その声とは別に、強い焦りも脳のどこかで感じられる。視覚や聴覚を介さないテレパシーによる〝直結送信〟と知らなければ、自分の感情と識別ができまい。

 自我を幻惑するようなあつかいづらさもあるテレパシーだが、長所の一つは音声会話の三~四倍の速さで意志が伝達されることだ。音声再生は脳の無意識領域が後追いでやっている作業にすぎないらしく、テレパシー女の言葉が終わる前に、その内容を理解できてしまえる。


「極めて時間が限られているので、重要なことから訂正します。まずゾンビは、CIAの薬物エージェントではありません。高次元のエナジーを操る能力を得た、超自然存在です」

「ああ、そっち系の……ゾンビに嚙まれると感染する」

「嚙まれるだけではなりません。ゾンビが分泌する〈死の溶媒〉を注入する必要があります」

「ゾンビとなるに必要な時間は?」

「犠牲者の身体器官がどこからゾンビ化するかによりますが……野生のゾンビが野性的に襲撃した場合、数日です」


 一嚙みされたら二分でゾンビ。というわけではないのか。


「それなら核攻撃でなくとも……記憶や、知能はいかがなり申す?」

「脳が損傷するかによります。熟練した魔術師は身体に傷をつけず、人間を完全体ゾンビにできます」

「魔術師が、完全体……? それでも、腐って、死ぬのでは? 夏だし。すぐに」


 某学園の校医が言ってた。


「ゾンビは〈死の力場〉をまとっており、成殊(じょうじゅ)した時点で腐敗が止まります。〈死の力場〉によって微生物が死滅するのです」

「ゾンビに近づいたら死ぬと?」

「単細胞生物は即死します」

「人間ならば?」

「個体差がありますがゾンビは密着状態を維持すれば、奈落の近隣世界を含めて、ほとんどの生物を数十秒から数百秒で殺せます」

「強すぎぃ!」


 クマ斬るってレベルじゃねえぞ!

 拙者はゾンビ狩りをあきらめた。楽しい狩りにはなりそうもない。


「体格差もあります。それに〈死の力場〉の効果半径は一メートル未満、……卓越して強力な個体で数メートルです」

「さりとて、強すぎでござる。ゾンビに効果覿面のワクチンがないと人類終了不可避的な」

「ワクチンはありません」

「元老院の所業、危険すぎるのでは?」

「元老院にとって危険はありません。しかし、他の全生物にとっては危険です」

「全生物にとって……ゾンビ菌は、ヒトに限らず、他の生物にも感染すると?」

「ゾンビ化は病気ではありません。分子仕掛の生物が、三次元物質に由来しない力を得て超自然化する、存在昇格です。地球のあらゆる細胞生物はゾンビとなりえ、これを科学技術で治療することは、できていません」


 つまり、アルバト……低予算実写物では不可能な超高難度設定か。どういたそう? 太郎〇。

 接近すれば目につくネズミやゴキブリより、ダニやカのほうが恐ろしい。食物連鎖が、ゾンビが生者を喰うにせよ生者がゾンビを喰うにせよ、ゾンビ化も連鎖させるならば、まさしく世界は破滅の危機に瀕している。

 拙者がなにをするまでもなく、元老院改革派は後始末をやるようだ。

 横浜でゾンビを大量生産し、奈落要塞への収容作業からこぼれてしまった逃げ足や生命力に優れたゾンビになりかけの人間、あるいはかまっている余裕がない小動物を、核爆撃で証拠隠滅をかねて焼き払う。なんら大袈裟な対処ではなかった。


 秘密結社・オクヤマダ(常世の国?)が自前で核爆弾を有しているのか、アメリカ軍に出前を頼むのかといったことは、今は考えてもしかたがない。

 とにかく外へ出て、情報と物資を調達する。

 ここが秩父なら核爆発の熱線は届くまい。一〇〇キロトン弾で、第三度熱傷を負う半径は四五〇〇メートルだ。東京湾岸の住人稠密地を重点して焼却するならば、一メガトン級を数発より一〇〇キロトン級を数十発のほうが適している。核の灰は一時間で届く距離だが、夜明けまでは五時間ある。


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