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ユニバース21



 異世界への行きかたはさまざまに考案され、伝えられている。一昔前にはチラ裏ネタだったものが、今やアニメで流行っている。

 思いおこせば転生ネタは二〇世紀にも、すばらしき某オカルト雑誌で流行っていた。読者からの「地球へ転生しちゃった前世の友達を探してま~す」って感じの投稿だね。

 これが西暦二〇〇〇年前後からか、2ちゃんの釣りネタへと変遷する。使い古された妄想談を一方的にカキコしておしまいのクソスレから、今まさに異世界へ迷いこんでいるんだといった実況ネタが新たに出現した。雑誌投稿よりレスが段違いに早いからのう。

 最近のアニメでは逆に、異世界で普通に生まれ育っていたら地球時代の忌まわしき記憶(オカルト雑誌への投稿とか)が脳へそそぎこまれるネタが増えているようだ。主観的にはどうであれ、ハタから見れば転生というより冒涜的な魑魅魍魎の憑依。陰鬱で排他的で迷信深い中世ヨーロッパに似た社会ならばトルケマダ案件である。

 蜘蛛と梨で、魂を無垢な赤子の如く浄められてしまう転生者wwwww 一仕事やりとげたトルケマダとミゲルの澄みきった聖職者笑顔が最高にゆっくりできる傑作にござる。オヌヌメ。


 こうしたファンタジーに限らず、異世界転生は怪奇現象でも、サイエンスフィクションでもありうる。

 謎の宗教団体(ドミニコ修道会みたいな)が地下施設に作っていた〝穴〟や〝門〟を通り抜けると、異世界へ出てしまう。

 山奥や密林や海底の神殿に、作った宗教団体が何万年か古いだけともいえるが、同じような通路がある。

 タイムマシーンで過去を改変したら異世界になってしまった。

 よりお手軽なものだと、そこらへんの普通の扉が異世界とつながっている。

 神があらわれて異世界へ送られてしまう。

 発光する未確認なんかがあらわれて異世界へ送られてしまう。

 トラックがあらわれて異世界へ送られてしまう。

 ゲームをしているだけで、人間を家畜や資料にしたい何者かがあらわれて異世界へ送られてしまう。


 この世とは、こうも油断ならぬところだったろうか?

 そのとおり、油断ならぬところだ。ついさっきまで、この世を舐めてたわ。

 ゲーム経由の親愛なる同人諸氏は、今が疑う余地もなく完璧に幸福だったとしても、自身の脳に怪しい機械でも埋めこまれていないか一度は調べてみることをオヌヌヌする。

 さて、拙者は停まらない電車に乗って異世界へ来てしまった。幸福な状態ではない。SSM状態にそうろう。八月も終わったから気晴らしに海水欲場でも見に行くか、と思ったらこれだよwww

 海水欲場は、八月三一日で終わりだった。

 まだクソ暑いだろうが。この世は拙者に悪意でもあるのか?

 あるんだろうな。この世にうごめく下劣な汚物どもは、ありとあらゆる悪意に満ち満ちている。そして家畜社会を支配する悪意の汚物どもに気づいてしまった市民を監視し、隙あらば排除し破滅させようと付け狙うのだ。知ってた。

 はあぁーーあ、そろそろ終電だし、帰るか。と電車に乗ったら奥多摩のド田舎みたいな暗闇を二〇分は走りつづけ、ようやく停まったプラットフォームは、地下施設だった。

 長さ数百メートル、高さ数十メートルの構内は、薄暗く人気がない。乗降客も駅員もおらず、案内放送も周辺地図も、時刻表すらない。ただ、駅名標らしきものはある。表示は『ならか 破孔37号 管理駅』。

 駅名標や展示物をよく見ようとして拙者がプラットフォームへ降りると、電車は発進してしまった。車掌が窓から顔を出して安全確認もしないワンマンっぷりだった。


「なんだ、この階段はぁ……? 」


 プラットフォーム中央。展示物の四〇メートルほど前にある下方階段は冷気を噴きこぼし、やけに長い。下へ向かう数十メートル先でねじれながら照明が途絶え、闇に沈んでいる。潮風めいて独特な殠気がかすかに混ざる冷たい空気は、送風ではなく気圧差で上昇しているようだった。

 階段を覗きつつ、拙者はプラットフォームを東京湾方面へ戻った。

 ここは、あきらかに公共の鉄道ではなかった。

 おかしな駅名。不案内な者がうろつくことを想定していない設備。地下鉄としては異様に長い一駅間。客から料金をとる気がない無人営業。

 さらに決定的な根拠は、売店なり自動販売機なり駅の模型なり御当地名産品なり御当地アニメの広告なりが設置されるところに、武器と防具が並べてあることだ。


 博物館めいた間接照明つきオサレ展示台の上に、M16が五挺。

 MP5も五挺。

 正確な商品名は忘れたが、ナントカ303だったような空気銃が八挺。

 鍛造らしいさまざまの刀剣類が数十本。

 薙刀やハルバードが三本。

 長柄の大きな槌鉾が二本。

 工業製品に凝った紋様を塗装した盾が一四枚。

 ヒト用でもウマ用でもサソリ用でもケンタウロス用でもないゴシックな全身鎧が一領。鎧は実用品ではないにせよ目玉展示物らしく、素人にもわかるすさまじい出来だった。出来ておる。出来ておる喃。

 うーんこの無料雑誌みたいな誰でも持ってっていいよ感。最高だが、ここを作った連中はなにと戦うつもりでいるのか。プラットフォーム端の上方階段へ歩きながら、拙者はそう考えた。

 既に襷鞄から出したゴム仮面は着けている。監視カメラへの当然の対応だ。

 プラットフォーム端には、トラックや戦車やトンネル掘削機を載せられる大きさの斜行リフトがあった。その脇に、普通の階段が併設されている。左右壁側が、東京湾方面への地下線路。一〇〇メートルか二〇〇メートルか先に、ポツンと赤い光が灯っている。方位磁針によると南南東。


 まず、上層階から外へ出られるかを確認する。

 次に、ここへ戻り天井に監視カメラがしかけられていないかを調べる。

 オサレ展示台も振動や重量感知器がしかけられていないかを調べる。

 無料頒布物をいただく。

 帰りは歩くとしよう。お宝の重さは苦にならぬものにてござそうろう。

 ここから外へ出られない場合は、駅内を撮影してニ□ニ□動画でさらしてくれるわ。


 近づいた天井は、鍾乳石を模した照明器に覆われ、妖光を放っている。このオサレ照明は天井全面ではなく、下方階段の真上を中心とした数十メートルの円内だけにある。

 他の部分は、素材はアクリルなのか疑似鍾乳石が分光した虹を映す天井も、アーチ状の壁も、プラットフォームも線路も、岩盤を切り広げて形成したように見える。つまり、元は下方階段から疑似鍾乳石群までしかなかった洞窟を、地下鉄駅へと拡張加工したかのように見える。

 上方階段を登りきると、同じ高さにリフトの床面があった。

 いかにも田舎者が愛用していそうな小型トラックが、リフト上に一輌だけ停まっている。まわりには作りかけの柵らしきものが放置され、アオリが下げられたトラックの荷台にも、まだ物資が残っていた。鉄筋の束と、太巻き鉄条網が目立つ。細かい物も積まれているが、ここはプラットフォーム階よりさらに暗く、よく見えない。

 説明をつけるなら、「近くの駅がイノシシの大群にでも襲われ、この駅で柵や罠を自作し、急いで運んだ」といったところか。


 拙者はアロハシャツの胸ポケットから賢い電話を出し、運転席を照らした。

 田舎者が使いこんだ自家用車にしては、車内の私物が少ない。そしてハンドルには、鍵が挿しっぱにされていた。助手席は窓ガラスが下げっぱだ。これだから埼玉人はw ……それとも、ここへ部外者が来るとは思っていない秘密結社員か。

 拙者は助手席側へ歩き、窓から慎重に腕を入れ、座席の装備ベルトをとった。

 ベルトのホルスターに収まっている拳銃は、P95DCだった。そう印字してある。抜いた弾倉には弾体がギッチリ詰まっており、撃ちつくしたから置いていったわけではない。

 ここで特急日曜大工をしていた連中は(今日は日曜だ)、武装秘密結社のくせに動物愛護の志でもあるのだろうか?

 あるいは他に武器を使えない理由があるのか。

 この先のどこかに存在していそうな秘密研究所なり異世界との通路なりに、イノシシなどではなく、傷つけず生け捕りにしたい、しかも予期せぬなにかがあらわれてしまったのだろうか?




一から改稿した(´・ω・`)


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