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13日 通信連絡

 僕とヤコさんは南区のある民家に来ていた。


「本当にここでいいの?」

「でも、ここに書いてある住所はここのはずですけど……」

 ヤコさんの質問に僕は自信なさげに答えた。


 腕輪に書かれていた説明文。

 そこには「話がしたい」という文章に住所、時間が書かれている。

 passというのはパスワードのことだろう。

 そして最後に「通信可能」という文字。


 つまりここに書かれている時間にその場所に行けば、通信ができるということだ。

 中央都市というのはこのセントラルシティのことだし、南区という場所も存在しているらしい。

 僕とヤコさんはその場所を向かうことにした。

 酒場を出て、GMに遭遇しないように周り警戒しながら進む。


 僕はセントラルシティにある民家は風景用、街の雰囲気作りのハリボテだと思っていた。

 しかしヤコさんの話によると違うらしい。

 もちろん中にはハリボテも混ざっているのだが、内装がある家もあり、中に入れるものもある。


 しかもステラ(DO内で使用するお金)で買える家もあるということだ。

 もちろん、かなり値段が張るので、買う人は少ないらしいが。

 おっと話しがそれてしまった。


 とにかく、僕らは腕輪の説明に書かれていた家に着いた。

 一階だけの小さいな家。窓にはカーテンがかかっており、中の様子を伺えない。

 雰囲気からして、人の気配はないと思うけど……。


 ドアノブを握ると、鍵はかかっていなかった。

 まずは静かにドアを開け、そこから顔を覗いてみた。

 ……誰もいない。部屋は一つで机が一台置いてあるだけだった。

 ヤコさんと二人で家の中に入る。


「誰もいないね」

「そうですね。何か道具とかも置いていませんし」

「道具?」

「はい、通信可能っていう文字があったので、通信ができる道具とか置いてあるんだと思ったんですけど」


 部屋の中を見回すが、やはり机しかない。

 時刻を確認すると時計は9時34分を示していた。

 説明に書かれた時間まであと1分だ。


 僕を助けてくれたゴスロリの人がくれたアイテム。

 今現在、他に頼るものがない僕にとって唯一の頼み綱だった。

 きっと誰か、僕の助けになる人と連絡が取れるはずだ。


 コトッ、と音がした。

 時刻は9時35分。

 いつの間にか机の上にタブレットPCが現れていた。


 僕とヤコさんは顔を見合わせ、それをのぞき込む。

 僕は恐る恐る液晶画面に触れる。

 コンピュータで作られた世界で、コンピュータを触るなんて不思議な感じだ。


 画面には、「パスワード入力してください」と文字が出る。

 キーボード画面に文字を押していく。

 m i r a c l e

 miracle、奇跡という意味だ。


 Enterキーを押すと、そのまま画面が移り変わる。

 入力に成功したようだ。

 そして、液晶画面には一人の人物の姿を映し出す。

 

「ふー、よかったうまく繋がりましたわ」

 ゴスロリ衣装の女性、僕を助けてくれた人だった。

「………………」

 なんと言っていいかわからず、黙り込んでしまう。


「どうしました? 音声繋がってないかしら?」

 僕は慌てて答える。

「あっ、大丈夫です。聞こえてます」

「そう、よかった」


「では、改めて初めまして。わたくしはDO運営管理局のマイといいます」

 つられて僕たちも自己紹介する。

「ぼくはクリスといいます」

「私はヤコです」


「この通信もどれくらいできるかわからないので、まず始めに要点だけ言いますわ」

 マイさんは真剣な表情で言葉にする。

「クリスさん、あなたは追われています」


「………………………」

 今までのことを考えればわかっていることだったが、改めて自分の状況を説明されると、何か落ち着かない。


「……どうして」

 声が震えてしまった。

「僕はどうして追われているんですか?」

 僕が追われる理由。その理由が一番知りたかった。


「できればわたくしはクリスさんの話を聞きたいと思っているの」

「僕の、話ですか?」


「ええ、実はあなたについてはこちら――運営管理局側でも情報が錯そうしているの」

 マイさんはため息をつく。


「しかも管理局の中でもGMがそれぞれ独断行動に出て、暴走したり、行方不明になったりしていて、混乱状態で正確な事実が把握できていませんの」

「そんな……」

 管理局でも把握できないなんて……。

 ということは一部のGMによる独断行動によって追いかけられているのか?


 だけど、僕には――

「僕には、追いかけられる心当たりがありませんよ」

 うーん、とマイさんは考えたあと、一つの提案をする。

「では時系列ごとに整理しましょう。みんなで話し合えば、原因がわかるかもしれません」

 そしてマイさんは始めの質問をする。

「まず不具合が起こったのはいつかしら」


 僕は今日のことを思い出した。

 まず13日の午前0時。

 ログアウトできない不具合に見舞われた。

 しかし、あれは確かゲームプレイ中の全プレイヤーがなったはずだし、さらに言えばその不具合はすぐに修正された。

 おそらくこれは関係ないことだろう。

 となれば思い当たるのは、あれだ。


「ゲームプレイ中にモンスターに倒されてゲームオーバーになったんですよ」

 僕はあの時の状況を頭に浮かべながら話した。

「だけどゲームオーバーから復帰したら、いつのまにか6時間くらい経っていました」

 僕の感覚としてはほんの数分くらいだったけど。


「あなたがゲームオーバーになったのはいつかしら」

「えっと、1時ごろです」

「今日……、1月13日の1時かしら?」

「ええ、そうです。そして7時ごろ、ヤコさんに声をかけて気が付きました」

 僕はヤコさんの方を見ると、その通りだというようにうなずいた。


「私はメンテナンス明けに草原エリアにやってきて、人が倒れているの発見して、心配になって声をかけたの」

「僕が起きて、少し会話してあと、ログアウトしようとしたんだけど、できなかったんです」

「そうそう、それで運営管理局への通信もできなかったら、私が代わりに通信をしたの」


 僕たちの言葉にマイさんは少し考えたあとに、口を開く。

「あなたの情報はオペレーターから入って、シモンがそれを聞いたわ。話を聞いたとき、何か様子がおかしい感じだったわ」

 マイさんも今朝のことを、思い出しながら話す。

「だから、少しに気になって、後からシモンが向かった現場に行ったのですが……」


 その後のことはここにいる全員が当事者だからわかっている。


 僕たちの前にシモンが現れて、ヤコさんに刃を振るい、僕にも刃を向けた。

 そして僕が倒されそうになったとき、マイさんが助けにきてくれたのだ。


「シモンはなんというか、偏執的へんしつてきなところがあるのよ」

「偏執的、ですか……」


「まあ、偏執的というか、神経質というか、執着的というか……」

 マイさんは言いよどむ。そして少しためらってから口を開いた。

「……彼はバグとか不具合が許せないの、異常なほどに」


 説明は続く。

「バグや不具合を見つけ、それを素早く対処するから、優秀……なんだけど、それが行き過ぎているっていうか……」

「ということは、バグや不具合を対処するために、僕を攻撃したということですか?」

「……多分、そういうことになるのかしら……」

 重々しい沈黙が流れた。


           †


「そういえば」

 ふと僕は気になっていたこと思い出した。

「痛みがひどいんですよ」

「痛み?」


「えっと、なんていうか。いつもこのゲームをやっているときはチクッとか、ピリッて感じの痛みなんですけど。多分、ゲームオーバーから復帰してから、なんというか、痛みが鮮明になったような気がするんです」

 僕もなんと言えばいいかわからず、たどたどしい説明になってしまう。


「それに、あの男――シモンっていうGMに肩を刺されたとき、すごい痛みがしたんです。今まで味わったこともない。これも不具合に関係のあることなんですかね?」


「……今は痛みはあるのかしら?」

「ええと、大丈夫です。なんかHPを回復したら、痛みもなくなりました」

 このDOはHP(体力値)は時間ごとに自動回復(一分ごとにHPの1%が回復)する。


「もしかして、それかもしれないわ」

 ヤコさんが呟くように言った。

「あなたの追われる理由」

「えっ!」

 僕は思わず声を上げてしまう。


 マイさんは僕たちの顔を見回し、説明を始める。

「DOを始めとしたVRMMOは『ブレインデバイス』を使って、ゲームを行っているわ。その仕組みって知ってる?」

 隣にいたヤコさんが答えた。

「えっと、確か『ブレインデバイス』は視覚に情報を映してプレイするゲームではなく、脳とコンピュータ間の情報のやり取りによって、仮想現実を実現している、でしたよね」

「そう、適当に図にするとこんな感じね」


 ┏━━━━━━━━━┓

 ┃ ゲームサーバー ┃        ┏━━━━━━━━┓ ┏━┓

 ┠―――――――――┨━ネットワーク━┃ブレインデバイス┃━┃脳┃

 ┃ コンピューター ┃        ┗━━━━━━━━┛ ┗━┛

 ┗━━━━━━━━━┛


 マイさんが図を見せる。


「コンピュータが五感の情報を渡し、『ブレインデバイス』がその情報を使用者向けに情報変換し、脳に電気信号として送っている。

 使用者は起こす動作、行動を考えると、その電気信号を『ブレインデバイス』が読み取って、ゲームのコンピューターに送る。

 そしてその動作した結果をまたコンピュータが『ブレインデバイス』を介して、脳に送る。

 そのやり取りを光速に行って、ゲームが進行しているわけ。


 例えば、コンピュータが「右足が痛い」という情報を流したなら、脳が「右足が痛い」と感じてしまうの、実際の肉体に何もなくてもね。

 だけどもし死んでしまうような「苦痛」をゲーム上で体験したら?

 そうしてら現実でも死んでしまうかもしれない。


 だからこそコンピュータ側はある一定上の「苦しい」とか「痛い」などの情報は制限して送ることになっている。重傷のような怪我でも送る情報を変換することで、「苦痛」を変換している。


 それが普通なんだけど、クリス君の場合、その変換が起こっていない。これはDOとしては起こってはならないことなの。

 私の推測だけど、その不具合を隠ぺいするためにあなたは追われている」


「つ、つまりどういうことですか?」

 一気に説明されて頭が混乱する。

「もっと簡単に説明してくれますか」


「えっと、わかりやすく言うわね。あなたはゲームの不具合に当たってしまったけど、それはDO側にとってはあってはならない不祥事で、だから彼らはあなたの不具合ごと隠ぺいするために追っている」

 長々しい説明を一言でまとめた。


「……隠ぺい、ですか」

「そう、もしこのゲームの痛みがそのままになってしまう不具合がおおやけになったなら、このゲームは危険なゲームと見なされて、DOは運営停止、開発会社も処分を免れない。だから会社側としてはあなたの存在を隠ぺいしたいと考える、たとえ殺してでも」


「ちょっと待ってください、殺してでもって話が突飛すぎないですか!」

「脅すようなことを言ってごめんなさい。もちろん、不具合を治すという方法もあるけど、もしそれができないなら、そういう方法とるやつもいるかもしれないわ」


 僕の脳裏に白衣眼鏡のGM――シモンを思い出す。


「あなたのことはゲームのやりすぎの心不全なり、ショック死と説明すればいい。この時代ゲームのやりすぎで死亡なんていう話もないこともない話しなのだし」


 不具合を隠すために殺されるなんて……。

 僕は今の話をどう受け止めていいかわからなかった。

 僕を慰めるように、マイさんは補足をする。


「重ねて言うけど、ほとんど私の推測よ。だけどGMに捕まったら、もしかしたら口封じされる可能性もある。そういうことだけ覚えておいてちょうだい」


 そんなこと言われても、これが自分に実際に起きていることなんて思えなかった、いや思いたくなかった。

 僕が黙っていると、ヤコさんが横から口をはさんできた。


「でもいいんですか?」

 マイさんに尋ねる。

「クリス君に協力をするということは、マイさんは会社に反抗するということじゃないの?」


 そうだ。

 マイさんの言う通りなら、DO側であるマイさんがなんで僕にこんな説明をしてくれるのだろう。

 マイさんは自嘲するように、しゃべった。


「……私だって正しいことについてはわかってるつもりよ。不具合を隠すために、不当に追われたり、殺されることが起こるなら、見ないふりはできないわ」

 マイさんは僕の方を見る。 


「大丈夫」

 彼女は僕を安心させるような笑顔で言った。

「あいつらの思い通りに致しませんわ」


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