勇者は叫ぶ
掲載日:2015/10/31
その鬨の声は、万物を揺らし、世界を騒がした。
古の書物、「ヴァングライ・サキリシアン卿の日誌」によれば、そのような声だったとされる。
その声の主は、『勇者』。
かの著名な魔術師であり、帝国の覇者、万人の王、王の中の王、悪魔崇拝者、天使が祝福せし者と称された通称魔王を倒した者。
その者が叫んだ声である。
現在、その者はいない。
すでに魔王が今いるであろう世界へと出陣を果たしたからだ。
勇者がいるのといないのとでは、世界が変わったかといえば、その答えは『違う』である。
はっきり言えば、それであっても、魔王は新たに生まれ、それでいて勇者も生まれる。
魔王が倒れ、勇者も倒れると、同じことの繰り返しだ。
単にそれだけの話だ。
それでも、勇者は叫びたかったのだろうと、日誌には卿の感想が書かれている。
「それでも、勇者は、己の居場所を叫び、ここにいることを証したかったのではないか。『我は勇者、魔王を倒せし者』と」




