夢のツインタワー(7) 残余財産分配請求権②
20年以上も昔の話だった。私は18歳の時に、この阪神土地企業の自動車教習所に通って運転免許を取得したが、その時、ある人物に口利きをしてもらった。教習所には口利きや紹介などなくても、申し込めば入れるだろうと思えるのだが、当時は申し込みから教習開始まで数ヶ月も待たされるような状況だったため、「即入校」のために口利きを依頼したのであった。
その人物とは地元の県議会議員であった。高校時代の友人の母親が議員の後援会で活動していた。その友人は議員の口利きで即入校できることになり、私にも声をかけてくれたのであった。
友人の母親が事務所に行く日、私も議員の事務所を訪ねて口利きを頼むことになった。
議員の事務所は、当時の私の自宅から近いところにあった。私は、指定された日時に議員の事務所を訪れると、早速議員の執務室に通された。
「君、君があの藤堂さんの息子か。」
議員はどうやら、私の父親と旧知だったようである。しかも、良好とはいいがたい関係であったようだ。不機嫌な表情を隠そうともしない。
「ご存知だったのですか。」
「まあな。」
「それで、今日は何の用件や」
横から友人の母が説明した。
「先日、うちの息子もお世話になった教習所の件です。彼も入校を希望していますので、またお願いします。彼は息子の友人なんです。」
「そうか、そうか。」
「よろしくお願いいたします。」
私も頭を下げた。
「まあ、ええやろ、オヤジと息子は別や。」
よほど私の父を嫌っているらしいが、議員はそういって電話の受話器を取上げると、教習所に電話をかけた。電話に出た相手に私の名前を告げ、入校を希望している旨を伝えている。
「これで大丈夫や。君、今日にでも行って入校の手続をしてきなさい。すぐにでも入校できる。」
「ありがとうございます。」
私がそう礼を言うと、友人の母は、「先生に声をかけていただくとすぐですね。」と持ち上げる。
議員は、「よう言うこと聞くやろ。」と満足そうにうなずいた。
さらに、友人の母に向かって「四季報を貸してみろ」と傍らの書棚にあった会社四季報を手元に持ってこさせる。その四季報のページを開いて、「ほら見てみろ」と何やら指差して自慢している。
私はその時、四季報のページは見ておらず、何を自慢しているのかはわからなかった。ただ、その場面だけは不思議なことに頭の片隅に引っ掛かっていたのである。
それから20数年の時を経て、その自慢の意味がわかったのだった。四季報の主要株主欄には、その議員の資産管理会社の名前があった。
「そうか、あの時、議員は自分が大株主だと自慢していたのか。」
奇妙な縁と言うしかない。議員は数年前に他界しており、議員には子供がいなかったことも聞いていた。資産管理会社は、今は誰が経営しているのであろうか。
その資産管理会社は、相互商事といった。相互商事は、阪神土地企業の発行済株式の約6%を保有していた。これを見て、私はある計画を思いつき、佐々木に電話で相談を持ちかけた。