夢のツインタワー(44) 結審、そして判決へ①
結審、そして判決へ
11月17日になった。いよいよ代表訴訟の最後の公判である。
前々日に、相手方常盤門法律事務所から最後の準備書面が送付されていた。不利な状況を考えれば、よくできた文書ではあった。
株式交換がすでに成立しているのに、買取請求をしているからといって、株主の地位を認めることは制度の趣旨に反する、実質的な完全子会社が阻害されてしまうというのである。
しかしこれが判例を覆すほどのものとは思われない。
準備書面の最後には、私が示した判例について、「自ずと異なるものである」として、同じ条文(商法第245条ノ3第6項)を準用する判例であることから逃げた表現になっている。
私はこれを受けて、訴訟前日に最後の準備書面を作成した。
郵送では間に合わないので、とりあえずFAXで送信し、改めて法廷で捺印した文書を提出することにした。
内容は、
1 被告側が我々の訴訟資格への異議を唱えながら、準備書面の提出を遅らせたことへ抗議し、
2 判例を「自ずと異なるものである。」という主張は、どちらも同じ条文(商法第245条ノ3第6項)を準用するという事実を無視していると非難し、
3 双方の主張が出尽くしていることから、一日も早い結審を求める
ということだった。
この日は、午前11時半の開廷だった。いつもより少し遅い時刻の新幹線で来ることができた。
少し驚いたのは、ONT法律事務所の林弁護士が、わざわざ傍聴に来ていることだった。よほどこちらの公判が気になるらしい。気になるというよりは、心配をしているということだろうか。
もしも代表訴訟で取締役たちが敗訴すれば、会社経営が不公正だったという根拠が我々に与えられる。そうなれば、市場株価こそ公正としてきた彼らの根拠も大きく揺らぐことになる。わざわざ傍聴に来ているのは、その危機感の表れであろうか。
代表訴訟の判決が彼らにとって決して楽観できないこと、代表訴訟で被告が敗訴すれば、買取請求も市場株価を公正とする主張が揺らぐことを彼らが認識しているのではないか。
よほどの危機感がなければ、最大手であるONT法律事務所の多忙な弁護士が傍聴に来るなどということはあり得ない。これまでも傍聴には来ていたが、それは我々との協議のために裁判所や隣の弁護士会館に来ていた「ついで」でしかなかった。
しかし今日は、わざわざ傍聴だけのために来ているのである。これは我々の有利に事が運んでいるということを相手方が行動によって証明してくれているかのようだった。
代表訴訟の被告側代理人弁護士にも動きがあった。前々日に送付された被告側の最後の準備書面では、筆頭の代理人であった大井弁護士が任務から外れていた。
筆頭代理人であった大井正樹弁護士は、これまで公判にも出席しておらず、ほとんど若野、松野、中林の3名の弁護士に任せているのが実態ではあった。
しかし、判決を目前に控えた土壇場になって、急遽代理人から名前を抜いた理由とは、結果が不利と見て、素人相手の敗訴を恐れたものではないのか。自分の名前、経歴に傷をつけないための敵前逃亡ではないのか。そうでないならば、何か他に理由があるのだろうか。
後日、私は念のため、大井正樹弁護士の名をインターネットで検索してみた。驚いた。最高裁判所の元判事だった。弁護士出身者として最高裁判事に就任し、そして定年を迎えてまた弁護士に戻ったという経歴の持ち主だった。いわば法曹界の重鎮、長老であろう。素人二人が、これほどの人物を相手に戦いをして、彼らの主張を「失当」だの「失当というよりもはや欺瞞」だのと激しく攻撃してきたわけだ。素人の無鉄砲は恐ろしい。
これほどの人物だからこそ、敗訴の場合に名前に傷がつくことを恐れ、他の弁護士が気をつかって代理人から外そうとしたのだろうか。もっとも、高齢であるため、体調悪化による退任なのかもしれない。これまで、法廷に出てこなかった理由もそうなのかもしれない。
ともあれ、我々は、ますます有利な状況を感じていた。
この日は、午前11時半の開廷だった。しかしもうこれ以上、審理することはない。
裁判官は、双方に対して主張が出尽くしていることを最終確認し、判決言い渡しを12月22日、午後1時15分と決定し、結審した。




