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夢のツインタワー(39) ONT法律事務所①

ONT法律事務所


さらに1週間ほど経過した7月中旬、ONT法律事務所から内容証明郵便が送付されてきた。

ONT法律事務所は、200名以上の弁護士で組織される国内最大手の弁護士法人である。その前年まで、小野・中島・常木法律事務所という名称であったが、頭文字に短縮してONT法律事務所と改称していた。

「まるで弁護士オールスターズだな。」

内容証明郵便には、観光センター株式の買取請求手続は、ONT法律事務所の神野遵、林大樹という二人の弁護士が会社側代理人を務めると記されていた。代表訴訟で四人、文書提出命令で三人、買取請求で二人。合わせて九人の弁護士の登場である。野球チームのできる人数ではないか。

代表訴訟は、取締役個人に対する賠償請求であるため、形式として会社は中立でなくてはならない。会社の顧問弁護士は、代表訴訟ではどちらの代理人にもなることはできない。

しかし買取請求株主への対応は、会社としての業務だから、もちろん会社の顧問弁護士が代理人を務めることは可能である。むしろ、こういう場合のための顧問弁護士のはずなのだが、なぜかONT法律事務所の弁護士が登場してきたのである。

「顧問弁護士には任せられないということか。」

我々はともかく、植村ファンドが買取請求株主として名乗りを上げている以上、会社側が万全の体制をとってきたということだろう。観光センターが翡翠不動産の完全子会社となることが決まっている以上、実質的には翡翠不動産の意向ということだろうか。

買取請求手続では、金額について会社と株主の折合いがつかない場合、株主が裁判所に価格決定を求めることができる。この買取価格決定を巡る争いというのは、通常の弁護士がめったに経験することのない、特殊な案件といえる。おそらく翡翠不動産は、そこまで考え、観光センターの顧問弁護士には任せられないとして、国内最大手のONT法律事務所に依頼したのだろう。

 相手が植村ファンドとなれば、おそらくONTとしても企業法務に精通したエース級の人材を投入してきているはずである。

 ONT法律事務所の弁護士と日本観光センターの株式評価額をめぐって争う。これこそ、バリュー投資家たる私と佐々木が最も得意とする分野であり、植村ファンドと共に、相手にとって不足のない弁護士と戦えることは、むしろ楽しみであった。

 翌週、私のオフィスに神野弁護士から電話がかかってきた。観光センターの総務担当者には、以前に私の名刺を渡してあったので、それを利用したのだろう。会社側代理人だから、もちろん何の問題もない。

 まずは会って、買取金額について話し合いたいということだった。私の都合を尋ねるので、次回公判は今月28日である、その日以外に東京に行く予定は今のところない、と言うと28日に会おうということで決定した。私と佐々木が東京地裁に行くということで、その隣の弁護士会館に面談場所を用意するとのことだった。


 7月28日がやってきた。この日ほど、東京地裁に行くのが楽しみだった日はない。3日前に地裁と常盤門法律事務所に準備書面(3)を送付していた。

地価図の数字が期待以上だったので、スムーズに書き上げることができた。


 『第1 本件土地価格について

1 原告2名は、本年6月7日付準備書面(2)において約した通り、平成17年度版「東京都地価図」(甲第23号証)を提出する。

2 同資料によって、本件借地権場所の本年3月1日時点での評価額は3.3㎡当り5500万円、1㎡当りにして1666.7万円となることが明らかになっている。

 この評価額を基準に本件借地権の取引価額を算定すると139億1338万円という価額になる。

3 同資料は、本年3月1日時点での評価額であるため、本件取引が締結された昨年7月時点での評価額を類推する。

すなわち平成15年3月1日時点での評価額は3.3㎡当り4300万円(㎡当り1303万円)であり、この2年間に毎月均等に上昇したものとすれば、本年7月1日時点では、3.3㎡当り5100万円と算定される。

この評価額を基準に本件借地権の取引価額を算定すると129億150万円という価額になる。

4 原告2名が主張する適正取引価額126億4977万5千円は、上記資料からも、むしろ保守的な価額であることが明らかとなっている。

5 なお、「東京都地価図」おける平成12年の評価額は3.3㎡当り4200万円となっており(甲第24号証)、平成13年の評価額もやはり3.3㎡当り4200万円となっている(甲第25号証)。上記の通り算定した本件取引時点の5100万円は、平成12年の取引時に較べ、21.4%もの上昇率であることが算定される。

原告2名は、平成12年の取引価額に路線価の上昇率である3.44%を加算した価額を適正と主張してきたが、この上昇率の算定もやはり同資料に比較して保守的であったことが明らかになっている。

6 原告2名は、本年5月19日の口頭弁論における「地価相場を立証する資料を提出せよ。」という裁判長の指示に忠実に従い、取引相場を示す最も信頼性の高い資料として「東京都地価図」を提出したものである。本年6月7日付準備書面(2)を提出した時点では、本年の「東京都地価図」は出版されておらず、原告2名はその内容を知りうる立場に無かった事は言うまでも無い。決して自己に都合の良い資料を探した上で提出したものでないことを付言する。 』


 さらに、以前に被告側から提出された準備書面について反論することにした。私の心には、被告側のある主張が引っ掛かっていた。「会社には、路線価上昇率から算出した価格以外で取引する裁量権があるはずである」という趣旨の主張である。それに反論する言葉が、自分の中に湧いてきた。


『第2 被告準備書面(1)への反論

1 そもそも「路線価」は、「相続税路線価」とも呼ばれるように、相続や贈与における課税の基準として国税庁が発表するものであり、被相続人が急に亡くなった場合など、相続人が納税のため急ぎ資産を処分しなくてはならない場合を配慮し、相場価格よりも低く設定されていることは周知の通りである。 』


 このあたり、「専門家であるあなた方(被告代理人弁護士と裁判官)なら、こんなことは、我々よりもよくご存知でしょう。」というニュアンスを込めている。「いちいち説明させるなよ」と相手方弁護士にあてこすったつもりであった。そしてさらに続けた。

   

『 地価水準に急激な上昇があった場合にも、その上昇率を直ちに反映させることはなく、やや期間を置いて慎重に反映させていくことも、当然配慮されていることである。

 2 原告2名は、路線価のこのような特性を承知した上で、最も保守的な基準として損害賠償額算定の根拠としたものである。

3 被告らは、準備書面(1)14ページにおいて「路線価の変動は価額を決定する際の諸事情の一つにはなり得るとはいえても、価額決定の唯一絶対の基準となるものではない。」などと主張している。これは、路線価の上昇率よりも実勢相場価額が上昇している本件土地において、路線価上昇率を上回る価額で取引する理由として相当な主張であり、実勢相場に反して取引価額を下落させた事実を正当化する根拠になり得ないのは当然である。

被告らによるこれらの主張は、失当というより、もはや欺瞞というべきものである。 』


 この辺りは、書いていて自分で感動してしまった。心の中の引っ掛かりが取れたような快感があった。

 この準備書面の下書きを佐々木にEメールでファイル送信したとき、彼も「感動します!」と小泉首相のような感想を送ってきていた。


『第3 被告準備書面(3)への反論

1 被告らは、準備書面(3)において、原告らが提出した甲第22号証を基に取引価額が適正である旨を主張している。しかしながら、甲第22号証は、あくまで平成15年3月1日時点での評価額であり、それを以って平成16年7月の取引価額の正当性を主張する根拠とはなり得ないことは、当然である。原告2名は、平成15年から16年にかけて、都心部の所謂一等地の相場水準が上昇していたことを繰り返し主張しており、甲第23号証によって、同主張は完全に裏付けられることとなった。


2 被告らからは、これまで地価相場水準を示す資料は一切提出されていない。「東京都地価図」よりも信頼性の高い地価相場を示す資料を提出できないならば、被告準備書面(3)において甲第22号証について論評・主張されたごとく、甲第23号証について論評・主張されることを求めるものである。


3 よって原告2名は、被告らによる甲第23号証についての論評・主張を求め、同論評・主張に対し、原告として具体的な認否・反論を行なうこととする。』


 被告側は、我々が提出する東京都地価図について、その信頼性を否定、矮小化するだけである。

 「では、第三者が作成した地価水準を示す資料として、さらに信頼性高い資料を提出してみよ」と言いたくなるのは当然であった。

 また、2000年の取引の根拠とした不動産調査書は、佐々木によってすでに評価額を低く設定するために恣意的に作成されたものと見事に説明されていた。被告側弁護士は、その反論文を送付してきていたが、またその再反論を佐々木が作成し、準備書面の後半部分に記載していた。


 その日は、被告側弁護士の都合によって、午後4時の開廷だった。午前11時から、まずONT法律事務所の神野、林弁護士と弁護士会館で面談する予定だった。


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