表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/47

夢のツインタワー(37) 最後の株主総会

最後の株主総会


 第3回公判の翌週、私はいつものように新大阪6時40分発の新幹線のぞみに乗り、東京に向かった。

 日本観光センターの上場企業としてはおそらく最後になるであろう株主総会は、6月24日午前10時から、場所は前年と同じ八重洲の富士野ホテルで開かれる。

 午前9時45分に総会前の待機の部屋で佐々木と待ち合わせていた。

 受付に行くと、ちょうど植村ファンドの垂水副社長が出席の手続をしていた。 私は垂水氏に続いて受付を終え、待機の部屋に入った。佐々木はすでに来ていた。彼と軽く挨拶を交わし、垂水氏が来ているよと目で示し、やはり挨拶を交わした。


 総会が始まった。我々は最前列に陣取った。議長席に近い場所から、垂水氏、私、佐々木の順番である。社長の佐藤が議長を務め、例年通りに議事が進行していく。

 監査役からの「業務及び財産の状況につきましては、いずれも適正であり、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する事実は認められません。」という監査報告には、我々から失笑と野次が飛んだ。

 「悪い冗談でしょう。」

 「ふざけるな、恥を知れ!」

 「ハッハッハ、笑わせるな!」

 その後、質疑応答になった。真っ先に質問に立ったのは、垂水氏だった。ファンドからの質問や面談要請を拒否していることを非難し、さらにオフィスで我々に見せてくれた質問状の内容について、次々と質問していった。

 佐藤は、昨年同様、ノラリクラリとはぐらかしながら、ほとんど答えにもならない返事をしている。納得できない垂水氏は、その態度を非難していたが、逆に「不規則発言はお止めください」と制止されてしまった。

 いくら質問したところで、まともな返答は期待できない。私は、回答を得ることよりも言質を得ることを考えていた。垂水氏の質問が一段落して、挙手をした。

 「株主番号12番の藤堂です。我々が提案した解散の議案について、あなた方が否決を求める理由として、翡翠不動産と共同事業に取組むことで、解散するよりも大きな利益が得られると説明しています。解散すれば、株主には1株当り1000円以上配当できると我々は公約しているのです。存続がそれ以上に利益になるならば、株主には1000円以上価値をもたらすように交換比率が決まらなければおかしいではないか。会社と株主は利害が対立する関係ではなく、一致する関係のはずです。なぜ解散よりも利益の大きい株式交換をするのに、株主の利益は解散よりも低くなるのですか。」

 この質問には佐藤もやや返答に窮したようで、専務の河内に返答をさせた。

 「先ほどからも説明していますように、交換比率は第三者の監査法人に算定を依頼しており、その算定に基づいて決定しています。」これもやはり説明になっていない。

 その後も垂水氏、私、佐々木の三名が交代で厳しい質問を浴びせたが、やはりノラリクラリの説明に終始した。

 議案は、予想された通り、会社側提案がすべて可決され、我々の提案は否決された。

 私と佐々木、そして植村ファンドの垂水氏の三名は、最後に株式交換の議案に反対の意思を表明した。商法に基づき、事前に反対の意思を書面で通知してあるので、さらに総会に出席して反対の意思を表明すれば買取請求権を確保する要件を満たすことになる。

 会社側は、議案反対の意思表明を記録する書類を用意してあった。垂水氏、私、佐々木の三名が書類に署名した。

 いくら怒鳴っても仕方がない。これからは代表訴訟と買取請求、二つの法的措置により、観光センターと役員たち、さらにそのバックにいる翡翠不動産を追い詰めなくてはならない。

 総会は終了した。私は、垂水氏に小声で「お疲れ様でした。」と挨拶した。憮然たる表情だった垂水氏も、「お疲れ様でした」と言葉を返してくれた。何を言っても無駄という徒労感のためか、さすがに疲れた表情をしている。

 この日はちょうど、話題の新興企業が株式を買い集めたラジオ放送会社の株主総会も開催されていた。

 そちらにはたくさんの報道関係者が集まり、そのカメラの放列の前で、植村社長は「鍵を握る人物」として注目を集めていた。そして、「一番得をしたのは、この国です。株式の持つ意味を考えるのに、これほどの機会はなかったでしょう。」と大見得を切っていた。

 同じ日に別の株主総会で、副社長が苦渋の表情を浮かべていた事実は、我々以外の誰にも知られることはなかった。

 垂水氏と挨拶を交わして、総会会場を後にしようと背中を向けた。背後では、憤懣やるかたない佐々木が、社長の佐藤に罵声を浴びせていた。

 「おい佐藤、恥を知れ、この野郎!オマエは馬鹿だ!」

 私はわざと大きな笑い声を上げながら、会場を後にした。

 笑いながらも、気分のよかろうはずはなかった。このオトシマエは、代表訴訟と買取請求でつけるしかない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ